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買い物に出掛けた先 いつも通る団子屋さん いつものね、で通じる大人になりたい 「ふぅ、間に合って良かった〜」 全力ダッシュした甲斐があって、しっかりとキャベツを買えた。 勿論、その他諸々もだ。 両手に抱えるビニール袋がガッサガッサと音をたてている。 ちなみにエコ化も進みそうで、来月からはエコバッグじゃないとビニール袋代が取られるそうだ。 経済危機は、こんなところにも潜んでいる。 「マイバッグかー…アレ?マイピッグだっけ?…どっちでもいいけど風呂敷でいいかな、持ちにくいけど」 ちなみに、マイバッグを買うお金すらない。 (マイピッグはむしろ飼えない) 先程まで財布に入っていた英世さんは二人揃って消えてしまった。 遠い未来よりも、近い明日の経済危機が目前。 バイトの給料日まであと一週間。 それまでキャベツと豆腐と米のみで過ごせるかどうか。 …些か不安だ。 (いざとなったら、定春のドッグフードが主食になるかもしれない) 「…よし、こうなったらストレス解消にお茶飲んでこう」 今考えてもしょうがない。 はそのまま、帰り道にある団子屋さんへと足を向けた。 団子屋なのだから、団子を食べるべきなのだが、はお茶を飲むだけ。 お茶はプライスレス。 だからこそ、はそこをいつも使用している。 (勿論、お金があれば団子もちゃんと頼む) (あれば、の話だ) 「…あらま、また来たね」 「こんにちは!お茶お願いしまっす」 「はいはい」 はもう常連。 店のおばちゃんはを見るなり、溜息を吐くぐらいだ。 (タダでお茶を飲んでいく迷惑な客の一人なのでしょうがない) しかし、出涸らしでも美味しそうに飲んでいくを憎めないらしい。 渋々とだが、どこか嬉しそうにお茶を差し出してくれる。 「ホレ。急須とポット置いていくから。好きなだけ飲んでいきな」 「ありがとう〜おばちゃん!」 トン、とベンチの上にそれを置くおばさん。 はその隣に腰を下ろしながら笑顔で礼を述べた。 いつもと同じように一人でお茶を淹れて飲む。 のんびりと辺りを歩く人を眺める。 ホッと一息ついて、ひたすら和むだけ。 これがいつもの買い物帰りコースだ。 ただ、いつもと違うことが一つ。 の隣で蜂蜜色の髪が寝転がっていること。 「………」 蜂蜜色、と目元には変な目が描かれたアイマスク。 一際際立つ、黒の制服。 その人物はベンチの大半を使い、のんびりと両手を枕にして眠っている。 穏やかな寝息だ、とも思いながら、はひたすらお茶を飲み続けた。 知っている人物だ。 だが、寝ているところを声かけるのも悪い。 急須にジャージャーとお湯を注ぎこんでお茶を飲んで、空を見上げる。 青い空に白い雲。 大きな入道雲を見つけて、は無意識に口を開いた。 「…絶対あの雲の中に王蟲の群れがいるな」 「バカだねィ。普通はラピュタだろうが」 「およ」 独り言に返事が返ってきた。 しかも、隣で寝ている人物の口からだ。 そっちに目を向けると、アイマスクを除いた紅の瞳とバッチリ目が合う。 眠たそうに、そして面倒そうに顰めているのは寝起きだからだろう。 はそれを見て、ニッコリと笑った。 「起きてたんだ?総悟。おはよ」 勿論、寝転がっていたのは真選組の一番隊隊長。 沖田総悟だ。 の笑みとは逆に、彼は忌々しいとばかりに思いきり溜息を吐いてみせた。 「オメーのジャージャー押す音が五月蠅くて起きちまったんでィ。どうしてくれんだよ、折角いい気持ちで見回りサボってたってのに」 「アハハハ、ごめんな〜。お茶飲む?」 「ンな出涸らし飲めるか」 「美味しいのに〜」 不機嫌な彼とは違って、はのんびりと笑顔でお茶を啜る。 何とも余裕だ。 総吾はそれを睨みつけつつ、ゆっくりと起き上がった。 盛大な溜息を、もう一度吐きながら。 「俺を起こしたバツに団子奢れよ」 「そんな金あったら自分で食べてるって。見てみ、俺の財布。一番大きいの十円玉だよ」 「チッ…シケてんな。じゃあこの店へのツケで我慢してやらァ。スンマセーン、団子一皿〜」 「えええええええ」 勝手に団子を奢ることになってしまった。 声を上げている間に、おばさんはサクサクと団子を持ってくる。 綺麗な三色団子が三本が白い皿の上で輝いている。 一皿百円。 それすらも払えないは涙目だ。 遠慮もせずに、総悟はすぐに一本を手に取って口に含む。 「ん、やっばウメーや、ここの団子は」 「…そないか…」 「特に人の泣きそうな面見て食べる団子は格別だねィ」 「総悟のサド!…あれ、サギだっけ?ザキ?いだだだだだっ!」 「サボリの最中に山崎の野郎の名を出すんじゃねェや。団子が究極に不味くなるだろうが」 「ひゃまひゃきひゃんひゃんてひっひぇひゃい(山崎さんなんて言ってない)!」 「罰として、もう一皿奢りな。スンマセーン、団子お代わり〜」 「ひぇぇぇぇ」 何故か頬を抓まれたまま、団子をもう一皿奢ることになってしまった。 全く悪いことをしていない、とばかりの爽やかな笑顔で。 どうやら「ザキ」というのは真選組の山崎の呼び名らしい。 近藤さんがそう呼んでいるんだとか。 それで機嫌を損ねて団子を頼んだのだろうが。 …些か理不尽だ。 (サボっていることは無視してあげているのに) 「悔しがってる顔を見て食べるってのも美味しいねィ」 「………そないか」 もう何も言うまい。 言ったら、また何か理由をつけて団子を頼まれてしまいそうだ。 しょんぼりしながら茶を啜る。 おばさんは先程よりも笑顔でツケのメモを店内に貼っている。 「いやぁ、格好良いお兄ちゃんに団子を御馳走できるなんて嬉しいねぇ」 「奢ってんの俺なんだけどなぁ…」 「アンタはいつもタダ茶ばっか飲んでるだけだろ!早くこのツケ払っとくれよ!」 「はーい…じゃあ給料入ったら来ます…」 どうやら、ここのおばさんは面食いだったらしい。 いつもの呆れた目がハートマークだ。 総悟にウインクまで飛ばしている。 (ちなみに彼はそれを受けて、見えないところで吐きそうになっていた) (しかしおばさんには全く見えない、恐るべし美少年マジック) 「で、総悟は何でサボってんの?」 「何でィ、サボッちゃいけねェってのかィ。良く言うだろうが、若者は羽をうんと伸ばしてひたすらサボることが義務だって」 「え、マジで!?知らなかったわ、そんな義務」 「そうそう。今、俺が決めた」 「ええええええ」 勿論嘘なのだが、は一瞬騙された。 軽い調子でカミングアウトした総悟にブーイングが飛ぶ。 しかし彼は、しらばっくれながら団子を綺麗に片づけた。 「ってかそれ駄目じゃない?土方怒るんでない?」 「なんでィ。金もねェくせにタダ茶啜ってるお前の方が怒られる対象だっつの」 「えええええ!ヤバイ!それはヤバイ!!」 総悟の心配がいきなり自分の心配へ。 確かにサボリよりもタダだからと茶を思いきり啜っている自分の方が悪い気がする。 は真っ青になりながら、そそくさと空になったお皿を我が物のように傍に置く。 とりあえず、ツケを払うのは自分なのでこれぐらいはいいはずだ。 …と、が一人頷く横で総悟はのんびりとその様子を見ていた。 (…からかいがいがあるねェ) サドの血が騒ぐ。 ニヤニヤと笑いながら、恐らくおばさんが出してくれたであろうお茶を啜る。 勿論、お皿はと総悟の丁度間。 と、なると土方が来たとて、言い訳が出来る。 そう、例えば。 「…テメェ、総悟……何サボってやがる」 そう、こうやっていかにも、キレます、と宣言している顔でやってきた土方に。 予想していた登場に、がピタリと止まった。 ビクビクとしている隣人をよそに、爽やかに。 「あー土方さん、サボってたワケじゃねーですぜ。の野郎がどうしても一緒に食ってけって五月蠅かったんでさァ」 「ええええええええ」 しらばっくれた。 驚くを他所に、総悟はペラペラと口を開いていく。 怒り心頭の土方を見ながら、皿を指差す。 「これが証拠の皿でィ。丁度真ん中にあって、どうぞ一緒に食べましょう的な印象でしょ?」 「えええええええ!!?」 「っつーわけで、俺はサボってやいやせんぜ。全部コイツのせいでィ」 「えええええええええええええ!!?」 何という濡れ衣。 良かれと思って置いた皿がそんな証拠になろうとは。 が驚きの声しかあげれない中、総悟は至って爽やか。 今にも口笛を吹きだしそうな勢いだ。 そして。 眼前にいる土方の瞳孔が何割にも況して開いてきている。 ハッキリ言って、恐ろしい。 「ちちち、違うんだ土方!誤解!!誤解!!アレ 、五体?」 「………」 「いや、本当に違うんだって!本当に!」 土方が他人にキレているのなら特に何とも思わないが、自分にキレられていると思うと泣きたくなる。 必死に弁解しようにも、頭がついていかない。 どう言っていいか分からない。 怒られるのは誰だって嫌だ。 土方の口がヒクリと引き攣るのを見てから、は頭を抱えた。 殴られてもいいように。 「…どちらにせよ、総悟。お前は見張りをサボってたんだな?」 「サボってやせんって。サボタージュしてたんでさァ」 「意味同じィィィ!!テメェ、総悟オォォオ」 カキィン 人の往来が激しい町中で響く、金属音。 の目の前で、刀と刀はぶつかっていた。 というのも、土方と沖田が奏でたものなのだが。 「土方さん、そうカッカすると血管ブチ切れて死んじまいやすぜ。っていうかむしろ死ね土方コノヤロー」 「お前が死ね総悟」 「あらららら…」 キレた土方の刀を、沖田が煽りながら受け止める。 町行く人達の顔は真っ青だ。 何て言っても、警察の二人がこんなところで切り合おうとしているのだから。 が、はのんびりとお茶を啜りながら映画鑑賞の如く見ていた。 しかも笑顔で。 「ほんと仲良いよな〜二人とも」 「「どこが!?」」 「アハハ、ほら〜」 こんなことを言う始末。 全くもって、空気を読めていない。 というか、自分に被害が無い分、余裕が出来たというところだろう。 (土方に怒られないで済んだ、というのが一番大きい) ヘラリとが笑うと、二人は同じ台詞を言ってしまったがために、怒りが増したらしい。 刀の合わさった部分からギリギリという音が激しくなっている。 「何真似してくれてんでィ、タンスの角に頭ぶつけて死ね土方」 「そりゃこっちの台詞だ。辞書の角に頭ぶつけて死ね総悟」 「じゃあ、二人で豆腐の角に頭ぶつけるといいよ〜喧嘩両成敗〜」 「「お前がやれェェェェ」」 お互い死ねと言い合っているが、に対するツッコミは二人とも健在だ。 そこにケラケラと笑った後、はピタリとそれを止めた。 そして真剣な顔で。 「…あれ?喧嘩リョウセーパイ?両おっぱい?」 いつもの国語能力の乏しさが明るみに出た。 途端に土方の刀が下ろされ、大声でツッコミが入る。 「なんでそうなるんだテメェの頭はァァ!」 それに絆されたのか、沖田も己の刀を鞘に仕舞って、の隣にドカリと座った。 まだ怒りは収まっていないようで、コメカミに青筋が残ったままだ。 何をするかと思いきや。 「…あー、なんかイライラ増してきた。おばちゃーん、団子一つ追加〜、勿論、コイツの金で」 「ええええええええええええ」 団子を追加注文してきた。 勿論、の金で。 いきなりの注文にの悲鳴があがる。 途端に土方も疲れたのか、刀を仕舞って、を沖田と挟んで座る形になった。 ドカリ、とこれまた怒りの収まっていない音が鳴る。 「…ああ、俺もイライラ増してきた。おばちゃん、俺の分も団子追加で。勿論、コイツの金で」 「ええええええええええええええええ」 まさかのダブルアタック。 の悲鳴は誰にも届かず、ただ団子が乗った皿が届けられるだけ。 二人は何も言わずにムシャムシャと食べていく。 (勿論、土方はマヨネーズをつけてだ) (うぅ……借金が四百円……厳しい……) 団子を食べる音が、あまりにも無情だ。 怒りのためか、のしょぼくれた顔に気付く二人ではない。 「…っと、そろそろ戻るぞ総悟。じゃあな」 「ハイハイ。人使いがほんと荒いでさァ…。じゃーな、ごちそーさん」 その後、二人は何食わぬ顔で見回りへと戻っていったのだった。 被害総額、四百円。 その額さえあれば、キャベツが四玉買える。 はしょんぼりしながら、小さく二人に手を振ったのであった。 |