「で?」


「あ?」



三蔵がいきなり言葉を発した。
紫暗の瞳がに向いているあたり、に向けられたものだ。
主語や述語も全くない。
質問の意味など分かるはずもない。
は空を見上げていた顔を地上へと戻し、声の主に首を傾げた。

三蔵は御飯を食べ終わり、一服している。
紫煙を吐き出すその口から、言葉は述べられた。



「結局てめぇは何モンだ」



改めての質問。
それに対し、先程まで小さな喧嘩をしていた悟浄と悟空はピタリとそれをやめてに視線を移した。
八戒も微笑を止めて、真剣な眼差しでを見る。

静まったその空気。
白い竜…名をそのまま、白竜というらしいが。
それも静かに紅の眼を向けている。


は顔を顰め、面倒くさそうに一息吐いた。
そして思考を巡らせる。
ようやっと、口を開いた。



「…人間だとか妖怪だとか、そーゆーちっちぇえことはどーでもいいんだよ」


「それ俺の台詞じゃねっ!?」



の口から出されたのはどこかで聞いた言葉だ。
そう、悟空の昨夜の台詞。
叫ぶ彼を、は無視して口を開いた。



「…と、少年が言ったことだし、どーでもいいじゃん」



引用された上に利用された。
そう言われると、悟空は何も言えなくなってしまった。
自分の言ったことが、にも通じる。


妖怪だろうが、人間だろうが。
そうでなかろうが。

ただし、美味しい御飯はない。



「…てめぇが何者か分からない以上、こっちは苛々が納まんねェんだよ」


「だったら苛々してればいいじゃん」



眉間の皺が増える三蔵に、はどうでも良さそうに返した。
あちこちから微妙な視線が届く。
しかし、そんなことを気にする性格ではない。

涼しい風が人々の髪を揺らす。



「言っとくけど、俺はお前達がどうなろうと知ったこっちゃない。例え俺のせいで苛々されても、俺は責任を取らない」



存在も。
過去も。
目的も。

全てを語らず。
ただただ自分の為に生きる。
彼らといるのは、面倒なことが少なくなるだろうから。
メリットだけを、は選ぶ。



「俺は、俺の為だけに在るんだから」



共に行動することになっても、それだけは忘れない。
味方だろうが、敵だろうが。
自分の邪魔になるものは、除いていく。

自分が望むままに、生きる。


それに、正体を曝す気なんて更々ない。
説明も証明も面倒だ。

腹を割って話す、など出来るはずもない。
そこまで仲良くなる気も全くない。





全ては自分の為だけに『存在』する。






「…イイじゃねーの。それ」



最初の言葉を出したのは悟浄だった。
てっきり非難の言葉が出ると思ったが、意外や意外。
正反対の言葉。
は驚きで目を瞬かせて紅の瞳を見た。
彼は煙草を銜えながら、ニヤリと笑ってみせた。



「俺達とおーんなじ。なァ?」


「ええ。全くもって、考えが一緒ですね」



のほほん、と笑う八戒も同じ考えらしい。
ナニが、とは愚問だ。



「こっちも野郎とヨロシクするつもりなんてねェし?」


「僕もゴメンですよ」


「だよな!だって信じられるのは自分だけだしさ」


「………ハイ?」



何かが違う。
は全く分からない、という状態に首を傾げた。

は彼ら四人のように仲良くするつもりはない、と言ったつもりだった。
が、何か違う。
どうも、彼らは彼らで仲良くしているつもりなど、ないような言い方。



「ん?俺の捉え方が間違ってんのか?四人共そんなに仲良いのに仲良くないみたいな言い方」


「仲良くしてるんじゃねェての。俺は俺。自分しか信用してねェの」



の言葉に、悟浄は偉そうにほくそ笑む。
三蔵に目を向けてみると、彼は真っ直ぐな瞳でを貫いていた。
隣にいた八戒が、優しい微笑みでを見つめた。



「つまり、そういう集団ですからイイと思いますよ。好きに生きても」







他人がどうなろうと関係ない。
己は己の為に在り。

信頼できるものは、己のみ。






「でもまぁ、三蔵を怒らせすぎると被害が出ますけどね」


「主にハリセンと銃の発砲な」


「めっちゃ恐ェよアレは!!いつか死人出るぜ絶対ー」


「嫌だったら苛々させんじゃねェよおめェら…」



和気藹々と四人が談笑する。
はそれを、ポカンと口を開けて見ていた。

自分は自分の思うように生きているだけ。
好きなように動いているだけ。
仲良くしているつもりはない。
でも一緒にいるってことは。


(…ん?結局それってかなりの仲良しってことじゃねぇの?)


それこそ腹割って生きてるってことじゃないのか。
の心の声は聞かれることなどない。

だが。



『つまり、そういう集団ですからイイと思いますよ。好きに生きても』







(………変なヤツら)


とりあえず、自分のことは話さない、と心に決めながら。
は目の前のほのぼのとした光景に目を細めずにはいられなかった。








第3話<<    >>第5話