|
休憩には 甘いものとお茶を 中毒は中毒でも安心な中毒だ!!だから大丈夫!きっと! 「…お前それ何杯目だよ」 「あはは数えてねー」 土方は隣に座るに半眼で問いかけた。 の膝の上では団子を食べ終えた竹之介が寝息をたてて眠っている。 あれほど泣いていたのだから、体力を消費したのだろう。 先程までバクバクと勢い良く食べていたのが嘘のよう。 しがみつくように眠る彼の頭を撫でながら、はお茶を啜っていた。 団子がおいてあった皿は一枚のみ。 お茶は無料で飲み放題らしいこのお店。 お団子が売りのはずなのに、代わりに空っぽの湯のみがたっぷり置いてあった。 「いやぁ、お茶は大事だよ、大事。人生で一番大事だと思う」 「どんだけだよ」 が飲んだお茶はもう数十杯。 先程から団子を頼まずにお茶ばかり頼む姿に、お店側も土方もげっそりだ。 湯のみを回収する店員は顔を引き攣らせて数個お盆に乗せて持っていく。 美味しそうに次々とゴクゴク飲んではフゥと一息つく。 紫苑の瞳には常に青い空が映っていた。 「俺、お茶中毒なんだよなー。いわゆるカテキン中毒?っての?あと一週間に一回チョコレート中毒が発生すんだ」 「どんな中毒だよ。ニコチン中毒より性質悪い」 「どんな言われてもこんなんしか言えねぇなぁ。あ、お姉さん、お茶お代わり〜」 ひょいと湯のみを店員さんに渡すと、迷惑そうに顔を顰めて戻っていく。 それを見送ってから微笑みながら隣で煙草を吸う土方を見上げた。 「そういう君はニコ中じゃないか、ニコ中。よくあるあのオンライン上の」 「ニコチン中毒だ、ニコチン。オンライン知るか」 「ついでにマヨネズラーだよな」 「マヨラーだマヨラー。何だその略し方」 「まぁ、とにかく君がニコっとマヨラリズム並みに俺はカテキン&チョコっと中毒なんだよ」 「色々混ぜあっててどうツッコんでいいのか分からンネェェェ」 言葉がゴタゴタとしているために土方が一々ツッコミに回るしかない。 しかしはそれに屈せずにただただニコニコと笑う。 ツッコミするのがバカみたいに思えてくるぐらい、ボケが終わらないのだ。 紫煙交じりに、土方は一つ溜め息を吐いた。 ニコチン中毒というのは、今の状態から分かること。 マヨラー、というのは先程お団子を食べるときにマヨネーズをたっぷりとかけていたからだ。 普通は、団子にマヨネーズはかけない。 さすがにマズそうだ。 子供はその状況にヒいたが、は何も反応なしにお茶をゴクゴクと飲んでご満悦の状態。 それでもしっかりと見ていたらしい。 (…他のヤツラはヒくんだがな…) 何にもマヨネーズをかけて食べるのはもはや中毒を通り越して習慣だ。 そして普通の人々はその姿を見てヒく。 恋愛感情があったとしても、その姿を見ただけでまるで砂の城のようにサラサラと消えてしまうらしい。 しかし、は無反応。 むしろ受け入れているようにも見える。 不思議に思いながらも、土方はじっとに抱かれたままの子供を見やった。 「…お前本当に子供に慣れてんな」 しっかりとしがみついて、安心しきって眠っている。 ときどき鼻唄を歌いながら揺らして、背中を優しく撫でるの姿がある。 どう見ても母親や父親のようだ。 土方の言葉に、はケラケラと小さく笑った。 「アハハッまぁ、な」 「お陰で助かった…悪かったな」 「どーいたしまして、副長?」 素直に礼を言った途端、副長、の単語に土方が反応を示す。 名乗ってはいないはずなのに、とばかりに。 はそんな反応を見ながら、笑いかけた。 「他の隊士達が言ってたからさ」 「…ああ、なるほどな」 そういえば山崎や他の隊士が呼んでいた気がする。 はそれで知ったのだ。 合点がいったところで紫煙をまた吐き出す。 青空に溶ける白い煙は、まるで雲のよう。 そんなことをぼんやりと思いながらそのままでいると、はニヤリと笑った。 「副長はもうちょっと子供に慣れておけよ。もう少しで警察官になりたい子供のトラウマになるところだったぞ?」 「知るか。男の癖にギャンギャン泣くのが悪い」 「ハハ!厳しいなぁ、副長は。ニコ中のくせに」 「だからそれ関係ねー」 子供が眠っているため、ツッコミは小さい声で行われている。 本当なら叫んでいただろう。 そんな小さな優しさに気づかないではない。 微笑ましく、笑うだけだ。 そしてフと気がつく。 彼が警察であることに。 「あ、そういえばさぁ、副長不動産屋知らない?」 「不動産屋ぁ?」 警察なのだから、町を知っていて当然。 ならば不動産屋も分かるはずだ。 サングラスのおじさんに万事屋の場所を教えてもらったのはいいが、それでお金を取られるのも癪だ。 (知り合いとはいえ、きっとお金は取られるのだから) (それに、会うだけならお金は取られないだろうから会いたいときに行けばいい) だからこそ、タダで済むならそれでいい。 淡い期待を込めて、は聞き返す土方の目を覗き込んだ。 「そう。俺流浪人ってやつなんだけど、ここに数ヶ月留まろうと思ってるわけよ。できればレオパンダとかなんとか的なの知らない?」 短気滞在のやつ〜と提案してみると、土方は顔を顰めた。 流浪人、という言葉に。 流浪人という身分は信用できるものではない。 ただでさえ攘夷浪士が溢れ、テロなどが起きている町なのだ。 もしそれの類に簡単に色々と教えては、警察として切腹物。 とまぁ、多々ある理由がある中で。 もっとも重大なのは一つだ。 「…知らねェ」 「……えええええェェェ。警察も知らないの?何、不動産屋ってマイナーなの?あれ?マイナス?そうだマイナスだ?」 土方は肝心な不動産屋を知らなかった。 確かに飲み屋とか食事処は行ったりするために知っているが、不動産には興味ない。 とりあえず、マイナーで言葉は合ってるとツッコむだけで終わる。 逆には大きく溜め息を吐きながら唇を尖らせた。 「あーあ。皆不動産に無関心なー。住居決まってるヤツは楽でいいよな。これだからホームレズが溢れてくんだよ」 「ホームレスな、ホームレス」 土方のツッコミを聞き、は体温の高い子供に抱きつきながら深い溜め息をまた一つ吐いた。 ぼんやりと青い空を見れば船がターミナルへと向かっていくのが見える。 悠々と、広い海を泳いでるようだ。 自由に。 (あーじゃあ後でこの紙の住所にでも行こうかなぁ。会いたいし。…お金取られるのは癪だけど) 折角の都会なのに、宿に泊まるお金もない。 今日は時間もないのだし、それしか道がないようにも見える。 まぁいいか、とは腕の中の子供を抱きしめた。 温かい子供体温が心地よい。 無意識に笑みが零れてしまう。 脳裏に、過去の記憶が鮮明に甦るよう。 (…また子供が抱けるなんてなー) 忘れてはいない、こんな温もり。 小さくて。 それでも大きな。 温かい、存在の子供。 (君は、もっと大きくなって…大切なものを守れますように) お巡りさんでも、何でもいい。 大きくなって大切な人を守ってほしい。 自分には出来なかったものを見知らぬ子供に託すなどおこがましい願いだけれど。 せめて せめて あの子達よりも生きて欲しいと願うことだけは 許してほしい 「…オイ、寝るなよ」 どうやらいつの間にか瞳を閉じていたらしい。 隣からかかってきた低い声に、はのんびりと笑みを向けた。 まるで、寝惚けたように。 「寝ないよ〜。でも温かくて気持ちいいよな」 「寝てる寝てる。もう目ェイっちゃってる」 「しょうがねぇよ〜竹之介気持ちいいし。あ、副長もやる?」 「やらねェ」 「副長〜っ!!!」 そんな会話をしていたら遠くから隊士の一人が走ってくるのが見えた。 そしてその後ろからは若い夫婦の姿。 汗を流し、心配そうな表情で駆けてくる三人を紫苑の瞳は映した。 同様に、瞳孔を開かせたままの黒い瞳も。 容易に予想できる状態に。 しっかりと子供を抱えて、二人は席を立った。 「おう、山崎」 人懐こそうな顔をしている彼は、笑顔で敬礼する。 少年への対応をも知っていた山崎だ。 「竹之介君のお父さんとお母さん、見つかりました!!」 「おう」 「た、竹之介!!」 汗と涙で一杯の両親が駆け寄ってくる。 は一歩前へと出て、腕の中の子供をそっと差し出した。 「泣きつかれて、眠っちゃいましたよ」 「あ、ありがとうございます!!私達の不注意で…」 「あはは、今度はこんなことないようにしてくださいね」 温かい子供が両親の元へと戻る。 両親は大切そうに、しっかりと彼を抱きしめた。 どれだけ彼らがその子を大事にしているかが見てとれる。 微笑ましいその光景に、は目を細めた。 空いた手は虚しく、温かみをなくした。 それを紛らわすように、赤いTシャツで見えなくなっている胸元を撫でた。 コロコロとした感触に、気持ちを落ち着かせる。 十の玉と灰色の紐からなる、大切な首飾りを触って。 「本当にありがとうございました!!」 「お気をつけて」 「竹之介君に、おにーさん楽しかったよ〜とでも言っておいてくださいね〜」 ペコペコと頭を下げながら去りゆく三つの背中。 と土方、そして山崎は並んでその姿を見送っていた。 |