目を心なしか光らせた子供に





は笑みをまた零した













子供の夢を壊すな!!っていってもいつか壊れるけどさ、どーせ!!














(お、おまわりさんだァ?)


土方はその言葉を聞いた途端、口元が引き攣った気がした。
いや、引き攣った。
咥えていた煙草から灰が音をたてずに落ちる。

真選組は確かに警察だ。
だが、おまわりさんという単語のような生易しい部署ではない。


そんなに目を輝かせるほど、期待するものではない。



「竹之介は、お巡りさんが好きなの?」


「うんっ!!」



の質問に、竹之介は元気よく答えた。
キラキラと輝かせる瞳からはビームでも出そうだ。



「ぼく、しょうらいおまわりさんになるの!!」



大きな瞳をいっぱいに開かせて、主張する。
未来への希望を沢山秘めた胸の内。
それが溢れ出るかのよう。

そんなことを気にするわけもなく、はニコニコと会話を続けた。



「お巡りさんかぁ。なんでなりたいの?」


「おまわりさんはわるいひとをつかまえる、せいぎのみかたなんだもん!!!で、バンカイしてホロウをたおすんだ!


「マジでか!知らんかった!凄いな警察って!」



子供の発言に土方は目を見開いた。
正義の味方、なんて考えたことなかったからだ。

ついでに何か空想か妄想が混じっている。
残念ながら警察にはそんな卍解する力はない。
虚<ホロウ>もどこにもいない。
っていうか、漫画自体違う。



しかし、ツッコむ気力もない。
というのも、子供の夢を崩すかもしれないからだ。
ここでツッコむ立場であろうという少年もボケに乗ってしまっている。







「おにいちゃんもせいぎのみかたなの?」



子供の声が、酷く心の響く。
何を言ったらいいのか、分からずにしっかりと閉じられてしまった。


気持ちどころか、行動も正義とは言い切れない。
幕府に従い、天人に頭も上がらない。
ただ命令どおりに動くための剣。

自分が剣を取ったのは

剣を取り返してくれた



局長となった、彼がいるため



それだけが存在理由





「おにいちゃん?」



何と答えたらいいか分からない。
そのまま答えることは、きっと子供の期待を裏切る。

また泣かれたら、厄介だ。


戸惑う自分に純粋な視線が届いている。
気まずくて、瞳を逸らしてしまった。


子供は純粋で。

ときに残酷だ。



土方が顔を顰める中、はぼんやりとその顔を見て。
察したかのように小さく笑って口を開いた。



「…頷いとくだけ頷いとけよ」



聞こえてきた気の抜けた声に、土方は思わず条件反射的に頷いた。


(…あ?)


思考が追いついたときには時既に遅し。
顔をあげれば、子供がそうなんだと喜々とはしゃいでる姿があった。
抱いている子供の相手をしながらも、紫苑の瞳は土方へと向けられていた。


と視線が絡み合う。
瞳を逸らせずにいると、はふわりと微笑んでみせた。



「事情がどうあれ、心がどうあれ、行動がどうあれ、警察やってることには変わらないだろ〜よ」


「……な」



何を、という言葉は言葉にならなかった。
の言ってることが、一瞬理解出来なかったからこそ。



「あんま難しいこと考えちゃダメだよ。面倒くさいっしょ。言える真実だけ、スパッと言っときゃいいんだよ、こんなときは」



何ともなさそうにヘラリと言い切る。
当たり前のようなそれに、土方の心はすっと軽くなった。

そして目を見開く土方を余所にはゆっくりと近づいてくる。
一体何をするのか皆目見当がつかない。
ただただ、戸惑いつつ、ニコニコと近づく顔しか見れないでいた。

そして



「ホレ、竹之介。このお兄ちゃんなら腕にぶら下がれるぜ、きっと」


「ほんとう!?すごいや!!」


「フハハハハハ!お巡りさんの筋肉を見よ!」



と、勝手に言い張って勝手に土方の腕を取った。
力瘤を作るような形にした後に。

未だに何をするのか分からない土方を放っておいて、全てを知るはニッコリと笑った。



「はい、気張って〜」


「うおっ!!?」



そしていきなり勝手に子供をぶら下げた。
全くそんなことするだなんて思っていなかった土方には不意打ち。
沈みそうになる片手に、踏ん張って力を込める。
どうにかそれが間に合って、ギリギリで力を入れれば容易にぶら下がる子供。
安堵の息を吐くと、土方はいっきにに鋭い眼光を向けた。



「て、テメェ!勝手にぶら下がさせんじゃねェっ!!」


「あははは!スキンシップスキンシップ、アンドスキップ


「スキンシップスキンシップじゃねェェェっ!!しかもスキップは全く関係ねェェェェっ!!!」



思い切りツッコんでも効果はなくケラケラと笑うだけ。
腕にぶら下がる子供はもう全く怯えずにキャッキャと笑っている。
ツッコむだけ無駄だと今更ながら分かり、疲れで溜息が出た。


(…なんだかな…)


何が何だか分からない。
今分かるのは。

全く掴めない、という灰色の髪の少年がいること。
泣いていた子供はもう、怯えていないこと。
そして、疲れの溜息が零れたこと。

それでもどこか、しょうがないなと思っている自分がいる。



「すごいやっ!おまわりさんはやっぱりつよいんだね!!」


「な?お巡りさんになるためには強くならなきゃな〜竹之介!そらもう、ムッキムキのマッチョ並に」



ぶら下がったままの子供の頭をぐりぐりと撫でる
そしてひょいと持ち上げて、土方にだっこさせる形にして預けた。



「それに」


「それに?」



いきなりだっこの形になり、土方が戸惑う傍ら。
は抱えられた竹之介に目線を合わせて、ニヤリと笑ってみせた。



「泣いてばかりじゃ何も変わらないし、守れるものも守れないぜ」



その言葉は、先程まで泣くことしか出来なかった子供に対する、注意。
まさかそんな言葉が出るとは思わない。
ようやくだっこの形を整えた土方は表情に出さずに驚く。
キョトンとする子供の顔に、はクスクスと笑ってから額に軽くデコピンをした。



「な、お巡りさん」


「そこで俺にフるか」



は促すように土方に笑みを向ける。
疑問符を浮かばせている子供が同じように見上げてくる。
何を言えばいいのか、数秒考えてようやく、の考えが分かった気がした。



「…まァ、さっきみたくピーピーギャーギャー泣いてたら警察にゃあなれねェな」


「な、なかない!!」



泣いてばかりでは物事は進まない。
自分から動かなければ、何も変わらない。
子供ではなく、大人でも通じるその原則。
それを警察になりたいという子供の夢と合わせて、土方に話を振ったのだ。

その考えが分かれば、どうにか言葉を出さなければこの会話は意味なく終わってしまう。
どうにか土方が便乗してみると、子供は面白いように話に乗った。



「本当か〜?」


「ほんとうだもん!!おにいちゃんより、かっこいいおまわりさんになってやる!!」


「お、言ったな〜」


「がんばって、どうこうも、ひらかせるもん!


「んー、いやいや、それはいいかな別に」


「そんでもって、バンカイするもん!」


「あ、それは楽しみだ!」




の問いに、意地を張るように声をあげる子供。
その言葉にはからかうように笑う。
バカにされたと思う子供は、ガッツリと話に噛みついている。

成程、効果は抜群だ。
土方は心の中で素直に感心した。


(子供の扱いはお手の物ってか)


子供をあやす方法。
迷子のときの情報の聞き出し方。
褒める方法、そして諭す方法。

まるで親であるかのように子供を扱う。



「もうぜったい、おにいちゃんもビックリするようなおまわりさんになってやるぅ!!」


「うわー楽しみー。クビ戦隊リストラレンジャーが再放送するぐらい楽しみー


「?リストラレンジャーってなに?」


「うわ、ヤバイ。世代が違う、世代が」




もう普通の会話に戻っているが、きっと子供にはあの言葉が刻まれただろう。
きっとの言葉の本当の意味は分かっていない。
分かったのはきっと、このままじゃ警察になれないといったところ。
そして、きっと世代が違うということだろうか。


(リストラレンジャー…そういやぁやってたっけ昔)


土方の記憶にもある懐かしいヒーロー物のタイトル。
どうやら近い世代にいることを確認してから楽しそうに会話する二人をただ見た。

そしてどこからともなくグゥという音が鳴る。
どうやら子供のお腹の音らしい。
恥ずかしそうに視線を逸らす子供に、はキョトンとしてからケラケラと笑いながら頭を撫でた。



「アハハ!お腹すいたっぽいな」


「う…」


「じゃあどうよ、そこのお団子屋さんで団子でも食わない?未来のお巡りさん」


「た、たべる!!!おだんごすき!!」



の提案に、顔を赤くしながら子供は素直に頷いた。
恥ずかしさを通り越して、ヤケになっているかのよう。
それを気にするわけもなく、はまたケラケラと笑って土方を見上げた。



「了〜解。じゃあ現在のお巡りさん、休憩しねぇ?あの団子屋で」



笑みを絶やさない、という人物は人の心を掴み取るのが上手いと理解できた。
ただ、団子を食べない?と言えばいいものを、休憩という言葉を用いたところ、どうやら土方の疲れをも察したらしい。
まぁ、慣れていない子供を扱う、というのは大変疲れるものだと分かっていたからだろう。

さあさあ、と促す灰色の髪を見ながら、土方はその後ろをついていく。
腕の中には子供を持ちながら。
溜息ひとつ、こぼしながら。













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