夜。

太陽は空から消え、代わりに登るは満月。
星達がその明るさに負けないように、小さくもしっかりと輝いている。


三蔵一行は野宿をすることに決めた。
ジープを止め、晩御飯を取り、宿屋のご主人がくれたお酒を飲み。
その間も賑やかさは変わらなく、は苦笑しながらそれらを見ていた。

そこらの川で獲れた魚を啄みながら、少量のお酒を口に含む。
引き締まった身と酒の苦味が口内に広がり、美味しいとしか言い様がない。


(やっぱあの酒屋のご主人が薦めるだけあるなぁ…美味い)


冷たいお酒だというのに、身体は温まり始める。
後味も良い。
何とも幸せだ。

ところで。



「…なんで君は俺の膝の上に乗るのかね」


「ピーッ」



何故かの胡坐の上には白い竜。
白竜<ハクリュウ>と呼ばれたそれは変身するとジープという鉄の乗り物になるらしい。
可愛らしいそれは紅の瞳を開かせての顔を覗きこんでいる。

覗き込みたいのはこっちの方だ。
この姿に戻った途端、何故かにべったり。
飼い主であろう八戒もこの様子に先程から驚いている。



「八戒、お前んとこのペット、こんなに人懐っこいの?」


「いえ、ここまで初対面の人に懐くなんて…珍しいですね」


「そう…俺、なんかフェロモンとか出てんのかな〜」


「え?ホルモン?!」


「…悟空。俺からはそんな美味いもんは出ねーよ」



悟空のボケに、は呆れながらツッこんだ。
白竜の頬擦りを受け、出たのは溜息だ。
御飯をねだっているだけかと思ったが、そうでもないらしい。
もうお腹は一杯のようで、御飯をあげても食べないのだ。
それなのににベタベタする様は全くもって不思議である。


(この子にはバレてんのかもな…俺の正体)


人にはない、動物的な何か。
それがの正体を告げているのかもしれない。



人間でもなく、妖怪でもなく神でもない。
何に対しても平等に在る『存在』。

ただ、それが受け入れられるかどうかは…別の話。


もしこの白竜が自分の正体を知っていて。
それでこんなにも懐いてくれるというのなら。



「…そうだったら、嬉しいんだけどなぁ」



普通は受け入れられない。
自分だって、誰かが『ソレ』だとしたら受け入れ難い。

……自分、だって……


気分が落ち込んでいく。
それを誤魔化そうと、はグラスの中にあった酒をいっきに飲み干した。
プハッと息を吐き出す。

すると突然、ペロン、と白竜が頬を舐めた。
いきなりのことに紫苑の瞳が見開く。



「!?は、白竜?ぎゃっ!ちょっ、く、くすぐってぇっ」



頬のみならず、あちこち顔を嘗め回してくる。
どうやら慰めてくれているらしい。
が、こっちはくすぐったくてたまらない。



「す、ストップ!分かったから(?)ストップ!うやぁっ!?」



何が分かったかも分からないまま停止を促す。
耳を舐められたところで、は変な声と共にベリッと強制的に白竜を引き離した。
くすぐったいのと、恥ずかしいのが両方で顔が赤くなる。
そしてはもはや息切れを起こしていた。



「おっ!おまっ!ぺ、ペットとして油断してたらこん畜生…っ」


「ピッ?」


「ピッ?じゃねぇよ…あぁもう…」



疲れと共にガックリとは項垂れた。
顔はベトベト、とまではいかないが、唾液だらけ。
ペットである白竜に耳まで攻められて、恥ずかしい通り越して自分にがっかりだ。



「…、くすぐりに弱ぇのか?」



今まで傍観していた悟空が声をかけた。
隣では悟浄がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
そんな彼を睨みながら、はようやく口を開いた。



「…そうだよ…くすぐりには弱ぇんだよ…」



チッと悔しそうに舌打ちするに、白竜は分かってないようで傍で首を傾げている。



「しかも耳が弱ぇんだろ。ちゃんったら感度良好〜」


「…うっせ」


「三蔵良かったな〜。耳を攻めればオちるぜちゃんは」


「死ぬか?」



ジャキッという音と共に悟浄には三蔵の銃が突きつけられた。
まだホモ疑惑を引き摺っていたらしい。
彼は冷や汗を流し、「エンリョシトキマス」と片言で断った。
悟空が白竜を抱き上げたところで、そこでやっとは一息ついた。



「しっかしここまでスキンシップ激しいとはな…」


「きっと白竜はのことを相当気に入ったんでしょう」


「うぅん…でもあんまり舐めないで欲しい」


「ちゃんと言えば分かってくれますよ」



飼い主が微笑みを絶やさないままアドバイスをしてくれる。
はコクリと頷いて悟空の手から、白竜を両手で持ち上げた。
紅の瞳と紫苑の瞳が交差する。



「白竜、嬉しいんだけどな、舐めまわすのだけはやめてくれるか?くすぐったくて敵わんから」



キョトン、とした白竜だったが、コックリと頷く。
本当に大丈夫だろうか…と不安が過ぎったが、飼い主が言うのだから大丈夫だろう。
フゥ、と安堵の息が零れる。
そして、白竜の顔にゆっくりと顔を近づけて耳元であろうところで口を開いた。



「……慰めてくれたんだとしたら…サンキュ」



白竜にしか届かないように小さく言葉を零す。

もし、もしの落ち込みを感じ取って、慰めとして舐めてくれたのだったら。
言うべきは注意ではなく、お礼。


(例え俺の正体を知っていようとも知らなかろうとも…どっちでもいいや)


知って恐れ慄くようなら離れてくれればいい。
それだけだ。



白竜の顔からは顔を離して。

優しく微笑んだ。









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