買い物に行く前の



準備品















人の鞄からモノを取り出すときは一言断りを入れないと下手すりゃ殺される!














「…今日は皆の大好きなキャベツが安いので、買ってこようと思いまーす。ハイ、他にリクエストある人〜」


「いちご牛乳〜」


「酢昆布!」


「ハイ、いつものね〜」



昼御飯が終わったら買い物の時間。
いつものようにスーパーのちらしに赤く丸をつけていく。
キャベツの値段と、彼らの要望の商品を空白に書いておく。

といっても、いつもと同じ要望だが。



「全く二人とも、いつも同じもので良く飽きないですね」



新八もそれが気になったらしく、ちらしを覗き込む。
ちなみに昨日のちらしもこんな感じだった。
銀時はそれを聞いて、顔を顰めた。



「ンだよ。コーヒー牛乳でも飲めってのか?アレも美味いんだけどよぉ。アレはHPが10しか上がらねーんだよ。俺としては100上がるいちご牛乳が欲しいわけ。ポーションよりハイポーションなの。HPの上限が高いから俺」


「銀さん、アンタいつHP使ったんですか」


「おま、何でわっかんねぇかな。いっつも使ってんだろ。日々一生懸命使ってんだろ、お前らの相手してるときに」


「どっちかっていうと、使ってるの僕じゃないですか!?」


「お前は新八だからHP自体ねーよ」


「人間否定ィィ?!」



甘味加減は変わらないような気もするが、彼にとっては重要だったらしい。
ポーションとハイポーションの例えにまで話が飛んでいく。
一々ツッコんで疲れていく新八を見ながら、はケラケラと笑う。

そして。



「しょうがないアルネ、銀ちゃんより大人の私が妥協するヨ」


「おお、神楽ちゃん!!」



今までの話を聞いていた神楽が、大人の余裕を見せるような笑みを作る。
下手をすれば、どこぞの女王様だ。
その様子に、新八の瞳に輝きが増す。



、今日の酢昆布は…」


「うん」



しんと静まる部屋。
はペンを持ったまま、いつでも書けるように待つ。
変な緊張感が漂う中、誰もが小さな唇を見つめた。

ゆるりと、それは開かれる。



「……梅味にするアル」


「味が変わっただけェェェェェ!!?」



今までの緊張感は一体何だ。
格好良く言った神楽に新八が思いきりツッコむ。
その反応がムカついたらしく、彼女は頬を膨らませた。



「何ヨ新八!こっちは妥協してやったのに文句垂れるつもりかゴラァ!」


「どこが妥協ゥゥ!?元が変わんないじゃん!さっきのいちご牛乳とコーヒー牛乳並みに変わらないよ!」


「テメーの尺度で全部測るから駄目なんだよオメーは。これだから新八なんだよいつまでたっても」


「僕の存在=ダメ!?」


「アハハハハハハハ」



三人でギャンギャンと騒ぐ中、は笑いながらしっかりと酢昆布梅味と書いておく。
ちなみに、いちご牛乳は変わらないらしい。
大体の値段を計算し、晩御飯の内容をも考えていく。


(豆腐がまだあるし…どうにかなるか〜)


お米もまだあったはず。
そこで納得してから、ペンをテーブルの上へと置いた。



「あ、神楽〜。三人で仲良くしてるとこ悪いんだけど、その棚から財布取ってくんない?」


「仲良くしてねェェ!」


「どう見ても言い合いですよさん、目を覚まして!」


「あはははは」



の言葉にすらつっかかってくる男二人に、は笑って誤魔化す。
と言っても、からはそうにしか見えないのだからしょうがない。
指名された神楽は、喧騒からゆっくりと逃れた。



「フゥ、しょうがないアルネ…私が人肌脱いでやるヨ。全くは私がいないと何も出来ないネ」


「ただ財布取るだけなのに、凄い上から目線!?」


「アハハ、頼んだ〜神楽」



新八のツッコミを聞きながら、笑う。
灰色をのんびり見ながら、神楽は棚を開けた。

の数少ない私物が詰め込まれたそこ。
服と一緒に入っている財布。
それと。



「…ん?」



青い瞳に映ったのは、それらよりも一層際立つもの。
棚に収納出来るぐらい、普段知っているものより短い二つのモノ。
灰の紐で繋がれている真逆の色の対のそれに、財布以上に惹かれる。

無意識に。
財布よりもそれを手に取っていた。



〜」


「ん〜?」


「この刀、のアルカ?」



刀、という言葉にと銀時の顔が上がる。
神楽の手が持っていたのは、黒と白の短い刀が灰色の紐で繋がっている、双剣。
物珍しげに繁々と見つめる神楽に、新八も寄っていく。



「黒と白の短めの刀…だね」


「そんなん見れば誰でも分かるアル。言葉のポキャブラリーがなってないネ新八」


「悪かったね!」



素直な感想に辛辣なコメントがつく。
新八が声を荒げる中、がケラケラと笑った。



「アハハ、そうそう俺のだよ。俺の宝物の一つ」


「あ、これがこの間言ってた宝物ですね?」


「そーいうこと。綺麗だろ?」



この間、首飾りと一緒のお宝がもう一つある。
しかも、法律に引っ掛かる刀で、あまり外に出せないと言っていたモノだ。
後で見せると言っていて忘れていた。

フーンと神楽と新八が見つめる。
それぞれ刀を鞘から出してみたりしていた。



「へぇ…ちゃんと手入れしてある」


「そりゃお宝だからな。ちゃんと手入れしないと」



も近寄って、とりあえず財布だけを取る。
笑顔でのんびりと、いじられてる二つの刀と二人を見やりながら中身をもしっかり確認する。

ちなみに財布は紙が二枚。
野口●世が二人、笑顔で迎えてくれている。
明日は、危ないかもしれない。
勿論経済的な意味で。



「前まではそれ腰に差してても何も言われなかったんだけどなー。やっぱ怒られるの嫌だからさ。こっち来るときも風呂敷の中に隠してたんだ」


「ああ、短いから風呂敷で隠れたんですね」


「そうそう。本当はずっと持っておきたいんだけど、そうもいかないし」


「侍の魂ですもんね」


「アハハ、そんな大層なモンじゃないけどな」



財布をポケットに入れて笑う。
久しぶりに陽の光を浴びるそれは、喜んでいるよう。
黒と白、それを繋ぐ灰の紐。

それが表すのは、過去の兄と妹。



「…何。どっちも刀短くしたのお前」



後ろから、銀時が覗きこんできた。
顔は若干顰められている。
それを見て、は苦笑を零した。



「ん。さすがに長い刀二つ持つと重いし。だったら短くして、いっそ格好良く二刀流にしちゃおっかな〜って」



銀時はこの刀二本を知っている。
だからこそ、この長さの違いも、紐がついていることも疑問に思ったのだろう。
の答えに興味なさそうに「フーン」とだけ返す。
逆に、神楽がを見上げた。



、一本の刀で戦ってたアルカ?」


「ん。そうだよー。俺のは黒い方」



昔は長かった黒い刀。
いつも腰にあって、共に戦ってきた仲間。
速さを重視する用に、重さは軽めに、長さも普通のものより少し短めだった。
今は、それよりも短く、軽くなっている。



「え?じゃあ白い方は…」


「それはお兄ちゃんのヤツだよ」



灰色の紐に繋がれた、白い刀。
黒よりも重いが、同じ長さに揃えられたもの。
力を重んじるの兄が使っていた、長刀。

隣で笑ってくれた、彼のモノ。



「あ、さっき言ってたビデオの…」



それと先程掃除してたときに聞いていた新八は納得したように声をあげた。
ついでに前の下着事件でチョロっと話に出てたのを、神楽は覚えていたらしい。
新八と同じように頷いている。



「うん、そのお兄ちゃん。紅人(くれと)っていう格好良い、俺の自慢のお兄ちゃんだよ」


「フーン、どんな人アルカ?」


「んーとなー、すっごい綺麗な白髪で、前髪だけ微妙にスネ●っぽく跳ねてる。目が色素薄くて…灰色で…あとコーヒー中毒」


「…なんかコーヒー中毒ってあたりがさんと似てますね。お茶にもコーヒーにもカフェイン入ってますし」


「あ、そうなんだ。俺カテキンしか注目してなかったや。…あ、あと、黒いレースの下着とガーターベルトが良いって言ってた」


「その情報はいらねぇっての」


「アハハ」



銀時からもツッコミが入る。
しかしそれには屈せずに、はいつもと同じように笑い続けた。


紫苑の瞳がキラキラと輝く。
胸を張り、自慢の兄を本当に嬉しそうに語る。

だが


その瞳は輝いているのに

どこか遠くを見つめている


あの、首飾りを見せたときのように





「ま、ともかく、俺の自慢のお兄ちゃんなんだ」





それで、全てを察することが出来た









「…っと、やばい特売!タイムセール間に合うかな!?」



そこで握りしめていたチラシを思い出す。
はバッと顔をあげて、近くの時計を見つめた。
お昼の特売は二時から。
もう少しで始まりそうだ。



「うわヤベ!ちょ、ダッシュで行ってきます!」


「おう、道に迷うなよー」


「大丈夫!そうなったらお巡りさんに送ってもらう!」


「それ大丈夫っていわねーよ。しかも送ってもらってんじゃねーよ。どこにスーパーに送ってもらう迷子の子猫がいんだよ」



いきなりバタバタと走り出す。
変なところはマメだが、変なところで大雑把。
銀時が窘めるが、どこ吹く風だ。
笑顔で、玄関を開けていく。



「刀仕舞っといてな〜。じゃ!」



元気良く階段を駆け下りていく音が響く。
しかしそれとは逆に、部屋の中は静かになっている。

黒と白の刀を、そっと棚の中に仕舞う。
新八と神楽はゆっくりとその場を立ってソファへと座った。



「…なんか、さんも色々あるんだね」


「…なんか変にしんみりしちゃったアル」



あの微笑みの理由。
遠い瞳の向こう側。
『宝物』の、本当の意味。

それを実感して、二人はそれぞれ物思いに耽る。



「…でもあんまり考えないほうがいいかもね。さんも気にしてないようだったし」


「…そうネ!変に気にしてたらギクシャクしてしまうヨ!そんな空気私、嫌ネ!」


「だね!」



しかしそれも一瞬の間。
二人は持ち前のポジティブシンキングで空気を明るくさせた。
一々気を遣ってたのでは、疲れてしまう。

人は誰しも、死に接するときがあるのだから。


二人でテンションを上げ、その後何故か言い合いにまで発展する。


銀時はそれを見つつ。
思いきり溜息を吐きながら窓の外を見やった。
















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