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大丈夫じゃないやつが 実は一番しぶとい だから、俺天才とか思ってたら悪い点数取ったりするんだってば 「お、目ェ覚めたか」 「……うぃ?」 目前には銀色の髪。 死んだ魚のような紅の瞳。 ぼんやりする中で、それだけが目に入った。 頭にはひんやりとしたタオルがかけられている。 まだ虚ろな瞳を覗き込んで、目の前にいた銀時は一つ溜め息を吐く。 そして、ペットボトルに入った水が手渡した。 「オラ、飲め」 「…茶カテキンがいー」 「こんなときに我侭抜かすな。酒がない店に行って「酒だせ」って騒ぎだすオヤジがオメーは。オラッ」 「むぐっ!」 無理やりペットボトルを口に含まされて飲まざるを得なくなった。 いきなりのことに鼻からも水が出そうになる。 ジタバタしたところでどうしようもない。 反射的に飲み下すしか、生きる術はなかった。 「ブハーッ!ゼハーッ!ゲホッゲホッ!」 「おし、これでいいだろ」 「し、死ぬかと思っ…ゲホゲホッ」 先程まで炎天下で死にそうになったというのに、水分摂取で死にかけるとは。 咳き込みながら、は辺りを見回した。 助かった、と微笑み溢れるそこに、神楽も定春もいる。 「…そか、助かったんだっけ」 そういえば倒れる寸前に宇宙船を見た気がした。 がぼんやりとそう言うと、銀時は溜め息を吐きながら外を見回した。 「辰馬の会社の船だとよ。快援隊だとかの私設艦隊。貿易とかして商いしてるんだと」 辺りを見れば成程、一つの大きな船の上だ。 宙の商いの船。 安堵するは、大きく息を吐いて微笑んだ。 「アハハ、そっか。じゃあ辰馬に助けられたんだな」 「いや違うだろ」 「え、そうだろ?宴会隊っていう施設を辰馬が作ったわけだし」 「宴会隊って何。快援隊だ快援隊!そんなんあったら俺が入りたいわ」 普段通りの会話に、また一つ安堵を覚える。 水分も取ったし、冷たいタオルが熱を吸収してくれる。 銀時の話を聞きつつも、ゆっくりと体を起こす。 立ち上がりながらも、全員が元気そうだということを確認する。 そして、グラリとまた歪む視界。 「うおっとぉ」 病み上がりだからか、まだクラクラする。 よろけて壁に身体を預けつつも、座りはしない。 視界がようやく定まったところで、もいつもの微笑みへと戻す。 「うし、大丈夫」 「ほんとかよ」 「アハハ!銀時よりは大丈夫だよ〜だって俺頭爆発してねーもん」 「これは元からだァァァ!お前世の中の天パを敵に回すぞ。ってか回した!」 「アハハ〜ゴメン」 「顔が謝ってねェェェェ」 銀時の話を聞きつつも、は一歩踏み出す。 神楽と定春の様子を直接見たいがためだ。 冷たいタオルで己の顔にあてながら歩く後ろを、銀時がゆっくりとついてくる。 「オイコラ、全世界の天然パーマに謝れコノヤロー」 「だからゴメンって〜」 「あ、ヨ!気がついたアルカ?」 「聞けェェェェ」 また普段通りのグダグダな会話が始まる。 あまりにも天然パーマに煩い銀時には、定春の噛みつきの制裁。 笑う姿あり、叫ぶ姿あり。 そんな彼らの姿を、辰馬と新八は遠目から見守っていた。 「お、も大丈夫そうじゃな」 「本当ですね。よかった」 そこから聞こえた笑い声に、は笑って手を振る。 元気そうだからこそ、だ。 辰馬と新八はそれに応えて、同じように手を振ってみせた。 彼らの姿を見て、辰馬は静かに口を開いた。 「…わしも銀時やヅラたちと天人相手に暴れ回っちょったが、どーにもわしゃ戦ちゅーのが好かん。人を動かすのは武力でも思想でものーて利益じゃ」 辰馬はそこから視線を外してのんびりと、青い空を見上げた。 太陽輝くその向こうに、大きな宙がある。 その向こうには、過去が映っている。 それを見るような遠い目。 「商売を通じて、天人、地球人双方に利益をもたらし、関係の調和ばはかる。わしゃ、わしのやり方で国を護ろうと思っての〜」 新八はただ静かに聞いていた。 先程まで頭がカラだと思っていた人物の考えを。 銀時との知り合いだとだけ思っていた彼の話を。 ただ、じっと。 「ヅラはヅラで社会制度ごと変えよーと気張っちょるよーだし、高杉の奴は幕府倒すため色々画策しちょるときーとる。みんなそれぞれのやり方でやればいいんじゃ」 それぞれのやり方で、護ろうとしている。 どんなに過激でも、どんな形でも。 思いは、一緒。 大切なモノを 護ろうとしてる そう、思いたいと 「ヘェー、みんなすごいんですね」 新八はただただ、感嘆の声をあげるしかない。 彼の視線は神楽に樽ごと水を飲ませている銀時の姿。 そして隣で笑って定春を撫でるの姿。 「ウチの大将は何考えてんだかブラブラしてますけどね」 「アッハッハッハッ、わし以上に掴みどころのない男じゃきにの〜」 辰馬に比べたら、銀時は面白いくらい全く何もやっていない。 幕府に対抗するわけでも、意見を唱えるわけでもない。 ただただ、万事屋として適当に働いているようにしか見えない。 また、考えを持ってることすら危うい。 全くもって謎なのだ。 そんな彼の姿を、辰馬は笑い飛ばした。 その通りだと。 「じゃが人が集まってくる男ちゅーのは、何かもってるモンぜよ。わしやヅラの志に惹かれて人が集まっとるよーに」 この会社が出来たのも、人が集まったから。 攘夷の活動が出来るのも人が集まるから。 彼らを魅了し。 バラバラな人をまとめ、同じ方向へと進むよう促すだけではなく。 共に、歩もうと思わせる人物がいるから、活動が出来る。 「おんしも、あのチャイナさんも。奴の中の何かに惹かれて慕っとるんじゃなかか?」 ダメ人間だけど。 糖尿病寸前で、やる気なさげで。 パチンコやったり酒呑んだりでオヤジだけど。 何故か人が集まるのは。 自分達がいるのは。 「…んー、何だかよくわかんないですけど…でも」 自信がないが言えることはある。 不確定な要素でしかないけれど、言葉には出来ない何かが心にある。 新八がそれをどうにか出そうとゆっくり口を開いたところで。 遠くから悲鳴が聞こえた。 いや、結構近くだろうか。 信じられないのは、目の前で何かが巻きついて悲鳴を上げている人間がいること。 さすがに先程までの会話を続行するどころではない。 新八はすぐに目の前の状況について口を開けた。 「あれ?何?ウソ?何?あれ?」 「アッハッハッ。いよいよ暑さにやられたか。何か妙なものが見えるろー」 目の前の状況は一体何なのか。 折角救われたと思っていた視界に見えるのは何なのか。 耳に届くのは一体何のための悲鳴か。 それを素直に受け入れるのは、難しい。 この二人も例外ではなかった。 「ほっとけほっとけ、幻覚じゃ。アッハッハッ」 「いやちょっと坂本さん。何か巻きついてますけど」 「ほっとけほっとけ、幻覚じゃ。アッハッハッハッハッー」 「うわァァァ!!坂本さァァァん!!」 受け入れないまま、辰馬が急に浮いた。 体に巻きつけられた何かによって、船の外へ。 触手のようなそれはあちこちに伸び、人々を攫っていく。 新八の叫び声や、あちこちからあがる悲鳴に銀時とは目を見開かせた。 「辰馬!?」 「オイオイ、何だ何だ」 手摺へと身を乗り出して見る。 下から伸びる沢山の足。 それに捕らわれた人々。 中に、辰馬がいた。 「あれは砂蟲」 船の乗務員である一人が口を開いた。 笠をかぶり、亜麻色の綺麗な長い髪を靡かせて冷静に見る。 そして、何事もないようにのんびりと口を開いた。 「この星の生態系で頂点に立つ生物。普段は静かだが砂漠でガチャガチャ騒いじょったきに、目を覚ましたか…」 「ちょっとアンタ、自分の上司がエライことになってんのに何でそんなにおちついてんの!?」 どうやら辰馬の部下らしい。 普通なら取り乱すだろうが、彼女は至って冷静沈着。 どちらかというと溜め息の方が出ていた。 「勝手な事ばかりしちょるからこんな事になるんじゃ。砂蟲よォォ、そのモジャモジャやっちゃって〜!特に股間を重点的に」 「何?何の恨みがあんの」 いや、冷静でもなかった。 何の恨みがあるのか、逆にやっちゃってと言い切った。 しかも男の象徴を。 新八もツッコミが大変そうだ。 しかしそんなことを言ってる場合ではない。 はすぐに船内を走り始めた。 濡れたタオルだけが、のいた場所に残る。 刀があればどうにかなる。 しかし、自分の刀は家の中、風呂敷の中で熟睡中。 今、彼らを助けるには何かが必要だ。 刀に変わる、何かが。 「ごめん!その鉄の棒貸して!」 「あ、はぁ、どうぞ」 適当な従業員をつかまえて、許可を得る。 そこらに転がっていた鉄の棒を持って、手摺を飛び越えた。 「ごめん、砂蟲!ちょっと痛いよ!」 「さん!?」 新八の声を後ろに、は手に持った鉄の棒を上に構えて。 ある一本の足めがけて振り下ろした。 ドン、という音が響き、その足から人が離される。 それを見やってから、己も地面へと着地した。 「た、助かっ…」 「船へ!」 助かった、と零す人にはすぐ船を促す。 何せ足の数が多い、油断は禁物だ。 そう言ってる間にも、足はすぐに違う人を助けるために走り出していた。 「アッハッハッハッわしがこんな所で死ぬかァァ!!みんなァ、逃げェェい!!」 捕まっている辰馬が銃を取り出して他の人に巻きついた足を打って逃がしている。 それを横目で確認しながらも、は次から次へと足を鉄の棒で叩きつけた。 後は辰馬一人。 がそこへと足を踏み入れた途端、地面が揺れ始めた。 「!!」 地響きと共に巻き上がる砂。 あまりに大きな地震と視界がなくなるために、立ち止まらざるを得ない。 せめて目に砂が入らないように手で庇うしかない。 勿論、倒れないように足も踏ん張らせて。 「でっ出たァァァァァァ!!」 その悲鳴に目を開けてみて、は目と口を大きく開けた。 砂から出てきたのは、大きな大きな巻貝のような生物。 そこから足が何本も出て船へと絡み付こうとしていた。 「ヤバイ、船ごと地中にひきずりこむつもりだ!!」 「!!」 ヤバイ。 その言葉が全てを物語っている。 こんな大きい本体を、鉄の棒や銃で簡単に倒せるわけがない。 況してや、この生物が攻撃してくる理由は、無意味にその領地を侵しているからに違いないのに。 対抗する術は、一つ。 「大砲じゃあああ!!わしはかまわんで、大砲ばお見舞いしてやれェェェ!!」 大砲。 武装した船にある、大きな大砲で威嚇すること。 威嚇といってもそれにあてなければ効果はあるまい。 辰馬の言葉に、はそれを分かっていながらも大声をあげた。 「辰馬!!」 「〜!巻き込まれんよー船に戻っちょれ!!」 「でも坂本さん!!」 「大砲うてェェェ!!」 と新八の声をよそに、部下である女性がすぐに決断を下す。 同時にソレを聞いた部下達が大砲をすぐに動かした。 大きな金属音と共に目標が定められていく様に、新八が非難の声をあげた。 「ちょっ…あんた坂本さん殺すつもりですか!?」 「奴一人のために乗客全てを危機にさらせん。今やるべきことは乗客の命救うことじゃ。ちゅーたか、おんしもこっちに来ねば巻き込まれるろー」 「だけど!!」 女性の言うことは最もだ。 だが、このままでは辰馬が犠牲になりかねない。 が動かずに反論しようと口を開いたところで、女性は一つ溜め息を吐いて手をあげた。 「大義を失うなとは奴の口癖…撃てェェェ!!」 ドゴオン 銃よりも大きな轟音が地上に響く。 また砂が巻き上がる中、は船に戻るわけではなく。 ただひたすら、タイミングを見計らっていた。 辰馬を助け出す、タイミングを。 「奴は攘夷戦争の時、地上で戦う仲間ほっぽいて宇宙へむかった男じゃ。なんでそんなことできたかわかるか?」 大砲はしっかりと砂蟲の本体を狙っているために辰馬にはあたらない。 それが救いだろうか。 遠くから女性が辰馬の話をし始めているものが聞こえる。 「大義のためよ。目先の争いよりもっとずっと先を見すえて、将来の国のためにできることを考えて苦渋の決断ばしたんじゃ」 自分に出来ることは何か。 今目の前で戦うことではなくて。 もっともっと大きな視点で見たときに。 己に出来ることを見て。 一番重要なことは何かを見て。 動いてきた。 「そんな奴に惹かれてわしら集まったんじゃ。だから奴の生き方に反するようなマネ、わしらはできん」 その考え方に賛同して集まった彼らだからこそ。 一番重要なことを見据える。 どんなに一人が大切だとしても。 大切な何かがその向こうになるのなら。 |