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そろそろ眠りたい。 が、眠れない。 「…あの野郎…」 眠気に負けそうな自分を煙草を吸うことで自制する。 三蔵はいつも以上に眉間に皺を寄せて森を睨んでいた。 お酒も入っているため、目が据わっている。 悟浄は酔いのせいで真っ赤になった顔を青くさせるほど恐い表情。 「遅いですね〜」 そんな彼らを放っておいて、八戒は心配そうに緑の瞳を森へと向けた。 が消えてから一時間は経っている。 さすがにトイレは長すぎではなかろうか。 いや、長かろうが短ろうがそれどころではない。 隣にいる三蔵は機嫌は最悪に悪いし、悟浄も触れないほどだ。 どちらも眠たいのに眠れないせいだろう。 「…二人とも眠っていても大丈夫ですよ?僕が起きてますから」 「あいつが逃げるかもしれねぇんだ。眠れるわけねぇだろうが」 「荷物はありますから…さすがに逃げないと思いますよ?次の町まではどう考えても三日はかかりますし」 「フン、どうだかな」 紫煙を吐き出す彼は森を睨んだまま。 このままでは埒があかない。 八戒はハァと大きな溜息をついて腰をあげた。 「じゃあ僕が探してきます」 二人は酒のせいで酔っ払っている。 自分は強い方なので全く酔っ払っていないことから、自分が動くべきだろう。 「あ〜じゃあ俺留守番してるわ」 「はい、お願いしますね悟浄」 悟浄は全く動く気はないらしい。 のんびりと手を振る彼に八戒は微笑みかけた。 この調子で三蔵も「さっさと行ってこい」と言うだろう。 そう思ったときだった。 「………三蔵?」 彼は何時の間にやら立ち上がり、さっさと森の中へと足を進めていた。 紫煙が彼の歩いた跡を残すかのように揺れては消える。 口をぽかりと開いた八戒を、彼は立ち止まって振り返った。 「さっさと行くぞ」 そしてそのまま森の中へ。 しばらくポカンと八戒と悟浄が言葉を失う。 いち早く意識を取り戻したのは八戒だった。 気付けば三蔵の金色の頭が小さく見える。 「あ、じゃあ、いってきます」 「あ?お。おう」 八戒の言葉にようやく悟浄が意識を取り戻す。 それを見やってから、八戒は自分の足を素早く動かした。 遠のく二人の背中。 悟浄はそれを見て一言。 「…ありえねー」 と呟いたのだった。 「三蔵、どういう風の吹き回しですか?」 彼に追いついた途端、正直に八戒は第一声で訊いた。 全くオブラートに包まれていないあたり、素直というべきか少し酷いというべきか。 しかし、それだけでは止まらなかった。 「いつも面倒臭がって灰皿すら取りに行かない人が一体どうしたんです?毒キノコでも食べました?」 さすがに酷い。 いや、声色は真剣に心配している。 だからこそ性質が悪い。 三蔵もさすがに顔を思い切り歪めて紫暗の瞳を隣の男へと向けた。 「面倒くせぇが、あいつに逃げられると何が起こるか分からんからな」 やはり逃亡を気にしていたようだ。 面倒と言いながら紫煙を溜息交じりに出す。 八戒はそれでも納得できないとばかりに口を開いた。 「…だから僕が一人で行くって言ったじゃないですか」 「あいつが何者か分からん。お前が一人で行くよりは二人で行った方が対処の方があるだろ」 「悟浄に頼めばよかったんじゃないですか?」 「あいつは使いモノにならねぇ」 成る程、筋は通る。 確かには何者か分からない以上、常に自分達は危機感を持つべきだ。 一人よりは二人。 それこそ対処できるというもの。 本当ならば悟浄も一緒に行くべきなのかもしれないが、彼はベロンベロンだ。 それに悟空もジープの中で眠っている。 雑魚の妖怪なら彼らは倒せるだろうが、が『危険なモノ』だった場合対応できないかもしれない。 だからこそ、彼は面倒ながらも一緒に来てくれたというべきだろう。 (…でも本当にそれだけ…?) 隣で紫煙を吐き出しながら進む彼は、紫暗の瞳を真っ直ぐに向けている。 時折キョロキョロと瞳だけを動かす姿はさながら…。 「心配ですしね」 「誰が」 カマをかけてみれば舌打ちと共にすぐに返ってくる返事。 言葉は拒否を語っているが、彼はかなり捻くれていることが分かっている八戒は心の中で軽く笑ってしまった。 これが悟空なら「あのバカ猿…」と静かに怒って探し出す、あのときと同じような表情。 (やはりはそういう『特技』か何かあるんでしょうね) すっかり溶け込んでいる。 心の中に、いつの間にかしっかりと入り込んでいて。 (まだ、心を許したわけではないのに) 悟空以外の三蔵、悟浄、そして自分。 の全てを信用しているわけではないし、ただ一緒にいるだけだ。 きっと、もそうだ。 自分達に見せている表情は差し支えない程度のものだけなのだから。 だからこそ距離を置く。 観察する。 何本もの線を、結界を張って。 お互いがお互いを、伺っている。 まだそんな状況であるというのに。 (…貴方は不思議な『存在』、ですね) それが八戒の答え。 |