三蔵一行が御持て成しを丁重に受けていた頃。
彼らから無事逃げ切れたは、先程いたバイト先の店に現れていた。

妖怪騒ぎで客は一人もいない。
中には数人の従業員と店長しかいなかった。



「…ということで、騒動によってあまり稼げなかったけども…皆のお陰で怪我人は出なかった。少ないかもしれないが、これが今日の給料だ」



そう、給料の支給。
働いた時間は少ないが、給料を貰わなくては埒があかない。



「はい、君」


「あざっす!!」



名前を呼ばれてが前へ出て、茶封筒を受け取る。
中を確認すると、札束が幾らか入っている。
その多さに、は目を見開いた。



「ててて、店長っ!!ちょ、ちょっとコレ多くないっすか!?」



明らかに合わないお札の数。
慌てているとは逆に、店長は優しく微笑んだ。



君のお陰で避難が早く出来たからね。それにお客さんの反応も良かったし」


「いや、でもこれはちょっと多いんじゃ…」


「…すぐに発つんだろう?そんな雰囲気がするからね」



が断ろうにも、店長は穏やかにその茶封筒を握らせた。
旅人を何度も雇っているせいか、何かを感じたらしい。



「旅は大変だからね。これぐらいしか出来ないけど…頑張るんだよ」


「店長…」



優しい眼差しと優しい言葉。
旅を始めてからかけ離れていた人の温かさ。
意外な展開に、は目を見開いた。

心はジンと温かく、優しいものになっていく。



「…ありがとうございます…大切に使わせていただきます」



本当に有難い。
はゆっくりと礼をしてその茶封筒を持ち上げてから、懐へとしまった。
従業員からも頑張れよ、と声をかけられる。


(…あぁ、いい町だ、本当に)


また寄ります、と小声で言うと温かな笑顔が向けられた。
また、おいでと。
は同じように微笑んでその場を後にした。



夜はまだ冷たい。
まだ星も月さえも見えない暗闇。
闇に溶けそうな黒の羽織りと銀髪が風に揺れる。

妖怪騒動なんてなかったかのような静けさ。
遥か遠くからはドンチャン騒ぎのような音が聞こえてくる。
例の彼ら四人はそこにいるんだろう。
出来るだけ近づかないようにしようと、は反対方向へと歩き出した。


(…それにしても……ここも妖怪に異変が起きてたか)


じゃりじゃりと音をたてて歩く。
はその音を聞きながらも、目は険しくなっていた。


(もっと東の方では、まだだったけどな……やっぱ西の方から異変が起こってるってーのは本当だったか)


異変よりも速い、風の噂。
まさか、と思っていた。

が、実際は本当のこと。


(…あ〜ぁ、面倒な世の中になったなぁ、おい)


また一つ溜息が出た。
溜息を吐くと幸せが逃げる、と誰かが言ってた気がするが、そんなのどうだっていい。
出るもんは、出る。
はそう言い聞かせた後、また溜息をついた。


(まぁ、それはそれとして…寝床だよな、問題は)


次の問題はこれだ。
本当は宿に泊まろうと思っていたのだが、それは出来まい。
この小さな町には宿が一つだけ。
ということは、例の三蔵一行に遭う可能性が高い。


(……………ああああああああ!!!面倒なことばっかだ畜生!!!)


ガツっと足元にある石を思い切り蹴る。
その石はホームランとばかりに夜空に消えた。
フンと鼻息を思い切り出して、は足をサカサカと動かして町を出た。
町の明かりがどんどん遠のいていく。


(あぁあぁ…しゃーないなぁ……数キロ歩いて、木の上で野宿にすっか)


三蔵一行に自分の紹介をするか。
それを避けるために野宿するか。

どちらが面倒じゃないかということを考えた結果がコレだ。


(無宗教だけど…神様、いるならもう、あいつらに遭わないようにしてくれ)


また会うだろうと言い放ったが、あまり会いたくない。
会う、ではなくにとってはもはや『遭う』。
事故に近い。

ある意味、交通事故より性質が悪い。
…まぁ、逃げるのは慣れているのだが、と一人皮肉に笑ってみせる。


そんな姿を、見る誰かがいるとは思っていなかった。





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