|
一週間もあれば 慣れますよねそりゃ 日常ってさ、日頃の常って書くけどさ、そこんとこどう? 「いってきまーす」 「いってくるヨ〜!」 「はい、いってらっしゃ〜い」 玄関で万事屋の三人と定春を送り出し、は中へと戻る。 日課となった家事を淡々とこなして。 終わったらのんびりと地図と愛読書となった求人情報誌を見比べる。 お茶を啜りながらのこの時間が一番好きだ。 お昼はこんな時間を過ごすのが日課。 ついでに万事屋の留守番も兼ねている。 「ん〜…こことか雇ってくれないかな〜。地図的にも迷わなさそうな位置にあるし(重要)」 履歴書を書きながら、お茶を啜る。 目に入ったのは居酒屋。 時給やら何やらを計算すれば、どうにかここの家賃は払えそうだ。 お茶がなくなったところでもう一度、お茶を淹れる。 目ぼしいところにマークをつけたりしていると、チャイムがピンポーンと良い音が鳴らした。 「はいはーい。あ、長谷川さんだ〜」 「よ、ちゃん」 玄関を開ければ、サングラスがお似合いの男性。 いつしかこの万事屋の名刺をくれた、曰くかっこいいおじさん。 彼には随分、お世話になっていた。 数日前にスーパーに買い物に一人で行ったときに道に迷ったときにも助けてくれた。 求人情報誌をくれたのも彼だ。 というか、毎日道に迷っているのを見兼ねて、毎回助けてくれるのが彼だ。 笑顔で迎えると彼も、笑顔で入ってくる。 「お茶でいい?」 「いやぁ、悪いね」 「いやいや、こっちこそ。お茶菓子がなくてさ…あ、酢昆布ならあるよ?神楽ちゃんのだけど」 「いやいやいやいや、使っちゃだめでしょソレ。辛辣毒舌チャイナ娘に殺されちゃうよ、おじさんが」 「あははは」 お茶を出して、二人でのんびりとソファへと座る。 世代が全然違うのだが、ここ一週間で幾度も会っているためか友達のよう。 お互いに笑いながら求人情報誌を開いた。 どうやら彼が神楽の言っていたマダオ、らしいのだが。 「マるでダめなオっさん」から取られたらしいが、には一体どこがダメなのか分からない。 「長谷川さん、今日は万事屋に依頼?」 「あー、一応ね。あるコンビニの留守番頼もうと思ったんだけどさ」 「マジで?喜ぶよきっと。詳細教えてくんない?伝えておくからさ」 「お、じゃあそうしてもらおっかな〜」 こうやって仕事をも持ってきてくれる格好よくていい人なのになぁ。 とかそんなことを思いながら、ガタガタと銀時の机の上を漁る。 彼の言っていることをメモするぐらいは出来る。 その間、長谷川さんはがマークしている場所をジッと見つめている。 どうやらそっちに興味を持ったらしい。 「お、ここにしようと思ってんのかい?」 「あ、うん。場所的にも楽かなぁと。どう思う?」 「迷わなさそう…ではあるか。うん、いいんじゃない?ここおじさんも良く行くし」 「本当?じゃあ、今度面会にでも行こうかな。採用されたら長谷川さんに一杯おごるよ」 「マジで!?いやァ悪いねェ。じゃあおじさんは応援するから!めちゃくちゃ応援するから!」 ある意味現金。 しかし嬉しそうに笑う長谷川に、も自分のことのように笑った。 本当に友人ですかアンタら。 新八か銀時がいたらそうツッコミそうだ。 お茶を飲みながら「また迷いそうになったら、長谷川さんに頼もう〜」とのんびり言う。 ヘラヘラと二人で笑って過ごすのも日課になりつつある。 しばらくすると、「じゃあそろそろ俺行くわ」と長谷川が立ちあがる。 出ていく彼を見送って、再び留守番開始。 洗濯物を取り込んでたたんで仕舞う。 それが終われば、スーパーへと買い物だ。 財布を抱えて、今日のおかずのメニューを考える。 勿論、片手にはちらしだ。 戸締りはしっかりとして、階段をトントンと下がっていく。 すると、スナック開店準備中であるお登勢と視線がかち合った。 「おや、じゃないか。買い物かィ?」 「こんにちは〜。ハイ、買い物です」 「じゃあ今日の夜、ちょっと手伝ってくれないかィ?キャサリンが腹下しちゃってねェ」 「あ、ハ〜イ。じゃあ後で行きますね」 「頼んだよ」 暇な日は大体、このスナックで働かせてもらっている。 バイト代もくれるし料理も教えてくれるし、下手したらお酒も奢ってくれる。 全くもって、幸せだ。 手を振って訪れる、平和な町並み。 いや、本当はきっと平和なんかではないのだろう。 夜の町だからこそ過去を捨てている人達も多々、そして手を悪に染めてでも生き抜こうとする人達も多々だ。 見かけだけの平和なんて、そんじょそこらに溢れかえっている。 だからこそ、小さな幸せがとても大きい。 …のだろう。 (…幸せな、日々だな) 銀時、新八、神楽、定春がいて。 多くの人たちがいて。 あちこちでボケやらツッコミやらが起きていて。 日常が、幸せなのだ 「あ、ヨ!〜!!」 聞きなれた声に、はフワリと笑って振り返る。 飛び込んできた元気の良い少女を抱きとめた。 「ゴフゥゥゥ!!神楽ちゃん」 「いやいやいやいや、無理して止めなくていいから!」 彼女の飛びつきは、牛以上のタックルだ。 見た目は少女だというのに、どうやら天人最強だといわれるの夜兎族なためか、力がとことん強い。 いつも持って歩く傘も銃が仕組んである。 勿論、陽の光が当たらない星に住んでいたため日光に弱いから傘を持ち歩いてるだけだったりするのだが。 とりあえずそんな彼女のタックルは、下手したら骨も折れそうなほど強い。 血反吐を吐きそうになりながらも、は嬉しそうに止める。 遠くから新八のツッコミが入るが聞こえていない。 腕の中には自分より少し小さな少女の神楽。 向こうからのんびりと歩いてきているのは新八と銀時だ。 「仕事は?もう終わったの?」 「ハイ、どうにか犬探しは終了です」 「お疲れ様」 ならば、今日の依頼はこなせたのだろう。 小さな頭を撫でながら、遠くから来る二人を笑顔で迎える。 見た目は少年だというのに、笑顔は母親のよう。 のんびりと「おお」やら「はい」やら返事する二人の傍ら。 神楽は抱きついているの胸元のゴロゴロとした感触に首を傾げた。 「…?何アルカ?これ」 小袖の中から感じられるそれ。 コロコロと転がる何かに、は微笑んでそれを取り出した。 首から下げられた、十の珠からなる首飾り。 初めて見る色とりどりのそれに、全員が目を丸めた。 「俺の宝物の一つだよ。綺麗だろ?」 ビー玉のようなそれは、どこか焦げている。 燻ぶっていて、決して綺麗とはいえないその首飾り。 興味を持ってじっと見つめる神楽と新八。 逆に銀時はうっすらと眉を潜めた。 「コレがの宝物アルカ?」 「うん。後もう一つは風呂敷の中にあるけどな。廃刀令になってるからつけれないんだけど」 「へぇ。もう一つは刀なんですか」 「そ。それも綺麗だよ〜?黒と白の対の刀でさ。帰ったら見せてあげようか?」 「あ、是非!」 一つはこの首飾り。 もう一つは、この廃刀令の世の中では出せない二つで一つの刀。 どちらも大事な大事な宝物。 見たい、と言う神楽と新八に、は心から嬉しそうに微笑んだ。 「宝物ってことは、何か理由があるんですか?」 「ん、勿論」 そう言ったときの笑みは。 言葉としてはハッキリしていたのに。 一瞬にして過去を映し、切ないものになる。 その表情に、三人は言葉を失った。 二つの宝物 それは過去大切だった宝モノの残像 名残り そして、己の罪の証 どこか儚げに微笑んで、はその首飾りを優しく撫でた。 一つ一つ、珠を撫でて。 輝かないそれを。 灰色の紐までも。 慈しんで 愛しんで 悲しむように 「…そうですか」 そんな表情されたら、もう追及できない。 銀時や神楽が何も言えずにいる中、新八だけが小さく言葉を返した。 過去は断っても断ち切れない。 己が背負うのは、守れなかった数多の命。 どんな幸せの日々を送っても、決して消えやしない。 はその首飾りをまた中へと戻して、いつもどおりに微笑んだ。 「さて、買い物に行こうと思うんだけど。三人も行く?ご飯のリクエスト聞くよ?」 普段通りに戻るの姿に、神楽と新八は安堵の息を零す。 そして各々、食べたいものを連呼し始めた。 笑顔があふれるその場所で、銀時だけが顔を歪ませていた。 一瞬だけ過去を映していた紫苑の瞳が、自分と同じモノを一部見せたから。 そして、知らないモノも見せたから。 「銀時は?」 考えながら、どうやらいつの間にか灰色の頭を凝視していたらしい。 名前を呼ばれてハッとすれば、紫苑の瞳はいつもの輝きを取り戻して見上げている。 何も言わない銀時にはまた笑顔で問いかけた。 ご飯、どうする?と。 そう言われれば、答えることは一つだけ。 「宇治金時丼」 と甘味大好きな糖尿病一歩手前の青年の正しい回答。 アンコがたっぷりのった丼を反射的に思い浮かべて口を開くと、を除いた二人の少年少女の顔が引き攣った。 勿論、は大爆笑だ。 「あははは、そりゃ定食屋で食ってよ〜さすがに無理だよ。無理無理。リムリム」 「いやいやいやいやリムリムって何ですか。っていうか定食で出るの!?そんなん出るの!?終わりだよ!その定食屋終わりだよ!!」 「おま!新八ィ!宇治金時丼馬鹿にすんな!!そんなんだから目が悪いんだお前はァァ!!」 「目が悪いとか関係あんのォォ!?」 「じゃあ私、酢昆布丼がイイネ!」 「ねェよ!そんなんねェよ!!」 「あはははは」 こんなやり取りが行われる。 これが日常だから、こんなにも笑える。 (幸せ、だな) 風がの髪を撫でていく。 心は宝物の由縁を思い出したときよりもすっと軽くなる。 それは過ぎ去った時間よりも、これから来るであろう時間に期待させられる。 もしかしたら、もっと沢山のことが日常で起こるのかもしれない。 とにかく今日の晩御飯はどうしたらいいものか。 彼らの言葉を聞きつつ、本気で宇治金時丼でも作ろうかと考えながら、四人で歩を進めた。 |