当たり障りない程度に挨拶を交わして、お昼を取ることになった。
…といっても宿屋の娘さんが作ってくれたお弁当はもうあるわけがない。
宿屋のご主人がの荷物に詰めてくれた軽い食事と、彼らが買っていた食物を摂ることになった。
そこではようやく口を開いた。



「…ところでこの縄、解いてくれないと喰えないんだけど」



食べるどころか自分から動くこともできない。
逃げられないように、と重視していた彼らは今更ながらそのことに気がついた。
の言葉に、三蔵の眉間に皺が寄る。



「解いたら逃げるんじゃねェのか」


「んな面倒なことするかよ。永遠の追っかけっこなんて俺はゴメンだ」



の行動の基準は「面倒か、そうでないか」だ。
今の状況では気力も体力もない。
ついでにここから逃げて永遠に追いかけっこされるよりは、このまま一緒に行動した方が楽だ。

妖怪が出ても、彼らが倒してくれるわけだし。
移動も車なわけだし。
御飯は食べれるし(多分)。
寝床はあるだろうし(多分)。


ただ、自分の正体さえバレなければいい。
いつものとおり、表面上の付き合いをすればいい。


そう考えるとこっちの方が面倒くさくはない。



「俺は面倒なことはやらない主義なの。基準は面倒か面倒じゃないかなの。ってか、縄解いてくんないと俺餓死するっての」


「あーんって選択肢もあるぜ?」


「……俺にやんのかそれを」



悟浄がある提案を出す。
が、の返事で敢え無く撃沈。
勿論、男に「あーん」をやる趣味など持っていないからだ。



「つかいい加減解けーっ!!身体中がミシミシ痛ぇんだよこっちは〜っ!!!」


「あ、本性出た」



は今にしてキレた。
お腹も空いているし、身体は痛いし、疲労は激しいしだ。
うがーっと動かない身体をジタバタさせたを見て、悟空はぼそりと呟いた。
ちなみに白竜はが暴れ出す前に、しっかりと八戒の肩の上に避難していた。


もういい加減、が可哀想になってくる。



「…イイんじゃねぇの、縄ぐらい」


「しょうがねェな」


「やったなっ!!」



三蔵から許しの言葉が出た。
それを聞いての傍にいた悟空が嬉しそうに笑ってから、縄に手をかけた。
シュルシュルという音と共に緩む縄。

固まっていた身体が動く。
同時に、どっと疲れが沸いた。



「あーーーーーー疲れたーーーーーーー」



ずっと同じ体制にあったの身体が悲鳴をあげる。
ミシミシという音が響く中、大きく息をつく。
身体が動くとはどれだけ素晴らしいのだろう。
自由を噛みしめながら、は柔軟体操をし始めた。



「あぁ…幸せ」



この身体が伸びていく感覚にうっとりする。
笑みを零し、逃げる様子もなく柔軟をするを見て、あちこちから安堵の息が零れた。



「じゃあ、御飯を頂きましょうか」



各々輪になって、食事をし始める。
も一通り身体を伸ばした後、自分の荷物から食事を出した。
半日ぶりに口に運ぶ食べ物は美味しい。


(あぁ、幸せ…)


食事の有り難みをしっかり感じて、噛みしめる。
近くではたぶん、精神年齢が幼いであろう二人が食事を取り合いしている。
しかし、は関わらない。
自分の幸せに浸ることだけで精一杯だ。



さんは実に美味しそうに食べますね」



微笑んでそうコメントしたのは八戒だ。
も差し支えない程度に微笑んで、口を開く。



「半日ぶりだからなー。それに旅してたから食べ物の有り難みっての分かってるつもりだし」


「そうですか。いやぁ、見習わせたいものです」



そう言って緑の目が向けられたのは争う二人。
悟浄と悟空だ。
一つのおかずを取り合う二人はまるで兄弟。

そして



「いい加減にせんかっ!!」



ハリセンで二人を叩く三蔵はさながら母親。
では八戒は大人しい姉だろうか。
はもぐもぐと食べながら、うっかり口を開いた。



「…いやぁ、仲良い家族ですな」


「「違ーしっ!!!」」



大きな声でツッこむのは兄弟だ。
そこにはやはり仲が良い、と納得する。



「こんな家族、死んでもゴメンだ」



嫌そうな顔をするのは三蔵だ。
眉間に皺がより、こめかみには青筋。
苛々が溜まっているらしい。

こんな顔を見ても、今は恐怖を感じない。
今までの彼らを見て分かることがある。


(…なんだかんだで、仲が良いんだな)


どんなに言葉で愚弄しても。
どんなに喧嘩しても。
屈託なく、本当の自分を曝け出せる場所なんだろう。

絆は深い。


(…本当なら、俺をここに入れる場合じゃないだろうに)


旅ならば、他人なんか入れずに、仲良い人たちだけでしたいものだ。
それなのに、赤の他人である自分を拉致してでも連れていくという。


(……そんなに、気になるのか……)


彼らが自分に求めていることはきっと、正体を明かすことだろう。
妖怪でも、人でも、神でもない存在。
それに恐怖し、野放しにしておくことが心配だ、ということがあげられる。

三蔵一行は強い。
だからこそ、自分達で分からない存在であるを制御できるのでは、と考えたのだろうか。


御飯を食べ終わり、手を合わせて「ごちそうさまでした」と小さく呟く。
自分の周りを整理してから、は空を見上げた。
真っ青な青空は、涼しい風を運んでくれる。


(…今宵は満月、か)


昨日の月を見たから分かる月齢。
まだ騒いでいる彼らをよそに、はゆっくりと瞳を閉じた。





また、あの夜がやってくる。









第2話<<    >>第4話