シェリーに攻撃を喰らわせたと思い、ゾフィスとココは去って行ったという。
高笑いをしながら。


彼女の前に立ち、攻撃を背中で受け止めたブラゴに気付くことなく。



「…爆風で見えなかったってこと?」


「そうとも取れますね…ですが」



辺りは火事で、煙が立っていた。
そして、ゾフィスの攻撃で爆風が辺りを包み隠していたとも言える。
はそれで納得したが、は目を鋭くして考えを巡らせた。



「…ですが?」



それでは納得出来ない、と言わんばかりの声に、首を傾げる。
しかし、それはだけではなくブラゴもそう思っているようだ。
恐いほどの漆黒の瞳が、薄らと細められている。
逆に、銀の瞳は優しく説明するために、ニッコリと微笑んだ。



「シェリーさんやブラゴが来たとき、僕は何となく魔物が来た、ということを感じていました」


「…うん、そうだな」


「僕が敏感だった、ということもあるのですが…。ブラゴは此方に送られてきた子供の中でも、際立って強い……まず近くにいて気付かない気配の持ち主ではないんです」



チャイムが鳴る前に、魔物が来たことを悟っていた。
それは、魔物が魔物を呼びよせるように出来ているから。
しかし、それ以上にが魔物に対する気配に敏感であると思っていた。

だが、ブラゴの強さは他の魔物より逸脱しているぐらい強い。
その気配を隠さずに出してるため、ただでさえ分かりやすいのに更に輪をかけて分かりやすいという。



「…その説明は俺を褒めているのか?」


「アハハ、それ以外に何がありますか?」


(…いや、絶対からかってるな)



ギロリと睨むブラゴを他所に、がいい笑顔で微笑んでいる。
これは、いつもの微笑みではない。
は心から彼の言葉を否定しつつ、彼らの言いたいことを考え始めた。

もし、の言うとおり、ブラゴが魔物の気配を隠すことなく持っていたなら。



「…もし、そうなら…ゾフィスがブラゴに気付かずに去っていくのは、おかしいってこと?」


「はい、。正解です」


「…そういうことだ」



ブラゴの気配があるのなら、気付かないわけがない。
気付いて、尚、そのまま去ったことになる。
の出した答えに、もブラゴも頷いた。



「あちらがまだブラゴにパートナーがいなかった、ということを知らなかったにしろ…気付かない振りをして立ち去ったということは」


「言うなれば…小者だろうな」



魔物二人の顔が、ニヤリと歪む。
血気盛んな笑みだ。

こう見ると、二人はどことなく似ている。
お互い性格は違う。
だが、この笑みはほとんど同じに近い。



「…で、結局のところ強そうでした?」


「小者だ。それ以上でもそれ以下でもない」


「ハハ、やはりそうですか」



ポカンとするの傍で、二人は怪しく笑うばかりだ。
…気も合うらしい。
小者、と言い切ってから、ブラゴは「ただ」と付け足した。



「シェリーの言っていた通り、あの人間の性格を変え、操っているようなら少々厄介だがな」



眠っているシェリーに、目を向ける。
彼女は穏やかに、寝ているだけ。

はその姿を真剣な眼差しで見つめた。



「…そうですね。小者であっても、その力は厄介でしょう」


「…許せないしな」



力がなくても、心を操る力があればそれを補うことも出来る。
人間が非力でも、その力と知力さえあればいい。
将棋のように、詰んでいけばいい。

また人間を操ることで、出来ることが増えてくる。
シェリーを、心から傷つけたように。


それが、許せない。
は、グッと拳を握って、見たこともない魔物を憎む。
その様子を見てから、ブラゴは遠い空を見上げた。



「小者なりに細工してくるとも限らん」


「おや?それは僕達に忠告してくれてるんですか?」


「言ってない」


「アハハ、相変わらず照れ屋さんですね」


「……」



ブラゴの忠告に、がニヤニヤと笑う。
即刻否定しても彼には暖簾に腕押し。
確かにブラゴはそういう性格なのかもしれないが、からかいすぎではないだろうか。
は少し、ブラゴに同情した。

しかし、それは一瞬。
の銀色の瞳が鋭くなる。



「…何にせよ、そんな卑怯な者を王にするわけにはいきませんね」


…」


「ただ、シェリーとブラゴが彼を仕留めたいでしょうから…此方からは手出しはせず、協力するという形にしようと思います。…どうです?


「………」



の意見に、は黙って彼を見つめた。
銀色の瞳は、真っ直ぐ、迷いはない。

それをじっと見つめてから、ベシッと漆黒の髪を叩いた。



「当たり前だろ」


…」


が嫌だと言っても、俺は勝手に手助けするつもりだったよ。勿論、仇討はブラゴやシェリーに任せてな」



叩かれてポカンとするに、はニッと笑ってみせた。

シェリーの話を、想いを聞いた。
涙を見た。

それは、にとって衝撃だった。
話の内容も、彼女の想いも。
泣き叫ぶ姿も


過去の自分に

似ている気がした


助けたい、と

思った




「俺はシェリーとブラゴ、お前達に協力したい。勿論、俺が一方的にするだけだけどな」


「……僕も同じ考えですよ」


「ん、じゃあ二人、同じ考えだな。…ということで、勝手に協力させてもらうぜ」


「ですね」



相手の返事などいらない。
ただ、自分達が勝手にやろうとしているのだから。

二人はお互いに笑いあう。
そして、瞳に宿る光が、二人共増していた。
ブラゴはそれを見て、また外へと目を向けた。


空は赤く染まっていく。
同じように、海も赤くなっていく。
夜が、近くなる。



「フン…つくづく、甘い奴らだ」



彼の独り言は、宙に消える。
玄関の方から、「ただいま〜」という男性の声が聞こえてきた。
が嬉しそうに顔を出す。


(…甘くなったのは、環境のせいか…それとも、人のせいか…どちらにせよ、丸くなったものだ)


ブラゴの脳裏には、未だ孤高の風の姿がある。
漆黒の髪を靡かせて、鋭い銀の瞳で世界を見下げる。

他者など信頼せずに、戦い続けていた。
気がつけば、彼に憧れる人物達が集っていた。
しかし、彼はそれに気付くことない。
ただ、戦い続けて。


その中で、君臨していた

孤高の、風











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