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『死神』 それに縛られて生きてきた でもそれを受け入れてくれる人達がいる だからこそ それをプライドに変えて生きていく 生きろと言ってくれた 貴方がいたから 闇の中でも 生き抜いてみせる 半鐘が、町の中から鳴り響く。 まるで遠い出来事のように、は目を細めた。 村の入口まで距離があるのに半鐘が鳴るということは、見張り台からを見つけたのだろう。 途端に慌しくなるそこは遥かに遠く感じる。 痛む腹部、流れる汗、浅い息…それらがそうさせているのだろうか。 本当に生きていることが不思議に思えるこの身体は悲鳴で一杯になっていた。 だが、傷口は開いていない。 血も足りている。 ならば、進むのみ。 村の入口に多くの町民が集まり始めた。 武器を手に取り、鋭い形相で向かってくるを睨んでいる。 その中心には、やはり青明…お兄ちゃんに似た青年が立っていた。 老人、女、子供、青年、少年、多々ある町民の面々。 全員があの日を境に変わってしまったのだろうか。 大切な人を殺されて、行き場のない感情が身体、心の中を激しくかき乱す。 怒りや悲しみなどと、そんな言葉などいらないほど複雑な感情。 は知っている。 その感情を、壊れそうになる精神を。 「…よう、生きてたな」 町の入口には全員集まったようだ。 もう誰も動きはしない。 青明に似た青年が全員の代わりに声を出す。 はあの感情を宿したそれを聞いて、その場に足を止めた。 彼らとの距離は数十メートルほど。 適当であり、適度なこの距離。 一歩踏み出せば、戦いが始まるだろう緊張感が辺りを包みこんだ。 「今度は俺らを殺しにきたのか?ええ?『死神』さんよぉ」 「逆に自分が殺されるとも知らずにノコノコと…」 「傷も完治してねぇみたいだな…脂汗が酷いぜ?アハハハハハハ!!」 歪んだ町。 歪んだ人々。 歪んだ感情。 それを生み出した張本人。 湿った風がの頬を撫で、髪を揺らす。 銀色の髪は一部、汗で肌に張り付いている。 だが、はそれを気にすることなく、ただそこに立って彼らを見ていた。 自分と同じ感情に囚われたままの人々を。 過去という呪縛に苦しむ人々を。 「俺達はこの感情に縛られたまま苦しんできた!!お前を殺せば、俺達はそれから解放されるんだよ!!」 青明に似た青年が大きく声を張り上げた。 その言葉に、彼らが選んだ解決策がそれだということが明らかに語られていた。 よくある話だ。 その感情から逃れる手段として、元凶を殺すことがあげられるのは。 そうすることで死んで逝った彼らの恨みを晴らせると、そう信じて。 自分達もこの感情から解き放たれると信じて。 きっと彼らは鉄格子の中、暗いそこで鎖に縛られて遠い空を望んでいる。 届かない光を、望んでいる。 それを現実にするために、また闇を受け入れようとしているのだ。 町全体が彼に同調するように大きく声をあげた。 それは地響きとなり、遠くに届く。 天にさえ届くようにも感じる雄叫び。 しかしそれは、無情にも空しい悲鳴にしか聞こえない。 「俺を殺したって、それからは逃げられないよ」 灰色の空が闇を増す中、はぼんやりと空を見上げ、そしてハッキリと言い放った。 空しい悲鳴を吸収したであろう、あの雲は涙を流すだろうか。 くだらないことを考えながら。 「あー?何か言ってるな、何て言った?」 「きっと許しを請おうとでもしてんじゃないの?」 「そんなん無理に決まってるっつーにのう」 の声は聞こえない。 いや、言葉は届かないのだろう。 深い闇に囚われた彼らに聞こえるのは、狂気が生み出した感情の言葉のみ。 それが酷く悲しい存在になっていることを、誰もが気付かない。 しかし、それでもは口を開き続けた。 「元凶を殺したって、過去からは逃れられない」 未だ心の中にある、あの光景。 琥珀の町が紅の染まる日。 「どんなに太陽が明るく照らしても、そこは闇に染まった世界」 もうあの人は返ってこない。 元凶を殺したとて、それはまた行き場のない感情を生み出す。 「手は罪の血で汚れ、もう元には戻れない」 殺した人も、戻ってこない。 過去を引き摺って、人は生きていく。 「その感情がまた戒めとなって鎖に変わり、鉄格子の真っ暗な暗闇に繋ぎ止められるんだ」 その鎖は以前よりもっと重くなっていく。 身動き出来ないその身体で、窓から見える空を望むだけ。 逃げられない 決してこの暗闇からは 復讐を成し遂げたとて そのまま生きていた方が楽だった気にすらさせる ならどうすればいい? 何を憎み 何に怒ればいい? いや 何にしろ それが付き纏ってくるのなら 「…開き直って、生きるしかないんだよ」 彼らのように あの太陽のように輝く彼らのように 辛い過去を引き摺りながらも、必死で生きていく彼らのように 生き抜くしかないのだ 太陽の光を背負う、彼らの姿が脳裏に過ぎる。 それだけでどこか温かくなれるのは何故だろう。 救われた気持ちになれるのは、何故だろう。 望んではいけない太陽の光だというのに。 どこか受け入れている自分がいる。 『知ってるか?』 ふと、脳裏を過ぎるお兄ちゃんの声。 『死神』だから闇にしか生きてはいけないと、そう信じ続けていた自分に。 彼は微笑んで、頭を撫でてくれた。 『光ってのはさぁ、闇がないと輝かないんだぜ?』 そのときの光を、お兄ちゃんを受け入れてはいけないと信じてやまなかったとき。 青明は自分を必要だと言ってくれた。 『逆に、闇も光がないと闇になりきれないんだなぁコレが』 だから一緒にいようと。 言ってくれた。 結局、その光をは奪ってしまった。 けれど、一緒に過ごした時間は幸せすぎるほどで。 (…あ、そうか) どうして三蔵一行達が脳裏を過ぎったのか。 それが分かった気がした途端、どこかおかしくて小さく笑ってしまった。 (俺の『闇』が、あの太陽の『光』に惹かれてたんだ) お兄ちゃんのように。 のように。 綺麗に輝く光を、望んでしまっていた。 彼らを求めてしまっていた。 無意識にも。 一緒に過ごして数ヶ月。 この期間内に、こんなにも。 大切な存在になってしまっていたのだ。 (ハハ、今更気付くなんて、バカみてぇ) 純粋で大食いな悟空も。 エロいけど兄貴分な悟浄も。 優しくて少し腹黒な八戒も。 素直じゃない凶悪な三蔵も。 『領域』なんて通りこして、すんなりと心の中に入ってきてしまっていた。 でもだからこそ、一緒にいなくて良かった。 のように離してしまって良かった。 もうお兄ちゃんのようには、させない。 紫苑の瞳にもう迷いはない。 いや、あると言ったらある。 だが、の心は決まっていた。 「開き直るのは、俺か」 もう紅に染まった身。 それは数えるのが難しいほど、浴びている。 大切な人も、知らない人も。 魂をも、解放している自分だから。 魂の、彼らの分も そして目の前にいる彼らのためにも 生き抜くために取る方法は一つだけ |