「いやー、も良かったな〜、友達が出来て!」


「うんっ」


「あ、いえ、私達は別に友達というわけでは…」


「さ、じゃんじゃん食ってくれ!兄ちゃん特製のビーフシチュー沢山作ったからな!!」



帰ってきた兄は、シェリーとブラゴを見るなり友達だと確認してしまい。
それを否定しないで、は笑顔で促した。

となると、兄のテンションは急上昇。
ルンルンで料理を作っていき、今、五人で仲良く夕食だ。
ちなみに父は今日遅くなるのだそう。



「いやぁ!まさかこっちにきて初めての友達が魔物とパートナーなんてな!さっすが俺の妹と弟!」


「だろ〜!しかも可愛いし、格好いいし」


「いや、だから友達では…しかも魔物のことを知って…?」


「アハハ、ええ。僕のことを喋っちゃいまして。…あ、ブラゴお代わりですか?」


「………」


「な、なんで私が眠ってる間にこんなに慣れ合っているの…?」



シェリーが起きてからすぐに御飯になったため、彼女は今の状況についていってない。
しかし、彼女を他所に全員が話や御飯を進めているため、彼女の疑問に答える人はいない。
特に魔物二人は食べることに必死だ。
(魔物だから、かは知らないが、彼らはかなりの量を食べていた)

ケラケラと笑い合う兄妹は、確実に彼らを友達に仕立て上げていた。
否定しようにも、そんなタイミングが掴めない。



「本当にシェリーちゃんは美人だな!いやぁ、頭も良さそうだし」


「でしょ!メルアドも交換したんだ〜いつでも連絡取れるよ!」


「そっか〜!また日本に来たときはココに寄っていいからな!の友達だったら大歓迎だから!!」


「あ、いえ…お、お構いなく…」



メルアドの交換は、目覚めたときにすぐに聞かれて、反射的に教えてしまったものだ。
それにしたって。

いつの間に友達に。
いつの間に、仲良く御飯に。
いつの間に、家族ぐるみの仲に。



「いや〜でもブラゴ君見てると、会ったばっかのときのを思い出すな〜」


「え、を?」


「そうそう〜。今こんなツラしてっけど、会った時は不良みたいだったんだぜ」


「もう、その時の話はやめてくださいよ」



そして。
目の前の家族はどう見ても、血が繋がっていなかった。

銀色の髪と紅の瞳は、日本人には少ないだろう。
だったら、血が繋がっている家族ならば同じ姿をしているようなものだが、何のパーツも当てはまらない。
どう見ても、赤の他人だ。


でも。



はなー、めっちゃツッパっててさ」


「やめてくださいってば!」


「マジで!?そんときのを見たかった…!」



下手な家族よりは。
大切な、幸せそうな家族だ。

自分にはなかった、温かな家族。


(…貴女に何があったかは知らない…)


血が繋がっていない家族。
何故かが消えることを、酷く恐れていた。

それは


(…貴女も、深い闇のトンネルを抜けてきていたのね)


悲しい過去がある。
それは、どんなものかは知らない。
だが、酷くそれを感じさせられた。

あの紅の瞳の

強い光は



(…そして、きっとと呼ばれる魔物も)


銀色に光る

細められた瞳の奥には



きっと、闇がある

そして


救ってくれた、光がある





「あ、シェリー。お代わりいる?今のうちにやんないと、とブラゴが全部喰っちゃうぞ」



だからこそ、こんなに人に優しくなれるのかもしれない。
お節介に、手を出してきたのかもしれない。
しかも友達だと言い張って、御飯まで食べさせて。

信頼するには足らない、今日会ったばかりの人間と魔物だというのに。


(…いえ、私も甘いわね…彼女達に本音を暴露して、泣いてしまうなんて)


だが、此方も同じこと。
彼らに負けず劣らず、油断して泣いてしまったのだから。
しかも、眠ってしまっていた。



「……喰わないのなら、俺が貰う」


「どうする?シェリー」



ブラゴもすっかり馴染んだようだ。
というのも、食事につられていたのかもしれない。

は素直に尋ねてくる。
このままだと、シチューはブラゴの腹の中。
彼がこんなにも食べるということは、確実に毒などは入っていない。


それに



「そうね…貰おうかしら」


「あいよっお兄ちゃん、お代わりはいりまーす」


「おうよー!」



こんな温かい気持ちは、久しぶりだ。
ずっと目的に追われ、敵を追いかけて余裕がなくなっていた。
必死に、暗闇が続くトンネルの中に、ココの姿を求めてた。



「はい、お代わり!」


「…ありがとう」



敵地でこんなに、心が安らぐなんて。
彼らもまた、敵だというのに。


はシェリーの顔を見て、目を見開き。



「…何よ」


「ん?あー、ううん!シェリーの笑顔初めて見たからホッとしただけ」


「っ!?」



心の底から嬉しそうに笑った。
逆に、シェリーの表情が固まる。


(笑顔?…私は、笑ってはいけないのに…)


ココが不幸せなら、自分もそこに入る。
その覚悟でここまで戦ってきたというのに。
ささやかな幸せに、微笑んでしまうなんて。

罪の意識が湧く。
表情が、すぐに暗くなる。



「…シェリーちゃん?」


「あ、ごめんなさい」



今度はの兄が顔を覗いてくる。
いきなりのことに、表情が整わない。
すぐにビーフシチューを口にして、誤魔化す。

しかし彼は、そんな彼女の姿に苦笑を零した。



「…良く分からないけどよ…今ぐらいは、息抜きしな」


「え?」



何を言いだすのだろう。
反射的に顔を上げると、新という名の青年はポンポンと優しく彼女の頭を撫でた。



「ずっと自分を追い詰めてたら疲れるし。…ちょっとぐらい、息抜きしても誰も責めやしないさ」


「…っ」



気持ちを、読み取られた。
いや、読み取ったのではなく、ただ勘付いたのだろう。
シェリーの表情一つで。



「何、故…」


「あー。会ったばっかのと同じ表情だからよ〜。そう感じただけなんだけど…余計なことだったらごめんな」



問えば、新は撫でていた手を止めた。
間違いだったら、余計なことをしたと思ったのだろう。

過去のと同じ。
何があったのかは知らないが、彼女も自分を責めていたのか。
そしてきっと、彼によっても救われたのだ。

今、自分が一瞬だけでも救われたように。



「…ありがとう、ございます」


「いいや。さ、どんどん食べて!」


「はい」



温かいビーフシチューが、心にまで沁みてくる。
彼らの笑顔が、心を穏やかにしていく。










「…ありがとうございました」


「いいよ!また食べにおいで〜!めっちゃ美味しいモノ作るからさ」



とにかく、御飯を終えて二人は帰る、というので見送り。
シェリーはやはりお金持ちのようで、玄関に黒いベンツが迎えに来ている。
新が笑顔で送り出す隣で、も一緒に立つ。



「じゃあシェリー、ブラゴ。何か情報掴んだらメールするな」


「…期待しないでいるわ」


「アハハ、まぁいいけどね」



の言葉にシェリーが小さく微笑む。
だが、それ以上にが笑った。
軽く握手を交わして。



「では、ブラゴ。元気で」


「…フン」



逆に、微笑んでいるに、ブラゴがそっぽを向いて先に歩いていく。
車の中へとさっさと入る姿に、も苦笑を零す。
シェリーは少々、怒っているようだ。



「ブラゴ!…本当にもう」


「あはは、いい魔物じゃん」


「…とにかく、私も失礼するわ」


「ええ、シェリーもお元気で」



シェリーも小さく頭を下げて車へと歩いていく。
手には、ちゃんと黒い本が抱えられている。
足取りは、しっかりとしている。

また暗いトンネルの中へ入ってしまっても、歩いていけるぐらいに。



「…


「ん?」


「何ですか?」



彼女がピタリと止まって、クルリと振り向く。
青い瞳は二人を見つめている。
が首を傾げていたところで、瞳の力は増した。



「…次に会うときまで、負けるんじゃないわよ」



忠告。
いや、それに似た激励。

ブラゴも、に視線を注いでいる。

彼も、同じことを言いたげに。



「…うんっ!」


「ええ、また会いましょう、お二方」



返事をして、手を振る。
すると、彼女は笑顔だけを残して車の中へと戻っていった。

黒い車は、エンジンを噴かせて去っていく。
潮風が吹き抜けていく。
賑やかだった空間が、静かになっていく。



「…いい友達を持ったじゃねーか」


「うんっ」


もな」


「アハハ…そうですね」



三人の笑い声が、潮風に乗る。

また見つけた幸せの欠片。



そして消える、幸せもある












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