団子代を払って




出向くは











家無き子はただのホームレスじゃん!!











「じゃあ、本当にありがとうございました!」


「いーえーこちらこそお団子代ありがとさん」


「お世話になったんですからこれぐらいはしないと!それに不動産屋知らないしそのお詫びも兼ねて!」


「アハハ!山崎さん良い人〜!あとで副長に請求しなよ〜」


「請求されても出さねェからな」


「…だそうです」


「うーわー、ニコ中はケチだな


「ニコ中関係ねェって言ってるだろうがァァァ!!!」


「あ、あははは!ツッコミ戻った」



はすっかり土方に慣れ、ケラケラと笑うだけだ。
今さっき合流したばかりの山崎はその順応性の高さに驚きを隠せずにいる。
普通の人ならば、瞳孔開いたままの副長に怯えるだけなのだから。
それを余所に、土方はまた煙草を銜える。

副長の方も、に慣れてしまったらしい。
それが見てとれた。



「行くぞ山崎」


「あ、はい!」



まだ仕事は残っている、とばかりに歩き出す土方に山崎が返事を返す。
去っていく背中に、はあ、と声をかけた。



「あー、ちょっとタンマ!待った!」


「あぁ?」



やることは終わったとさっさと戻ろうとした足がピタリと止まる。
声の方へ向き直る土方と山崎を見てから、はポケットに仕舞いこんでいた紙を取り出した。
しわくちゃで、汚い文字が書かれたそれを。



「不動産屋分からなくていいから、せめてココ分からん?出来れば連れてってほしいんだ。俺、方向音痴だから辿り着ける可能性がマイナス0.5なの


「マイナスまで行っちゃうんすか!しかも小数!!?」


「あははは、そうなんだよな〜」



土方の代わりに山崎が思い切りツッコむ。
どうやらこの場所にはツッコミが沢山いるらしい。
しかし、それに澱むではない。
ケラケラと笑いながら、その紙を差し出した。



「優しいおじさんがさ、不動産屋見つからなかったら最悪、ここに行けばいいよって」



言い方が何かに騙されているようにも聞こえる。
山崎と土方は顔を顰めながら差し出された紙を手に取って覗き込んだ。
しわくちゃの紙に書かれたその文字を見た瞬間。



「知らねェ」



ビリリリリ〜と土方が一瞬にしてそれを破り捨てた。
見事なまでに粉々に。



「「え、ええええええええエエェェェ」」




優しいおじさんから渡された紙はもはやとなってしまった。
さすがにその反応は予想していなかったために、驚きの山崎との声が被る。



「ちょ、副長ォォ!!何やっちゃってるんすか!何やっちゃってるんすかァァァ」


「ムシャクシャしてたからやった。後悔はしてねェ」


「後悔すらなしっすかァァ!!」




我関せず、とばかりに紫煙を一つ。
まるで見たくないものを見た、とばかりの表情。
山崎がツッコむ中、はポカンとしたまま動かない。



「ちょ、本当にゴメンなさい!このマヨラー副長がァァ!!


「何だ文句あるのか山崎ィィィ!!」


「見たくもない文字でも破ることないじゃないですか、このニコっとマヨ副長ォォ!!」


「いい度胸だ切腹だコラァァァ!!!」




土方優勢で始まる喧嘩。
というのも、もはやマウントポジションにいるのだからすぐに勝敗がつく。
ギャアアアアと山崎の悲鳴が響く中、は一人困ったなぁと塵になったそれをしゃがんで見ていた。


文字を書いた人物に会いたい、というのも勿論ある。
しかし主にこのままでは本当に公園で野宿決定だ。
それが一番の痛手。



「…うーん、頼みのツナだったのになぁ。今日は公園で野宿かぁ」



時間も時間だし、と呟くに、喧嘩は一瞬にしてピタリと止まった。
しかしそれに気づくことなく、脳内はダンボールを集めようとか新聞紙がいるなぁとかホームレス生活で培った知識を総動員させている。
財布の中を見て、晩御飯はコンビニで賞味期限のキレたヤツを貰いに行こうと小さくぼやく。
さすがにその言葉が溢れる中、喧嘩するほどモラルがなっていないわけではない。
というか、原因が彼らにあるのだから。



「…どうすんすかー副長。このままじゃ本当にホームレスですよー」


「…………」



ウンウン、と一人で納得している間に二人は砂埃を払って立ち上がった。
勿論、山崎はボロボロだ。
聞こえてくるのボヤキは真実味が溢れていて、財布からは小銭の小さな音が聞こえる。

このまま見捨てては、真選組の名が廃るだろうか。
土方は眉間に皺を寄せた。



「…あんまりヤローのところにゃあ行きたくねェんだがな」


「しょうがないでしょ。人助けだと思って潔くやりましょうよ。もう切腹並みに」



紙に書いてあったのは、土方にとって苦手な人物の名前だった。
苦手、というのも表現としてはおかしい。
どちらかというと、嫌い、だろうか。

というのも、ソリが合わないからだ。
何となく。


だからこそ会いたくないのだが、真選組を廃れさせることよりは幾分か楽だろうか。
山崎をもう一発思い切り殴ってから、土方は車へと乗り込んだ。
助手席へと。

何も言わなかった、というのは覚悟したのだろう。
山崎は素直にそう受け取って、に駆け寄った。



「えーと、さん?」


「明日はすぐにハローワーク駆け込んで職探して………あ、呼んだ?」


「はい、呼びました」



もう明日の予定まで立てているはようやく山崎に気がついた。
ハローワークと言ってるあたり無職だろうか。
万事屋でもお金は必要だけど大丈夫なのだろうかと思いながら、山崎は人の良い笑みを見せた。



「副長からオッケー出たので、旦那のとこまで送りますよ。乗ってください」


「…旦那?」


「万事屋の旦那のとこ、でしょ?」



万事屋の旦那、というのが紙に載ってた人物のあだ名のようなものだったらしい。
そしてそう言う、ということは知り合いのようだ。
知り合いからそういう風に呼ばれる歳になったのかと思うと時の速さを知る。


(会わなくなって、何年も経つからなぁ…)


自分は覚えているのだが、相手は果たして覚えているのだろうか。
そんな不安が心に小さく燻る。
しかし、それでも行くしかない。

何せ、ホームレスになるかならないかが、かかっているのだから。



「え、いいの?じゃあ、遠慮なくお願いしまーす」


「はい」



謙虚さやら何やら全く感じられず、そのまま素直に上手い話に乗る。
山崎はそんな姿を苦笑しながら見やった。

促される車の後部座席。
本来ならば公務以外の使用は禁止なのだろう。
ドアを開ければ漂う、車独特の匂いと染み付いた煙草の香り。
ドアを閉めれば、まるで犯人になったような心持ちになる。

普通な人ならばビクビクとでもするのだろうか。
しかし、は逆にウキウキして窓から外を眺めた。



「あははは!犯人になった気分!」


「そこでテンション上げてどーする」


「だって中々ないだろ?容疑何にしようかなー。方向音痴すぎて強盗しちゃいました罪かな


「いやいや、罪まで考えてどうするんすか!」



助手席からは土方が、運転席に乗り込んだ山崎がそれぞれつっこむ。
準備完了とばかりにエンジンがかけられて、景色が流れ始める。
助手席の窓は開け放たれて、風にのって煙草の香りが後ろに流れてくる。
は鼻唄を歌いながら窓にしがみついた。



「いやぁ、江戸はいいとこだね。人がいいよ人が。本当にありがたいね」


「なんかすっごい、台詞がおじいちゃんくさいんですけど


「気にしない気にしない!」


「…これで貸し借りなしだからな」


「いやいや、充分でしょ充分。ありがとな、ほんと!副長も山崎さんもカッコイイー」



そんな会話をしながらも車は進んでいく。
ニコニコと笑顔のまま平然とそんなことを言う。
さすがにカッコイイの使い方は間違ってることが分かる二人は呆れ顔で外を見た。
しかも少年に言われたところで嬉しくも何ともない。
そうこうしているうちに、彼らにとって見慣れた場所が見えてきた。


ピタリと止まる景色。
かぶき町ということで少しばかりあちこち色めいている。
夜ではないので光はないが。
スナックだとかキャバクラだとかに溢れている中で、彼らの視線は一つに注がれていた。



「おい、着いたぞ」


「え、ここ?」


「ええ、ここですよ」



窓から見えるのは『スナックお登瀬』というお店。
紙に書いてあったのとは違うなぁと思っていると、二人は上を指差した。
その先を目で追う。

すると、紙に書いてあったのと同じ下手な字が大きくそこにあった。
『万事屋銀ちゃん』
キョトン、とした後、はほぅと安堵の息を吐いた。



「ほんとだー……」



笑みが零れる。
逆に土方は先程までなかったピリピリ感を全身に溢れさせている。
あの紙を破り捨てただけあり、嫌だ嫌だという空気を身に纏っている。



「あんまりここにいたくねぇから、さっさと降りろ」


「あはは、ごめんごめん」



外へと出ると、優しい風が灰色の髪を撫でる。
は万事屋銀ちゃん、と大きく書かれたその文字をもう一度見上げた。
笑顔ながらも、心は嬉しさと不安が溢れ始める。

風呂敷をぎゅっと抱きしめる。
中にある大切なものを感じて、紫苑の瞳に決意を宿した。



「よっし!行くか」



気合を入れて、心を奮い立たせる。
そして、はドアをバタリと閉めて振り返った。
無表情に煙草を銜える土方と、運転席から笑顔で見送る山崎が見える。



「本当にありがとう!また会うことがあったら色々話そうな」



とりあえず、ここ数日間はここにいることが確定なのだから、会うこともあるだろう。
そんなことを考えながら、土方と山崎はそのままの表情で手を軽くあげた。



「じゃあ、失礼します」


「……」


「ばいばーい」



軽く別れを告げて。
真撰組の車は颯爽と道路を走って消えていく。
はブンブンと手を大きく手を振って、感謝と別れの意を示す。
しっかりとその黒い車が消えてから、その手を下ろして後ろを見上げた。

万事屋銀ちゃん、とかかれたその看板を。














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