お客様は




神様でーす













いらっしゃいませこんばんは〜、って繋げてたらこれが一つの言葉だよね













「いらっしゃいませ〜!」


「おや?オヤジ、新入りかい?」


「おうよ!ってんだ。、挨拶しなァ」


「はい!っていいます。宜しくお願いします!」


「お、元気でいいねェ。じゃあ生一つな」


「あいよ!」



時も過ぎて夜。
ネオンが印象的なこの町の、小さな一つの居酒屋。
そこにがいた。

灰色の髪を後ろに結い、ここの従業員に配られる制服を身につける。
制服、といっても、紺色の甚平のようなものだ。
それと足のワラジが良く似合う。




下着泥棒の件は昼に終了してしまった。
というのは、やる気になった銀時と近藤がサクサクとファミレスを出てお妙の家に向かっていったからだ。
それを追いかけるように新八と出たものの、はバイトがある。
一緒に下着泥棒をとっちめるという計画は無理だ。
(しかもそのバイト代は家賃代になるため、ここで下着泥棒を追いかけたらお登勢から追い出されるに違いない)

とにかく新八と話し、今日はおそらくあのメンバーは新八の家に泊りこみになるだろうという予想をたてた。
朝も御飯を食べてから帰ってくるだろうということで、今夜の晩御飯と明日の朝御飯は作ることはない。
とりあえず、さんはバイト頑張ってください、明日はあの人たちもいないので遅めに起きても大丈夫ですし、とのこと。

そんな新八にも「お前も頑張れよ〜」と肩を叩き、別れた。
そのときの彼の表情は、これからのことを予想したのか、何とも言えない哀愁が漂っていた



と、いうわけで今はバイトの真っ最中。
下着泥棒の心配をしつつ、は仕事に集中していた。


色々教えてもらいながらの仕事。
とはいえ、流浪の旅をしながら接客業のバイトを幾度かやっているから慣れている。
場所が違えども、基本は同じだ。

笑顔で元気よく。
そして素早く。
気をきかせて、お客から頼まれる前に伺う。
お客に不快な思いをさせない。

色々あるのだが、それをあげてたらキリがない。
覚えるよりも、慣れろ、がこの業界にふさわしいだろう。



「お待たせしました〜!生です!おつまみもどうぞ!」


「お、ありがとよ!あと枝豆もよろしくなァ」


「はい!オヤジさ〜ん!枝豆お願いしまーす!」


「あいよォ」



お客様は神様。
ヘコヘコするのは当たり前。
ただし、この居酒屋は店員の明るさを売りにしている。
フレンドリーな空気も売りだとか。
後は美味しい食べ物とお酒も勿論ある。

だからこそ、少し気持ち的に楽だ。
お客も店員も友好的に、世間話に花を咲かせられる。



「おーい、新入り〜!こっちは焼酎水割りだ〜!8:2な〜!」


「あいよ〜!」



居酒屋での調理で、料理のレパートリーは増える。
お酒の作り方も学べる。
小さなお店であるため客も少ないし、少し忙しいぐらい。
急な宇宙旅行のための休みもすぐに取らせてくれた。
いいバイト先を見つけたものだ。


水割りを作りつつ、程よいBGMに耳を澄ませる。
フンフンと鼻唄を歌いながらしっかりと割合を完璧にして、頼んだお客に持っていく。
そして世間話をする姿に、一人の客が笑った。



「オヤジ、いいバイト雇ったじゃねェの。ここは笑顔も話できんのも売りだからな」


「俺の料理もだろ」


「ハハ!違いねェや」



店長であるオヤジさんと笑いあうお客。
遠くの席ではお互い知らないお客同士で笑っている。
水割りを届けると、今度は違う席から熱燗の注文。
オヤジが作り始める横で、はお客との会話に回る。

誰かがお客の相手をし、誰かが作る。
従業員はオヤジさんとの二人だからこそ、そういうサイクルになっているのだ。


カラカラ、とまた扉が開かれる。
はすぐに対応するために笑顔で振り向いた。



「いらっしゃいま……あれ?」


「…あ?」


「土方じゃん。いらっしゃい」




扉をくぐった現れたのか知っている人物。
キョトンとする客の代わりに、は微笑みを増した。
隊服を脱いで私服の黒の着物を着て腰に刀を携えた、土方十四郎。
まさか知っている顔があると思っていなかったために、瞳孔開いた瞳は大きく見開いていた。




「…何でお前がここにいんだ」


「バイト。お一人様ですか〜?」


「…ああ」


「カウンター席でよろしいですか?」


「ああ」


「お一人様、カウンター席へとご案内しまーす!」



質問を軽く流してカウンター席へと促す。
驚いている土方をさくさくと座らせて、はカウンターの向こう側へと戻った。
これで店員とお客が対話出来る形。
未だに戸惑う土方に、はニッコリと笑ってみせた。



「ご注文は?」



知り合いがお客と店員の間柄だと普通は恥ずかしいとか色々ある。
が、それは土方だけであって。
は全く気にせずにニコニコしながら聞いてきた。
これはもう恥ずかしがる方が恥ずかしい。
土方は気を紛らわすため、煙草を咥えて先に火を点けた。



「…日本酒。あと適当なつまみ」


「あいよ」



笑顔でのんびりと日本酒とつまみを取り出してテーブルの上へとおく。
ついでに灰皿とマヨネーズもしっかりと置いておいた。

店長は他の人との対話に回っている。
他にも注文はなさそうなので、今度は食器洗いを済ませるべきなのだが、洗い物もなし。
となると、接客に回るしかない。
目の前に座る土方に、は至極当然のように話しかけた。



「ここ、よく来るの?」



を見つけた際、驚いた顔。
しかも言葉からして、この店は知っているということだ。
その意味を込めて聞くと、土方は煙草を置いて、おつまみにマヨネーズをかけ始めた。



「まァな。ここは食事も酒もウメーし、マヨネーズも常備してっからな」


「あはは、成程〜」



そういえば冷蔵庫にはマヨネーズのストックが沢山あった。
恐らく、料理用の他に土方用に買っておいているのかもしれない。
いや、確実にそうなのだろう。

おつまみは今や、マヨネーズの味しかしないだろうものになっていたのだから。


そんなことを思い返しつつ、日本酒をお猪口に注ぐ。
透明な液体が水面を描く。
お猪口を持った土方がクイッと飲み、テーブルにそれを置いてを見上げた。



「で、お前は何でココでバイトしてんだ」



どうやら今度はが質問される側らしい。
店を知っていても、店員が増えることは知らない。
しかも、自分の知っている人物が入るなど。

それが知りたかったらしい。
はあーと声をあげた。



「万事屋から迷わずにいけるのがココでさ〜。雰囲気もいいし、ここに決めたんだ。あれ?雰囲気?ふいんき?


「雰囲気であってる」



真面目な顔で尋ねれば、ちゃんとした答えが返ってくる。
あーそっかぁとが笑い飛ばせば、溜息。
どこか銀時に似ているそれに、小さくは笑った。



「と、いうわけで、これからも来てな」


「どういうワケだよ。話に何の脈略もねーぞ」


「え、とりあえず俺いるけど来てな、って話だけど」


「………」



そこで、土方は黙った。
おそらく、知り合いがいるから面倒くさいとかそんなところだろう。
何となくそれが読めているは、それでも来てほしいと思いつつ、何か勧誘できるモノはないかと探す。
そこで、土方の手元にあるマヨネーズを見つけた。



「…来てくれたらマヨネーズ一本おまけするから


「わかった」



マヨネーズで釣れた。

ここまで綺麗に上手くいくとは思わなかったは、一瞬キョトンとしてからケラケラと笑った。
しかし本人は何故笑われているのか分かっていない。
訝しげにを見るだけだ。



「アハハハ、やっぱ土方はいい男だな〜」


「お世辞言っても何も出ねーぞ」


「お世辞じゃないよ〜アハハハ!じゃあおまけのマヨネーズ一本は俺のバイト代から払っときます〜帰るときに渡すな」


「おう」



クールな笑みなはずなのに、どこか子供っぽい。
はそれにまたクツクツと笑いながら、またお猪口にお酒を注いだ。
そしてフと思いだすのは彼と同じ真選組の局長だった。



「あ、そういえば今日近藤さんに会ったよ」


「あ?どこで」


「ファミレスのテーブルの下で」


「…………」




それは場所的にどうなんだろう。
近藤さんという名前に反応したものの、その場所からして予想がついたらしい。
土方は呆れの冷や汗を流した。



「お妙のストーカーだって?凄いよな〜あの情熱。今日も下着泥棒捕まえに意気込んでたよ」


「…アイツの下着もやられたのかよ」


「ん、それで相談があって万事屋メンバーと一緒に出陣してった」


「…ハァ、何やってんだあの人は」



どうやら近藤がストーカーだという認識はしているらしい。
泣く子も黙る真選組のトップだというのにストーカーだという事実は変えられない。
注意しても直ってはくれないらしい。
もはや呆れを通り越して、諦めモードだ。
恐らく、真選組全体もそんな感じなんだろう。


(…それでも、やっぱり好きなんだろうなぁ、近藤さんのこと)


それでも「あの人」とちゃんと言ってるあたり、見放すつもりはないらしい。
しかも、思い切り罵倒するわけでもない。
はその言葉から零れるその感情を、決して見逃さない。

どんなに短所があっても、それをも凌駕する長所がある。
それが見てとれて、は無意識に微笑んでいた。



「…何だよ」


「いんや、別に」



別に笑うところでもないところで微笑んでいることに土方が気づく。
訝しげに声をあげると、はただニコニコと笑ってみせた。


(やっぱり、皆かっこいいんだから)


誰が聞くわけでもなく、ただ胸を張る。
心の中でそう言い切って、スッキリする。
自己満足を終わらせたところで、はのんびりと口を開いた。



「でも美人さんは大変だよな〜。下着とか盗まれちゃうわけだし。俺男でよかったわー


「お前女だろーが」


「あんま気にすんな。やっぱボクサーパンツは盗まれないよな〜


「ぶっちゃけんなァァァ!」


「アハハハ」



は笑い飛ばして己の下着をぶっちゃけた。
というのも、女としての意識がゼロだからだろう。
大きな声でのツッコミも何のその。
笑いながら、遠くから入った注文のお酒を作り始めた。
土方はそんな姿を見つつ、また溜息混じりに紫煙を吐きだす。



、こっちのお客さん頼むわ」


「あいよ!じゃあまた、土方」



どうやらと話したいお客がいたらしい。
オヤジさんが呼ぶ声に返事をし、土方へと微笑んでから歩きだした。
遠くから聞こえる笑い声はお客とのもの。
ようやく落ち着いた、とお酒をゆっくりと飲み始める。



「お疲れですかい、土方さん」



今度はオヤジが話かけてきた。
何度か来ているために分かる、この店の特徴。
一人の客には、話し相手としていてくれるのだ。



「新入りののツッコミ、お疲れさんです」


「あー…疲れた」



気付いていたなら助けてほしかった。
そんなことを思いながら、また苦い水を口へと運ぶ。
無表情のまま、酒を楽しんでいると目の前の店主がまた口を開いた。



「そいつァすみませんね。何やら楽しげだったもんで、いいかと思ってやしたから。アイツとは友達か何かですかい?」


「…ただの知りあいだろ」


「そうですかい?」



そう言いきれば、もう何も言ってこない。
ただ笑顔でそのまま仕事を続けるのみ。

それもそれで居心地が悪い、とすら思える。
これならどんどん勝手に喋りまくってニコニコ笑うの方が楽だろうか。
いや、それもそれで大変か。



「…オヤジ、熱燗な」


「あいよ」



まぁいいか。
とりあえず酒でも楽しもう。


遠くから聞こえるの笑い声を聞きつつ。
店長のオヤジさんと話をしつつ。
土方の夜は過ぎていった。















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