|
買い物が終わったら 真っ直ぐ帰らないと冷蔵物が困ったことに アイスを買うときは、気温と距離とスピードを計算して掛け算し…アレ?そんな計算出来なくね? 「ああ…借金四百円…」 ズーンと沈みつつ、歩みは止まらない。 ちゃんと帰らないと、冷蔵物が悪くなるためだ。 だが、やはり借金四百円は精神にクる。 外の風は気持ち良いというのに、気分は乗ってはくれない。 帰り慣れた道をただ足を進める。 目の端に、公園が見えたときだった。 シュッ シュッ 空気を切る音が聞こえた。 危害を与えるようなものではない。 何かの素振りのような音だ。 は何となく、その音の方へと目を向けた。 「…アレ?何かさっき見たような服が…トラウマになりそうな黒いヤツ」 見えたのは、四百円の借金を作った原因の制服。 黒い、真選組のもの。 心底「ゲ」という心持。 だが、その人物は一生懸命に何かの素振りをしている。 髪は黒く、あの二人とは違う形だ。 「……どこかで見たなぁ」 近藤さんでもない。 ということは、一体誰だろうか。 見たことのある顔は、必死に素振りをしている。 良く見たらそれはバドミントンのラケットだ。 いつもどこかにいそうな顔。 どこかにすぐに溶け込めそうな存在感。 ある意味、地味。 そこでようやく、頭の中のパズルのピースが合った。 「ああ!山崎さんだ」 「え?」 の声に、その人物は素振りを止めた。 汗びっしょりになりながら、目を大きく見開かせた。 「こんにちは〜」 「あ…!君は、この間の…」 山崎退(やまざき さがる)。 真選組の監察。 がここに来た初日、迷子の両親を探してくれた人物だ。 彼はを見て、どうにか名前を思い出そうとしているらしい。 ええと、ううんと、と何回か言い淀んで。 「…さん、だっけ」 名前を当てた。 一度会ったきりだというのに、よくも覚えられていたものだ。 コクコクと頷いて、は笑顔で近寄った。 「おお、当たりでーす。さすがジミー」 「なんで当てた途端地味扱い!?」 「あはは、だって総悟が言ってたんだもん〜」 良いツッコミだ。 ケラケラと笑うの前で「笑いごとじゃないよ!」と声を荒げている。 どうやら気にしているらしい。 公式で地味扱いされていても、だ。 「山崎さん、ここで何やってるの?」 「何って……ああ、ミントンをね」 しかし、質問をぶつければ、すぐに返事が返ってくる。 意外と几帳面なのかもしれない。 先程までブンブン振っていたラケットを、の前に見せた。 テニスのものよりも長く、打つ場所が小さいそれ。 ミントン、という発音とそのラケットで、はその答えをピンと弾きだした。 「ああ、バドミントン!…あれ、バドミントン?ハミルトン?…あ、プランクトン!」 「いやいやいやいやバドミントンで合ってる!最後二つとかどう略してもミントンにはならないよ!プランクトンは全く違うし」 「アハハハ、そっかぁ」 「これ重要だからね、ちゃんと覚えてよ!」 「はーい」 ケラケラと笑っていれば、やはり飛んでくるツッコミ。 懸命なあたり、新八と良い勝負かもしれない。 バドミントンのラケットは結構使われているものらしい。 少しボロボロだ。 「ミントン大好きなんだな〜。結構使いこんでる」 「うん、まぁね」 バドミントンの話を振れば、どこか嬉しそうだ。 ツッコミの真剣さとは違う。 先程まで素振りをしていたラケットを見つめる目は酷く穏やか。 ついついもそれに合わせてほんわりと微笑んでしまった。 「バドミントンって羽打つんだっけ」 「シャトルね」 「そうそれ!シャトルっていうんだ〜…あれって二種類あるよね。プラスチックっぽいのと本当の羽っぽいの」 「うん、本当は羽の方が公式なんだけど、プラスチックの方が羽は散らないし安いから、そっち使う人もいるね」 「へぇー!山崎さんものしり〜…あれ、ものしり?桃尻?…あ、沢尻?」 「違う違う違う!ものしりで合ってる!最後のは有名人の名前だから!自重してさん!」 「あ、はーい。あ、俺のことでいいよ〜。山崎さんの方が年上なんだからさん付けしなくてもいいし」 「あ、そう?じゃあ、そうするよ君」 「君もいらないのに…ま、いっか」 とんとん拍子に話が進んでいく。 というのも、お互いに話の仕方が上手いからだ。 はバイトで鍛えられているし、山崎は監察がてら人の話を聞くことが多い。 お互い、話題が変わってもすんなりとついていけている。 まるで近所のおばちゃんの井戸端会議のようだ。 (話が次元を超えていても何のモヤモヤ感もなく話し続けているところとか) 「ミントン、小さい子やってるとこ俺見たことあるよ。結構ホワホワしたスポーツだよな」 「いやいや、そう見えて実は凄くハードなんだよ。君は本当のミントンを知らない…」 「マジでか」 「結構スピードスポーツだよ。…そうだ、今度一緒にやろうか?」 「え、いいの?」 「勿論だよ!一人で素振りしても悲しいからね、相手がいた方が楽しいでしょ。それに速さだって分かるし」 「うわ、楽しみ!」 「じゃあ、今度非番の日にでも会おっか。君のラケットも持ってくるから」 「うん!」 とまぁ、とんとん拍子に仲良くなっていた。 遊ぶ約束までして、だ。 しかしそれにも全く違和感がない。 二人で穏やかに笑いあうだけだ。 (ってか、何か癒されるなー) というのも、先程の団子事件があったためか、癒しオーラにあてられて心地よい。 あのどSとマヨラーに傷つけられた心がゆっくりと修復していく。 「…んー。山崎さんからマイナスイオンが出てるみたいだ」 「いきなり何の話!?」 思ったことがついつい口に出た途端、驚かれた。 しかし後悔はしない。 はアハハと軽く笑って、ふ、と重たい荷物を思い出した。 「…あっ!?冷蔵物あったんだった!!」 ただでさえ団子屋で時間をいつもより多めに使っていたというのに、ここでもタイムロスをしてしまった。 冷凍物が入っていないだけマシだが、何せ今日は暖かい日。 悪くなってしまう可能性だってある。 ギャアアアアアアッと叫ぶに、山崎は苦笑を零した。 「今度遊びに行くからさ、早く帰った方がいいよ。冷蔵物も悪くなるし」 「そ、そうだよな!?わ、悪くなってるかな…お茶葉」 「お茶葉!!?いやいやいやいやお茶葉は悪くならないから!もっとあるでしょ、他にも!」 「…チョコ。あと、おまけのおまけにいちご牛乳」 「いちご牛乳の方が危ないよ!!?」 の心配はお茶の葉だけ。 いちご牛乳は銀時のものであるため、心配する必要はない。 山崎のツッコミにもめげず、はひたすらチョコと茶の葉の心配。 そうこうしているうちに、彼は背中を押した。 「ほら、とにかく冷蔵物悪くなったら困るから帰った方がいいよ!俺も仕事に戻るから!」 「そう?」 どうやら彼は本気で冷蔵物の心配をしてくれているらしい。 懸命に戻るように説得してくる。 そうされれば無碍にもできない。 は首を傾げながらも、頷いてみせた。 「わかった。じゃあ俺帰るな」 「うん。今度ミントンに誘うからね」 「アハハハ、楽しみにしてる!じゃあまた〜!!」 「うん、またね君」 爽やかに別れを告げる。 大きく手を振れば、彼は軽く振る。 見た目、子供と大人の行動。 しかし二人は気にせずにそれぞれの道を進む。 (ミントンかぁー、楽しみだな) 何だか心が晴れた。 は晴れ晴れとした気持ちで家路を歩いた。 |