今…なんて?


「妖怪」?悟空さん達が…?


私達を襲い…喰い散らした“人間の敵”妖怪




自分をチンピラから救ってくれ、笑顔で転がった果物を差し出してくれた。
美味しいと食べてくれた料理。
自分を助け出してくれたのは彼らなのに。




………そんな嘘でしょ!?




「……、さんも?」



ぼろり、と言葉が出る。
それに驚いたのは誰よりも朋茗自身。
混乱しすぎて、心と身体は別々に動いてしまう。

黒い羽織りを羽織ったは、クルリと後ろを向く。
朋茗と主人、二人と目が合った。
安心させるような紫苑の瞳。
けれど、は、口は微笑んでいるものの、瞳だけは悲しげだった。



「…さぁ、どうでしょう」



まるでなぞなぞを出した子供のような言葉。
声はこんなにも陽気だというのに。

表情は、こんなにも歪められて。



そんなの様子を、三蔵一行は見るまではいかないまでも、耳で感じとっていた。

顔は見えない。
振り向かない。

の存在は、誰にも分かっていないのだから。



「…るせーよ」



ぼそり、と少年が呟く。
皆の瞳が、彼へと向けられた。
その言葉はあの妖怪に向けられたものだが、朋茗も言われたような気がして少し胸を詰まらせた。



「人間だとか妖怪だとか、そーゆーちっちぇえことはどーでもいいんだよッ」



金晴の瞳が真っ直ぐ見つめる先。
蜘蛛の妖怪であるはずなのに、それはもっとずっと先を見ていた。
過去か、それとも未来か。
それは分からない。

しかし、その真剣な眼差しは変わらない。



「ただ飯が上手かったんだ。そんだけ!!」



しっかりとした口調で言い切る。
それは潔い言葉。
れっきとした理由。

本当の彼の思いだということが言葉から分かる。
誰もこんな言葉は吐くまい。

だからこそ、朋茗の心に届いた。



「いやはや実に悟空らしい言い分ですねェ」


「動物的本能だな」



のほほん、と微笑みながら少年の言葉にコメントする眼鏡の青年。
法師は悪態づいたが、それは本当の心からの言葉ではないだろう。
確かに台詞としては格好が悪い。


(…でも)


は振り向かない。
少年を見ずに、前にいる蜘蛛を見続ける。
しかし、言葉はしっかりと耳に、心に届いていた。



「…正直で良い言葉だ」



心で呟くつもりがうっかり口の外へ。
耳に届いた自分の声に、は自分にビックリしていた。
同時に集まる視線に、どこか居心地の悪さを感じる。
特に後ろを振り向き、驚きを隠せない金晴の瞳は。

は紫苑の瞳を無理やり蜘蛛に向ける。
すると視界の端に、太陽のような微笑が見えた。



「…サンキュ」



紡がれるお礼の言葉。
少年らしい声。
はなんだか、恥ずかしくなって遂に顔を逸らしてしまった。
照れた顔は見られたくなく、自然と床に目を向ける。

何故か和やかな空気になったときだった。



「この愚かな裏切り者どもが!!喰ってあげるわ!!」



蜘蛛が突如動き出す。
そうなると照れている場合ではない。
床を見ていた紫苑の瞳は再び蜘蛛を見つめ、両手は二つの鎌をしっかりと構える。
照れなど、あの妖怪の言葉がスイッチとなって消えてしまった。


凛とした緊張感がを包む。
それを三蔵はちらりと見やった。

この間は一本の、等身大の鎌だった。
が、今はこの間よりは小さい二本の鎌。
それによって少しはスピードがあがるのだろう、と予測できる。



「八戒は朋茗達を頼む。悟空と悟浄は少し時間をかせげ」



肩にかかっていた経文を手に取る。
それは不思議な音をたてて巻物へと変化した。



「俺が奴の動きを封じる」



紫暗の瞳は蜘蛛を見上げた。
その後すぐに、傍にいるに視線を送る。

嫌な予感。
のそんな予感は的中していた。



「おい、。てめぇも奴を引きつけてろ」


「……………ワカリマシタ」



フルネームを呼ばれ、あの瞳で命令。
恐いことこの上ない。
彼の先程の少年達への言葉で自分はのんびりできると思ったら大間違いだったこともショックだ。
こめかみから一筋汗を流しつつ、目に反射的に涙が溜まりつつは走り出した。



「畜生〜っ!!あの金髪のツラ恐すぎだよオンちゃ〜ん!!」



涙と一緒に零れる叫び。
後ろからは「ああ!?」という怒声と、「オンちゃんって誰?」という暢気な声と笑い声が聞こえる。



勿論

天界では観世音菩薩がその映像を見て大爆笑していることなど、誰も知るわけがなかった。








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