変わらない






変わらないんだね











知り合いなんて数えてたらキリねぇよ!だってすれ違ったヤツだって一応知り合いだし












銀ちゃんやら銀さん、と呼ばれた人こそ、この店の主。
銀色の天然パーマとやる気ない紅の瞳が印象的。
その瞳は階下の人物三人を見下ろした。



「あ、銀さん、猫はですね…」



少年が猫の話を始める。

逆に、は見上げた。
上にいる青年は三人を一人一人、ゆっくりと見回す。
そして紫苑の瞳と、紅の瞳が交わる。
途端、は微笑んだ。








変わらない

見ただけで分かる



見た目は、やはり変わってしまったけど

変わっていない










美しく銀色に輝く刃は















「ということでですね、この人のお陰で猫は大丈夫でした!」



少年の説明が一通り終わる。
が、瞳は交わったまま、外れない。
しかも此方から見れば、青年は小さく驚いて、目を見開いているように見える。

彼は覚えているんだろうか、自分を。
淡い期待が心を灯す。



「で、手当てしたいとかそういう話になったんです」


「別に大したケガじゃないのに、新八は大袈裟アル」


「いやいや、礼儀は大切だからね神楽ちゃん。しかも神楽ちゃんのことじゃないから。この人のこと言ってるから」


「灰色だって怪我大したことないって言ってるアル」


「だから灰色って失礼でしょ神楽ちゃァァん!!」



隣でそんなこと言われても、は変わらずに見上げたまま微笑むばかり。
そして階上の男性も目を見開いて止まってそのまま。
少年と少女はそんな二人の状況に気づいてないようだ。
言い合いをしながらも、青年の表情を見ているはずだというのに。

それだけ言い合いが白熱しているのだろう。
少年は何だろうと怪我を手当てすると言い張り、鼻息荒く上の青年に声をかけた。



「とにかく、あがって手当てしますけど、いいですよね銀さん!」


「!……あー、まァ、イイんでないの」



その大声にようやく二人の瞳が外される。
というよりも、それで現実に戻された、と言った方がしっくりくるだろうか。
青年がどうでもよさそうに返事する。
も目を瞬かせて、新八の言葉を思い返し、今がどんな状況なのかを理解しようと試みた。
(それだけボーッとしながら彼を見ていたのだろう)



「了解です!さ、行きましょうか」


「うえ?あ、うん」



結局押し切られる形となり、中へと入ることになったらしい。
(と、今更ながら理解した)
少年と目を合わせてからもう一度見上げると、先ほどいた人物はいなくなっていた。
中にでも入ったのだろうか。
ぼんやりと見上げていると、手をグイグイと引っ張られていた。

手の先を見やると、小さな手が自分の手を握っているのが見える。



「決まったなら早く来るがヨロシ!これ以上グダグダするのはゴメンヨ」


「あ、お、おう」



手を取ったのは少女、先導するのは少年の方だ。
思ってもいなかったことに戸惑いは隠せない。
が、何とも優しい少年少女だなぁとのんびり思いながら先ほど上った階段をまた上がる。
(少女の方は少々トゲがある言い方だが、そこに気づくための神経がには足りなかった)


青年は、彼は気づいただろうか。
自分のことを、という名の人物を覚えていてくれていたのだろうか。

ただ目が逢っただけでは、何も読み取れない。
少しだけ不安を覚えながらも、蹴破られて見るも無残になった扉をくぐった。



「おじゃましまーす」


「ハイ、汚いところですけどどうぞどうぞ」



玄関を抜けて、少し広めの、まるで事務所のような場所へと通される。
確かに綺麗、とは言えないまでも中々落ち着いている。
事務所長の席と言わんばかりのどっしりとした机には、あの銀色の青年がのんびりとジャンプを読んでいた。

上には糖分、と大きく書かれた掛け軸。
成程彼らしい、とはツッコむわけでもなく心から感心した。
(いつか自分に部屋が出来たときには、大きくカテキン、もしくは茶と書こうと心に誓った)
そしてその隣。



「………うわ、デカ!可愛いけどデカ!!」


「あ、それにはあんまり近寄らない方がいいですよ。誰かれ構わず噛みつきますから」



真っ白でふわふわの犬。
可愛らしい顔でこっちを見つめているが、その大きさは人と同じ位。
は驚きながらも、促されたソファへと座った。
勿論、犬と視線を合わせたまま。



「定春って言うアル。それに噛むのはコミュニケーションアルヨ」


「アハハ、そうなんだ」


「笑い事じゃないですよ、全く…ってギャアアアアアアア!!



少年が溜め息を吐いて棚にある救急箱を取った途端、悲鳴が部屋一体へと響いた。



「ホラ、早速コミュニケーション始まったアル」


「うわ、本当だ。激しいな〜コミュニケーション



ぼんやりとしている二人の前で、少年は悲鳴と共に頭から血を噴出している。
というのも、犬が思い切り齧り付いているから。
恐らく、彼の言葉が気に喰わなかったのだろう。
あの可愛らしい顔のまま、勢いよく飛びついていた瞬間、風を感じた。
…と、今更回想しても何も変わらないのだが。



「きっと一応、甘咬みのつもりなんだろうな。可愛いなぁ」


「定春ゥ、そろそろ離してやるがヨロシ」


「ワン」



普通なら少年に同情するか、慌てるとかするのだろう。
が、はヘラヘラと笑って見る傍観者。
逆に少女はしょうがない、とばかりに助け舟を出していた。

どうやら少女の言うことは良く聞くらしい。
すんなりと口を離せば血まみれの少年。
肌の色は赤だっけと思わざるを得ない色だ。
しかし彼は止まらず、フラフラしながらも溜め息忘れず、の前に座った。



「あー…じゃあ手当てしますんで」


「…手当て必要なの逆じゃね?」



あからさまに、怪我の重症度は少年の方が上。
悪気が無さそうに原因である犬は大きな欠伸を一つした。
の言葉に止まることなく、少年は救急箱を開けて消毒液やら何やらを取り出す。



「イーんですよもう。はい、手出してください」


「……」



促されるように手を出す。
が、はそのまま少年の手に取られた消毒液を取った。
そしてそのまま救急箱にあった包帯とガーゼも取って少年の頭を押さえた。



「あ、あの?」


「君の方が重症だっつったじゃん。はい、痛いけど我慢な。ブッシューっと


「イタアアアァァァ!!!」



戸惑う少年を無視して、頭に消毒液を思い切りかけた。
新たな悲鳴を聞きながらも、垂れた液をガーゼで優しく拭き取る。
慣れたように消毒を終えると、グルグルと包帯を巻いていく。
まるで当たり前のように処置していくを、少女と少年が呆気に取られて見つめていた。



「ホイ、出来た」



包帯が綺麗に巻かれて処置終了。
は一人満足げに笑った。



「今度から甘咬みされないよう気をつけな?」


「あ、ハイ、どうも…」



見た目は同じ少年だというのに、どこか年上だと感じさせる。
そんな矛盾に首を傾げる少年少女。
呆気に取られている二人の気持ちを知らないまま、ただはニコニコと笑っている。



「じゃあ、君達の引っ掻き傷もついでにやっちゃおう。絆創膏少ないから消毒だけな。ホラ、君もこっちおいで」


「え、いや、まず貴方のをですね…」


「いいからいいから。今ノリに乗ってるからやっちゃおう。ノリは大事だから」


「どんなノリですか!?」


「アハハハ!そんなノリだよ〜。まぁまぁ、消毒液でもつけて落ち着いて


「落ち着けるんですかソレって!」



少年のツッコミをよそに、はのんびりと笑って消毒液を吹き付ける。
また小さく悲鳴が響く中、黙々とガーゼで拭いてはまた消毒液を付けていく。
今度こそ何も言えなくなって静かになる部屋。
そこにの鼻唄だけが聞こえる。



「ハイ、少年終わり。次、少女〜」


「少女じゃないアル。神楽云うネ」


「オッケ、じゃあ神楽ちゃん、そこ座って傷口出そうか。沁みるけど頑張れ〜」


「私も女アル。覚悟はとうに出来てるヨ、さぁ、かかってくるがヨロシ!


「どんな意気込み!?」


「アハハハ!」



少年のツッコミもむなしく、が笑いながら神楽と呼ばれた少女の手を取った。
真っ白い手に沢山の引っ掻き傷。
そこに消毒液をかけると、彼女の覚悟が砕け散って悲鳴が響いた。



「ハイ、我慢だよ〜神楽ちゃん」


「ギャアアアア!!イタタタタ!新八の存在イタタタタ!!」


「ちょっと!紛れて僕の悪口言わないでくんない!?」



「アハハ、それ言う元気があるなら大丈夫だな。ハイ、終了」



怪我も大したことなく、すぐ終了。
涙目の少女の頭を優しく撫でて、は優しく微笑みかけた。
そこに神楽は再びキョトンと目を見開かせた。



「よく我慢できました」



まるで親のような言葉。
仕草。

神楽の表情も動きも、すべてが止まる。



しかし、は気づかずに微笑むだけ。
じゃあ、今度こそ貴方の手当てを…と新八が動き出したときだった。
今までのんびりとジャンプを読みまくっていて、我関せずと言葉も出さなかった、銀色の青年が動いたのは。



「オーイ、新八ィ、神楽ァ。終わったなら定春の散歩兼ねて買い物に行ってこ〜い」


「ええ?」



いきなりの命令に、新八が驚きの声を上げた。
声の主は今もまだジャンプに目を向けたままだ。
さすがのも神楽から視線を外し、目をキョトンとしている。



「え?でもまだ灰色さんの手当てが」



そう、まだ本命のそれが終わっていない。
は今更ながらそういう目的だったことを思い出していた。
すっかり忘れてたなぁと思いつつも、これぐらいの傷ならば自分でも手当て出来る。
大丈夫だとばかりに、はピラピラと手を振った。



「アハハ、大丈夫だから行ってきなよ。自分で出来るし」


「ホラホラ、灰色もそう言ってるだろーが。行ってこい」



実際、銀色の青年が何を考えているのかは分からない。
が、別に何が困るわけでもない。
笑って促せば、少年は訝しげに首を傾げて、一つ溜め息を吐いて頷いた。



「…分かりましたよ。行くよ、神楽ちゃん」


「……」



素直に言うことを聞く、というのは青年の性格を理解しているからだろうか。
それとも、の言葉に素直に甘えたからだろうか。
どちらにせよ少年は立ち上がってスタスタと歩きだす。

が、少女は未だにを見つめたまま動かない。
少年が訝しげに、彼女の肩を揺らした。



「神楽ちゃん?」


「!…い、今行くアル!行くヨ定春」


「ワン」



ボーっとしていた神楽が、ようやく意識をこちらへと戻した。
途端に定春と一緒にバタバタと外へと走りだした。
それを新八と呼ばれた少年が「変なの」と言いながら頭を下げてから追いかけていく。

はそんな二人を、手を振って見送った。
いきなり静かになる事務所を、しっかりと感じながら。














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