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酔いは酔いでも 乗り物酔いはしょうがないよ 頭がカラでも色々入るもんじゃん!凄いよ!その分全部抜けてくけどな!! いい雰囲気は一瞬にして崩れる。 辰馬がご飯を食べ終わった途端に船酔いを起こしたためだ。 格好悪いことこの上ない。 フラフラしながらトイレへと向かう彼にはケラケラと笑って送り出した。 しっかりと犬を引き摺りながら移動する彼だったからでもある。 アナウンスが告げるのは、窓から地球が見えるということ。 窓際に座っていたから見える、青い宝石。 「…おー、綺麗」 小さな星のあの中で、自分達は精一杯生きている。 小さな悩みを持ちながら。 過去を引き摺りながら。 一生懸命に。 ツと撫でる、紅のTシャツの下にある首飾り。 燻ったガラス玉で作られた、歪な形のそれ。 (見せて、あげたかったな…) 広い広い世界を。 輝く未来を。 誰に、とは言わないけれど。 ガチャリ。 この宇宙船の中にはない、金属音が鳴る。 何の音だっただろうか。 聞いたことのあるそれを見るために、窓からは視線を外した。 「動くなよ」 黒光りするそれは自分に向けられている。 低い声は、威嚇すら感じられた。 目の前には銃を向ける、覆面をした男。 耳に届くのは、あちこちから零れた悲鳴。 しかし、はこの状況が何だったのか、真剣に考え始めた。 犯人を、思い切り見上げて。 「…なんだっけか、コレ。…えーと、えーと…ハイ?何とかだったような…。ハイテンション?アテンション?ぷりーず?」 「違ェェェ!ハイもなくなってるじゃねェか!!俺達は」 「キャアアアア!!ハイジャックよハイジャックだわ!!」 「あ、それだ」 「そうだ!」 悲鳴の言葉に納得してしまった。 しかもツッコミ役に一役買ったハイジャックの一人が頷いている。 緊張感も何もあったもんじゃない。 勿論、この空間だけだが。 「これよりこの船は我々革命組織『萌える闘魂』が乗っとった!貴様らの行く先は楽しい観光地から地獄に変わったんだ!」 遠くからリーダーらしき人物が大きな声で正々堂々と喋っている。 勿論、顔は見えないため本当の正々堂々とは言えないが。 それにグループ名が少しバカくさい。 恐怖に慄く人々をよそに、は一人もぞもぞと後ろを振り返った。 それに敏感に近くの犯人が銃を改めてつきつけた。 「動くなっつってんだろ!」 「いや、そうだけどさ。話をしてる人の方を見ろって言われたじゃん。振り返らないと話聞けないじゃん」 「あ、そりゃそうか。しょうがねェな」 近くのハイジャックの一人に了承を得て振り返る。 自分の近くにいるのは一人。 向こうにいるリーダーと、他三人。 そのうち一人は後ろにしっかりと張り付いている。 客席にいるのは全員で五人だろうか。 状況を確認しつつ、リーダーの話も聞く優等生的なお客である。 恐怖を全く感じずに、のんびりと彼を見た。 「宇宙旅行などという堕落した遊興にうつつを抜かしおって、我らの星が天人が来訪してより腐り始めたのを忘れたかァ!!」 革命組織というと大体同じことを論じる。 今の幕府や世界に不満を持って、力でどうにか捻じ伏せるとか。 「この船はこのまま地球へと進路を戻し、我が星を腐敗させた元凶たるターミナルへとつっ込む!!」 自爆テロとか。 ただのテロとか。 それでしか、彼らに対抗する術はないと思っている人々。 「我等の血肉は燃え尽きるが憎き天人に大打撃を加えることができよう。その礎となれることを誇りとし、死んで行け!」 彼らだけでやればいいというのに。 他の人々を巻き込んで行う。 そこがテロの嫌なところだ。 状況を理解したところでは一つ溜め息を吐いた。 どうしたもんか、と。 このまま地球へとつっ込まれるなんて死んでもゴメンだ。 可哀想な被害者になんてなりたくない。 まだ彼にも会っていないのに。 「オイ、話は終わったぞ。戻れ」 「いやいや、まだ他に演説ないかな〜とか。こんな機会ないし」 これはウソ。 は笑顔でそう答えた。 勿論、本当は状況を判断し、動けるときに動けること。 必ずチャンスが訪れる。 「演説が好きなのか?お前変わってんな。じゃあ俺が演説してやろーか」 「え、出来るの?じゃあお茶カテキンの凄さについてどうぞ」 「何その無茶ぶり!」 一応後ろを向いていたいために、横にいた人に対しては無茶ぶりを送った。 その人は真剣なのか「え、茶カテキン?えーと、体にいい?茶に含まれてるとか?」と色々考えている。 はそれをすんなり無視して後ろを向いている。 何故なら、後ろに見えるから。 この時を変えてくれる、知っている人たちが。 「ほァたァァァ!」 少女の声と、銃を持った人を蹴り上げた音が聞こえる。 視界には倒れるハイジャックの男。 騒ぎに気づいた他の犯人がそこへと集まり始めた。 「な、なんだ?」 「さて、なんだろうな」 機会はすぐにやってきた。 はニッコリと笑って、すぐ傍の慌てている犯人へと手と足を伸ばした。 「よっ!」 手で銃を叩き落とし、蹴りを腹部へと入れる。 男はその一撃ですぐに気を失う。 すぐにそれを確認して、適当な紐で手足を縛った。 少し向こうではリーダー含む三人の犯人がバタバタと倒れた姿が目に入った。 それを倒した、三人の後姿も。 「うおおおスゲー!」 「侍!ラストサムライ!!」 「ブラボー」 歓声があがる。 はしゃがんでいるし、静かに犯人を倒したために気づかれていない。 だからこそ、は小さく微笑んだ。 声は彼ら三人に与えられていた。 まさか同じ船に乗ってるとは思わなかった。 昨日も一緒にいた。 決めポーズを取っている三人に。 が、犯人はもう一人いた。 彼らの後ろ、 はそこで声を反射的にをあげた。 「三人とも、後ろ!!」 そう言ったところで遅い。 弾が装鎮される音が大きく響く。 後ろから銃が、彼らに向けられていた。 「あれ?」 何とも情けないが、そうとしか言えない。 決めポーズもどちらかというと変なポーズにしか今はなっていない。 「ふざけやがって、死ねェェ!!」 引き金が引かれれば、死んでしまう。 は反射的に走った。 速く、そして確実に三人の中で一番近くにいた神楽をとっさに抱えた。 呻き声は無視。 せめて、三人を抱えたかったが小さな自分の体では無理だと悟ったがための選択。 「ぶっ!!」 覚悟を決めて目を瞑るに聞こえたのは、知らない男性のやられた声。 何事かと目を開ければ、開かれた扉にやられた犯人一人。 そしてそこから現れたのは、先程までの隣に座っていた人物。 は、しばらくポカンとしてから、ようやくホッと安堵の息を零した。 「あ〜気持ち悪いの〜。酔い止めば飲んでくるの忘れたき〜アッハッハッハッ」 「…辰馬…」 「おお〜。あり?何?なんぞあったがかー?」 「…アハハ!辰馬が来たから解決だよ。さっすが頭からトマトジュース流すだけあるわ」 定春に噛み付かれたまま、暢気に声をかけてくる友人。 しかもまだ酔いがまわっているようだ。 全く何があったか分かっていない。 はそれにまた笑って、神楽から身体をよける。 少女の青い瞳は驚きに満ちていた。 「!?」 「ああ?なんでお前がいンだここに」 「え、さん!?あれ?確か友達と会うって…」 まさかいるとは思わなかった、とばかりに新八が声をあげる。 銀時も思わぬ声に、口を出してきた。 が、当の本人はケラケラと笑ってるだけだ。 「よ。三人は旅行って、ここだったんだな〜。一緒なら一緒に行けばよかった。そしたら道に迷わなかったのに」 「あ、また迷ってたんですか…」 「地上最強の方向音痴だからな、エヘン」 「だからそれ威張れないですって!どんだけ引っ張るんすかそのネタァァァ!!」 やはりツッコミがあれば話が進む。 笑いながら、は傍で転がる犯人達を適当な紐で縛り上げた。 これでもうテロなど出来まい。 一安心だ、と思った途端だった。 「定春ぅ!!」 神楽の目が定春へと向けられた。 頭に齧り付いたまま離れないそれと、齧り付かれたままの辰馬に。 青い瞳が鋭くなる。 「このヤロー定春ば返すぜよォォ!!」 「あふァ!!」 「あ、蹴られた」 神楽の蹴りが辰馬の顎にクリーンヒット。 ドアへと頭を打ち付ける姿と、神楽が定春へと抱きついている姿が見える。 どうやら定春が誘拐されたと勘違いされていたらしい。 というか。 「あ、やっぱり定春に似てると思ったら定春だったんだ」 「ええええ。定春じゃないですか。まんま定春じゃないですか」 「いや、もしかしたら似てる犬かな〜と。定夏とか」 「春から夏に変えただけェェ!?」 今更ながら確認。 やはりあの大きさで可愛い白い犬は定春しかいないらしい。 新八のツッコミに笑い飛ばす。 いつもと同じ会話に溜め息をつきながら、銀時は倒れた男の顔を覗いた。 見たことのある、その顔を。 「こっ…こいつァ」 「銀さん、知り合い?ってゆーか、さんの友達ってこの人ですか?」 「うん。そら銀時も知ってるだろーさ。グラサンかけてるからパッと見、分からないけどな〜。…あれ、ぐらりんだっけ?」 「何ですかぐらりんって」 倒れている人物は完璧ノックアウト。 やはり銀時も分かったらしい。 そしてと見比べて。 思い切り深い溜め息を吐いた。 「…よりによって問題児二人で旅行とか……」 説教のようなものが始まるのだろうか。 呆れの入った言葉に新八が顔を顰めた途端、船内には大きな爆発音が響いた。 |