走馬灯



もしそれがあるんだとしたら













黒い世界で輝くには己の熱を光に変えて輝かせねぇと光らないぜ!













「決めた。わしゃ宙<ソラ>にいくぜよ」



満点の星空が世界を照らす。
真っ暗なそこで、多くの色が輝いて。
ちっぽけなこの寺に集う自分達はもっと小さい存在でしかない。

小さい、小さい存在なんだ。



「このまま地べたはいずり回って天人と戦ったところで、先は見えちょる。わしらが、こうしちょる間にも天人はじゃんじゃん地球に来ちょるきに。押しよせる時代の波にはさからえんぜよ」



大きな宙が上に広がっている。
沢山の、小さな光を輝かせている。
小さな命を沢山宿している、母なる宙。

自分達はこんなにも小さい。
小さい自分達は、小さな星で一生懸命にもがいている。


小さな土地で

小さな命を輝かせて


死んでいくんだ




「こんな戦はいたずらに仲間を死ににいかせるだけじゃ。わしゃもう仲間が死ぬとこは見たくない」



毎日毎日、やってくる天人と戦って。
戦って戦って戦って。
敵は尽きることなくやってくるのに、隣を走っていた仲間は次々と死んでいく。
時は、止まってなんかくれない。


まるで仲間の死は

置き去りにされてしまったよう


あまりに小さい存在だからと

流されて、消えてしまったかのよう




「これからはもっと高い視点をもって生きねばダメじゃ。そう、地球人も天人も、いや星さえも見わたせる視点がの!」



流れる時は止められない。
どんなに戦っても、仲間は死に、敵はやってくる。
大切で、小さな世界を守ろうと小さな土地で戦う自分達ではダメなのだ。
この星々のように小さく輝いているのではなくて。
この大きな宙のように、包み込むようなものでなくては。



「だから、わしゃ宙へいく」



未来を見据えて。
大きな視点で全部を見据えて。
止めることが出来ない流れならば、その流れを読んで舵を取ろう。

大きなここから、大切な人たちを護ろう。



「宇宙にデカい船浮かべて、星ごとすくいあげる漁をするんじゃ」



大きな宙で、大きな視点で。
自分が出来ることは何だろうか。
大切なモノを守るには、どうしたらいいのだろうか。
小さな小さな石ころでも大切なモノならば。


それが沢山あるのなら

星ごと、すくいあげよう



「どうじゃ銀時。おんしゃこの狭か星にとじこめておくには勿体ない男じゃけー。わしと一緒に…」



屋根の上で語っていた自分の隣には、グッスリと気持ち良さそうに眠って鼾をかく銀髪の男。
彼に話しかけたというのに、全く聞いていなかったということだろうか。
そんな様子を見れば、笑わざるを得ない。
ある意味、ヤケな、笑顔で。



「アッハッハッハッハッハッ!天よォォ!!コイツに隕石ば叩き落としてくださーい。アッハッハッハッ」



笑い声が綺麗な星空の下に響く。
屋根の下には多くの仲間達が眠ったり休養を取ったりしてるのに、だ。
しかし、彼はそんなことを気にする性格ではない。
それに、戦に疲れて全員熟睡中だろう。
だが、迷惑なことこの上ない笑い声に引き寄せられて、一人が屋根の上へと顔を出した。



「辰馬〜」


「おお、じゃなかか。眠れんがか〜?紅人は?」



顔を出したのは幼い女の子。
声も幼いもの。
彼女はニッコリと笑って辰馬を見つめた。



「兄ちゃんは眠ったら朝まで起きねーよ〜。寝る子は育つから。あれ?寝る子は粗末?


「アッハッハッ!粗末じゃ粗末。ほんにはバカじゃの〜」


「アハハハそっか〜粗末だったか〜」




夜の闇に溶け込みそうな黒い、細い長い髪を後ろに一つに流すように束ねた少女。
身長は子供のように低いが、年齢は十代前半。
この戦場には珍しい幼い子供だ。

紫苑の瞳がクリクリと動く。
黒い長着、その端は不ぞろいにギザギザ。
鎧は簡易なものだが、素材はしっかりしている褐色。
ズボンは赤茶色、ブーツは紅。
ベルトと腰紐はブーツと同じ色を宿し、黒い刀を携えている。

辰馬と違う意味で笑いを絶やさない彼女。
灰色の嵐と呼ばれた兄妹の妹、黒の風。





見慣れた少女の出現に、辰馬は笑みを深める。
そして自分の下へと手招いた。



「わしと一緒に星でも見ゆうか?」


「見る見る〜」



はチョコチョコと屋根の上を歩き、兜をかぶったままの辰馬の胡坐の上に乗っかった。
こんなコミュニケーションも日常そのもの。

二人もある意味兄妹のようなもの。
共通点として頭がカラだとか、笑いっぱなしだとかがあるためだろうか。
ある意味、近い性格なのだ。
当然のように、辰馬もを抱えて宙を見上げた。

満天の星空。
はそれの中のある星の羅列に指をさした。



「辰馬、アレ!あの星座、お茶みたいだ!ほら、漢字の!


「アッハッハッ!じゃあアレはの星座じゃの〜。わしのはアレ、女ちゅー漢字に似てるアレじゃ


「アハハハ!女好き〜。じゃあ銀時の糖って漢字は…アレだ!小太郎は…ヅラだから片仮名のヅ?」


「おお、じゃあアレにしちょーぞ!高杉のは何がか〜?」


「晋助?晋助は〜…分かんないな〜……けもの?あれ?ケダモノ?ノケモノ?ナマケモノ?」


「アッハッハッハッそげんだったら片仮名のケでいいろ〜。紅人は珈琲の文字でよか〜」



くだらない会話。
それでも幸せの時間。
どうやっても漢字で星座を作るとか無理だというのに。
というか漢字自体あんまり知らないくせに。
二人は笑いながら宙を見上げていた。


お互いの存在を、お互い体温で感じていた。

生きている、ことを。
傍に、いることを。



「辰馬〜?」


「何じゃ〜?」



のんびりとした談笑。
また違う星座でも見つけただろうか。
笑う辰馬に、問いかけてきたは後ろから自分を包み込む腕を、ギュッと握り締めた。
離れたくないように、だが、いつでも離せるように。
ゆっくりと、口を開いた。



「…漁に出たら、俺の星座をつってきてよ」



いつも聞かせない弱弱しい声。
辰馬は驚いて、思わずその後姿を凝視した。

の表情は見えない。
此方に背中を向けて、胡坐の上に座っているからだ。
顔は真っ直ぐ、大きな宙へと向けられたまま。
紫苑の瞳にはキラキラと輝く星々しか映っていないのだろうか。

手は、しっかりと自分の腕を握っているのに。



「大きな大きな宙に出てさ、んでもってこっちに戻ってきたときに、俺の星座を見せてよ」


「……、おんし聞いて……」


「兄ちゃんのも、銀時のも、小太郎のも、晋助のも、辰馬のも。ここにいる皆の星座、どーんとお土産に持ってきてよ」



辰馬の話を遮って。
決して彼を見ることなく。

それでもしっかりと、言葉を紡ぐ。
辰馬はその声に、口を閉ざすしかなかった。

心の声が、聞こえたような気がしたから。








大きな宙に浮かぶ星々。
そこから紡がれる形。
勝手に星座にして、名前をつけて。
小さい存在をも、愛しきものにしてしまおう。


俺達は


小さいけれど


小さいけれど



懸命に、輝いているから



君が迷わないように




ずっと、輝いているから






「待ってるから」






忘れないで

一緒にいたこと


忘れないで

背中を押すから



泣かないから

待ってるから

無事で

笑いながら



でっかい漁を、してきてよ辰馬













…」



腕を握る手が静かに離れていく。
それが永遠の別れのような気がしてならない。
反射的に声をかけるも、反応がない。

小さく焦りを感じて、の顔を覗き込む。
すると、あの弱弱しい言葉がウソだったかのような表情であった。



「…ぐぅ……茶カテキン……」



言いたいことを言い切ったのか、腕の中の少女はグッスリ眠ってしまった。
しかも寝言まで言い切って。
感動のシーンが冷めるのを感じながら、辰馬は声をあげて笑った。



「結局茶じゃなかか〜!天よォ、こいつにも隕石、銀時よりも小っこいの落としてやってくださーい!アッハッハッハッハッ」



銀時よりも小さい隕石、なのは嬉しいことを言ってくれたから。
大きく宙に笑って、胸にある少女を抱きしめる。
冷える夜によって、風邪を引かないように。


夜が明けて、紅人が「妹がいねェェ!」と声を荒げるまで。
腕の中から、離しはしなかった。


この小さな存在を

温かい体温を


離したくなかったのだ


















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