魔物と、そのパートナーに会えば、ここからどうするべきか。
それは、まるで運命に決められているかのように、決定されていたも同然だった。



「一応言っておくけど…本を渡しなさい」



戦わずに済む方法は一つ。
本を渡して、燃やしてもらうこと。
そうすれば、戦わないことにはなるが魔物とはさようなら。
魔物は王にはなれずに、ただ魔界に帰るだけ。
パートナーと魔物はもう二度と、会うことはないだろう。

王になるための戦い。
それを放棄するのは簡単なこと。


シェリーと名乗った女性は、己の本を持ちながら通る声でそう言い放った。
青い瞳の奥は、どこか嫌悪に似た感情を宿している。
人にではなく、魔物に対しての。



「魔物なんか、全部さっさと帰っちゃえばいいのよ」


「……あんた、魔物のこと…随分嫌ってんだな」



嫌悪?
いや、それを通り越した憎悪。
瞳は輝くどころか、鈍く、どす黒く染まっていた。

それを読み取るのは容易い。
が顔を顰めてそのことを言えば、シェリーの目は一層鋭くなった。



「本を渡さないなら…戦うだけよ」


「…………」



魔物が嫌いな理由は話さない。
そのまま戦いを始める勢いで、本をしっかりと握りしめる。
黒い本は、その色を持って光始めた。

は反射的にの手を握りしめた。
離れないように。

離されないように。



「…本は、渡せない。まだと別れなくないから」


「すみませんが、僕もまだ魔界に帰るわけにはいきません。とまだ離れたくないですし……王にしてはいけない、魔物を知っているので…彼が帰るまでは」



理由を口にしつつ、は同時に握っている手とは逆の手で、銀色の本をしっかりと抱えた。
燃やされないように、渡さないように。
隣に立つが、よりも一歩前に出る。

攻撃が来ても、すぐにを庇えるように。



「…とにかく、ここにいては家を壊しかねますので…近くの海辺に行きませんか?誰もいませんかし、場所も開けてますから」



だが、ここで戦っては民家に被害が出る。
それこそ、魔物の力によって、だ。

が笑顔でそう促すと、シェリーが真剣な顔で頷く。
どちらかというと、ブラゴは戦えるならどこでもいいらしく、フンと鼻で笑うだけ。
とにかく、移動してくれることにはホッと安堵の息を吐いた。


本をしっかりと抱きしめ、二人でゆっくりと歩き出す。
その後ろを、シェリーとブラゴがついてきてくれる。

しばらく無言が続くうちに、海へと辿り着いた。



「…本当に本を渡す気はないようね」



後ろの足音がピタリと止まる。
それに合わせて、も止まり、ゆるりと振り返った。

いつでも戦える距離。
それを自然に取っている。
戦う気満々の二人に、は茶目っけのある笑顔で口を開いた。



「勿論、あげませんよ」


「…そう」



シェリルの瞳に力が宿る。
途端、手の中からあふれ出す黒い光。
の手からも銀色の光がつられるようにあふれ出す。



「ブラゴ、行くわよ」


「フン、さっさとやれ」


「…


「おう。…いくぞ」



心の準備も、戦いの準備も出来ている。
後は、お互いタイミングを逃さないように一つ一つの動きを読み取る。
その上で、どう動くか先読みしつつ戦っていく。

まずは、最初の動きが大事。



「…『レイス』!!」


「『スウィラナ』!!」



シェリーが唱えた次の瞬間に、が高速移動の技を唱える。
二人にめがけてきていた見えない何かの塊を、を片手で抱えながら避けた。
それは近くにあった木にめり込み、意図も簡単に倒れていく。



「うおわ…っ」


「フム、凄い威力ですね」



倒れた木を、二人で振り向く。
攻撃を受けた太い幹の部分はバラバラ欠片になってしまっていた。
青くなるとは逆に、は真剣にそれを観察する。


(…普通の攻撃ではあんなに幹が抉れてバラバラになることはない…)


ただの力の攻撃ではない。
何かが加わっているように見えた。
高速移動中も、その考えと相手の動きだけは確認する。

ブラゴが二人目がけて突進してくる。
高速移動の時間はまだあるから、当たらないとしっても術がどう出てくるか。



「『グラビレイ』!!」


「っ!!」



避けたところで、ズン、という大きな音が聞こえる。
目に見えない何かが、ブラゴの手から出た。
次の瞬間。



「砂が、沈んだ…っ!」



の声の通り、穴が開くかのように、砂が一斉に沈んだ。
半径2m程だろうか。
綺麗な窪みに、の瞳が鋭くなる。



「…なるほど、重力ですね」


「フン…分かったか」



ブラゴがニヤリと笑う。
ということは、の言ったことが合っているということ。

高速移動の時間が終わる。
と共に、は片手をブラゴに向けた。
その瞬間を、は見逃さない。



「『ウィグル』!!」



手の先にいたはずのブラゴがすぐに横に避けた。
風がその場所で、砂を巻き上げて切り裂く。
ブラゴはそれを見て、鼻で笑った。



「そういうお前は風か」


「はい。察しがいいですねブラゴ」



二人で不敵な笑みを浮かばせ合う。
それはまるで、喧嘩友達と喧嘩をするような表情に見える。
数週間前の、と金山のような。

たった少し前を思い出されただけなのに。
こんなにも懐かしく、感じてしまう。



っ!」


「っ!!」



呼ばれて、ハッと意識を戻す。
目の前にブラゴが殴りかかっているのを見て、は反射的にそれぞれ避けた。
彼の拳が空を切る。

しかし、がバラバラになったことを見逃す相手ではない。
すぐの方向転換して、拳が体制の整っていないへと向かってくる。



「『ウィグル』っ!!」



の手がどこに向かっているかなど、ここからは見えない。
だが、はハッキリと呪文を唱えた。



「ぐっ!!」



ザシュザシュッ

風の刃はしっかりとブラゴに攻撃が当たった。
運がいいと言うべきか、それともの準備が整っていたと言うべきか。
動きが鈍ったと同時には立ち上がって体制を整え、が蹴りをブラゴに喰らわせる。
しかし、それで倒れる相手ではない。



「…フッ…面白い」



それどころか、ニヤリと笑っている。
も素直に笑顔で応えた。



「ブラゴ、貴方の相手は俺でしょう」


「まぁな…だが、本を取ることが優先だ」


「それは、俺を倒してからにしてください」


「フン、そうでなくては面白くないな」



お互いにまた戦闘態勢に入る。
いつでも技、身体的な攻撃をも繰り出せれる。

一瞬、硬直状態が続いた。










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