(……俺、何かしたっけか) グサグサと刺さる視線。 それは責められているようにしか感じられない。 何も覚えがないとは思っていながらも、あまりの威圧にはツゥと冷や汗を一つ流した。 青年はそれを知ってか知らずか、懐から煙草を取り出して火をつけて銜える。 紫煙を一つ吐き出して、彼は口を開いた。 「……てめぇは何者だ」 闇の中に小さく響く、低い声。 は再び身体を強張らせた。 紫暗の瞳には、銀の髪と彼と同じような色の瞳を大きく開かせた少年がいた。 見た目はただの人間。 だが。 (持っていた、あの大きな鎌を一瞬で消しやがった…) 法衣を纏った青年、三蔵はしっかりと見ていた。 大鎌を懐から出し、そして空気のように一瞬にして消したところを。 人間では出来ない芸当。 悟空と悟浄は昔、ちょっとしたドジで神器を手に入れてああなったが、彼はまた違う雰囲気を持っている。 ということは妖怪。 普通はそういうことになる。 …だが。 (妖怪制御装置が見当たらない…) 隠しているのかとも思ったが、そんな雰囲気もない。 また、妖怪だったなら『三蔵法師』を知らないということは無いに近いだろう。 先程、彼は玄米三昧と大変な間違いを口走ったばかりだ。 そして、玄奘三蔵と呼ばれる自分には、何か感じるモノがあった。 コイツは ヒトでも妖怪でもない、と。 だから、問いかけた。 冷静を保つために煙草に火をつけて。 沈黙が流れる。 先程まで声を出していた青年達も黙っている。 どうやら今は口を挟む時間ではない、と踏んだようだ。 逆に、問いかけられたはというと、戸惑いを隠せずにいた。 何で知らないのさ、と。 「……あー……えっとさ………普通にさっき会ったろうが?」 「あ?」 「…だから!!何者ってちょっと酷いだろ!?俺さっきの店でバイトしてたじゃねぇかよ!!!」 が怒りを混ぜて声をあげた。 そしてその言葉に、約三名の青年の口がぽっかりと開いた。 「どこ見て注文してたんだよ!確かにメニューを見ないと注文できねぇけどさ!でも少しは覚えるだろ!?どう考えたって『さっきの店のバイト君』だろうがよ!!」 「そうだよ!何言ってんだよ三蔵!!さっきの兄ちゃんだろっ!!?」 尚も声をあげる。 その後、何故か悟空と呼ばれた少年も横から声を出した。 どうやら彼だけは他の三人と思考回路が違うらしい。 おお、キミは覚えていてくれたのか!? 勿論!! そんな会話が当たり前のように続く。 まるで前から知り合いだったかのように話す二人に、三蔵は心からゲッソリした。 眼鏡をかけた青年は苦笑し、紅い髪の青年は爆笑している。 つまり、三蔵の問いかけを完全には理解しないで答えた結果がこれだった。 「ハハハハッ!!確かにそうだわっ!!!」 「笑いすぎですよ、悟浄」 「だってよ!さっきまでのシリアスな展開がこうよ?!あぁ〜笑える!!」 「この展開に一番堪えているのは三蔵なんですから、そんなに笑うと尚更可哀想ですよ」 「……黙れてめぇら」 三蔵は頭を抱えて一つ、深い溜息を吐いた。 その姿にまた爆笑する紅の髪の青年、悟浄と呼ばれた彼。 もう一人の青年は苦笑いをするしかないようだ。 もう一度言ってやろうと三蔵が顔をあげる。 すると、そっちでは少年二人で何やら話が盛り上がっていた。 「つか、お前強いのな!!」 「いやいやお前の方が強いじゃねぇか。最後の一撃なんて凄かったなぁ…いい音だったじゃねぇか」 「マジで!?」 「マジマジ」 一言でいうなら、和気藹々。 …悪く言うなら幼子のじゃれあいのようにも見える。 ちなみに、声をかけようとした三蔵の頭の中は『動物のじゃれあい』という言葉と化していた。 同時に、頭痛もし出した。 「お前、いいやつだな!!」 「いやぁ、お前もいいヤツじゃねぇか」 「…てめぇらもいい加減馴れ合うのやめねぇかっ!!!」 空気を切る、粋のいい音。 先程まで笑いあっていたと悟空は二人で頭を押さえた。 三蔵の手にはどこから取り出したのか、ハリセン。 彼はそれで少年二人を思い切り叩きつけたのだ。 良い音なりましたねぇ…と眼鏡の青年が笑顔で言った向こうで二人は身悶えしていた。 「痛ぇ………っ……俺の答えの何が気に喰わねぇんだ、お前…」 「見当違いの答えだから気に喰わねぇに決まってるだろうが」 三蔵の眉間には皺。 そのこめかみには青筋。 手にはハリセン。 (やべぇ、なんか最強じゃね?) そんな考えがの脳裏をよぎる。 未だに隣の悟空は頭をおさえて「痛ぇ…」と涙目で訴えている。 少年に同情しつつも、は「はて?」三蔵の質問を考え直していた。 「……あぁっ!そういうことか。俺の名前は。んで性別は……」 「俺が訊いてんのは、てめぇが妖怪でも人間でもねぇ、なら何なんだってことだ」 の言葉が低い声に遮られる。 どうやらまた見当違いの答えを口走ってしまったらしい。 鋭い眼光が、更に鋭くなりに突き刺さる。 しまったなぁ…と小さくぼやいたのは数秒後だ。 夜の冷たい風が吹く。 忘れられている妖怪の死体。 まだ血生臭さは消えない。 |