寺院の中へ入れば、恐怖に震える僧がお経を唱えている姿が目に入った。
戦いが終わり、怪我人がいるからさっさと行けと促すと、数十名が外へと駆け出していく。
軽くお礼を言われながらも、はそのまま部屋へと戻った。

扉を開けば、白竜が待ってましたとばかりに飛び込んできた。



「白竜、寝てなかったの」


「ピーッ」



どうやら寝ずに帰りを待っていたらしい。
…といっても、待っていたのは三蔵一行の方だろうが。



「三蔵達はもうすぐ来るだろうから、ちょっとは寝ときな。もう陽が昇ってきてるから出発になっちゃう」



白竜をそこらのベッドに置いて、優しく撫でてやる。
すると、本当に眠かったのかすんなりと眠りに入った姿が目に入った。
小さくは笑ってから、自分の荷物へと手をかけた。

取り出すのは着替え。
血で濡れた小袖を変えるためだ。


脱げば目に入る、小さな女の象徴。
それを軽く無視して、さっさと着替えていく。
ついでに黒い羽織りをもバサリと羽織って終了だ。

汚れた小袖はワンショルダーに仕舞いこむ。
どうせ今日はさっさと移動になって洗濯は叶わないだろう。
そこまで考えた後、は先ほどまで横になっていたベッドへと身体を預けた。


ブーツを履いたままだが、もう脱ぐ気も起きない。
両腕を組んで軽く枕にしながら、まっさらな天井を見上げた。


(今頃、怪我人は助かっただろうな)


のんびりとそんなことを思う。
というのも、他のことを考えるとキリがないからだ。

今頃、三蔵達が作戦を練っているのかもしれない。
それは目的のものではなく、に対するもので。


(…面倒、ばっか)


瞳を閉じれば浮かぶ、先ほどの光景。
太陽の光を受けた、四人の姿。
それはしっかりと、瞳と脳に焼き付いてしまったらしい。


(オン、お前は、どうしたいわけ?)


三蔵達と一緒に行動しろ、と言ってきた自称神。
それは一体何の目的で?
面白そうだから、というのも一理あるだろうが、唯それだけではない気がする。


(…まぁ、どうでもいいけど)


訊いたところで答えをくれるわけじゃない。
は深い溜め息を吐いた。


(……でも、ほんと、面倒だよ


自分の親友を心の中で呼んでみる。
長い、紅の髪と紺色の瞳。
美しくも可愛い、女性。


(いっそあいつら、俺の正体諦めて、野放しにとかしてくれればいいのにな)


そう軽く心で言えば、彼女の、花が咲いたような笑顔が甦る。
まるで夕焼けがそのまま花になったような君。

だが、今彼女がやろうとしていることは。
許せないこと。


(絶対、お前んところに行くから)


止めてみせる。

君のやろうとしていることを。




『もしも』のときが、やってきても。






そこまで考えが至ったとき、何かスッキリしたのか、軽く眠気が襲ってきた。
すぐに出掛けるかもしれないというのに。

しかしもう身体は言うことをきかなくなっている。
思考もどんどんあやふやになってきてすら、いるのだ。


(…うん、もう、だめだ)


この眠気には逆らえまい。
そう諦めた途端、すぐに意識は遥か彼方へと飛んでいった。







慌しく、青ざめた僧達が外へと出てきている。
多くは多くの死体に怯え、多くは怪我人を構い。
そして助かった葉をよかったよかったと笑顔で迎えている。

目の前で僧が行ったり来たりと、それはもう大騒ぎだ。
三蔵に礼を言う僧たちを見ながら、四人はただただぼんやりとそれを見ていた。



「っつーか俺徹夜なんだけど」


「大丈夫です。ここにいる四人と僧の皆さんは全員徹夜ですよ」


「…八戒、それ慰めになってない」



悟浄から始まって悟空で終了。
眠たそうに半目にしている二人に、八戒は笑みとボケで返した。
彼も眠いことには眠いのだが、そこまでではないらしい。



「寝てもいいぞ。荷物が減るだけだ」


「オゥイ、そういう三蔵様だって眠いせいでイライラしてんじゃねェの」



何ともなさげに嫌味を漏らした三蔵は眉間に皺を寄せたままだ。
実際、眠いが寝れば出発時刻が遅れる。
悟浄がボケッとしながらツッこむと同時に、悟空から溜め息が零れた。



「うえー…こうなるんだったらが寝たときに一緒に寝とけばよかったァ」


「…ですねェ」



最もだ。
今回眠れたのはと白竜のみ。

このまま眠れずに徹夜のままこの岩山を超えろ、というのがまた試練。
後悔する悟空をよそに、三蔵は腕を組んで僧達の様子を見ていた。


その中にはに怪我を手当てされたという僧が、寺院内へと運ばれている様子がある。
白菊が特徴の黒い羽織りはズタズタになっており、彼のあちこちに巻かれている。
残ったものは彼にかけていったらしい。

手当ては正確だったようだ。
遠くからはそれを絶賛する声すらも聞こえる。



「…良かった」


「…え、何がですか?」



何の脈略もない言葉に、八戒が聞き返す。
すると、嬉しそうに笑う悟空が、彼を見上げた。



がさ、俺達に妖怪は頼むって言ったろ?そのとき、自分は死ぬ人を減らすって言ってたから」



だから、助かってよかったって思って、と付け足す。
八戒は両目を何度も瞬かせて、手当てされて運ばれる彼を見やった。



「…そういやァ、死体の山ン中から、よく生きてる奴だけ見つけれたな」



悟浄も紅の瞳でそれを追いながら、ぼんやりと言い放った。
先ほどが怪我人を妖怪の前から連れ出すとき、山の埋もれている彼をしっかりと助けだしたのだ。
他には目もくれず、そこだけを。



「妙といえば妙な話ですね」


「いいじゃん別に!助かったんだから!」



折角助かったというのにどうして、妙な点を出してしまうのか。
それが気に喰わないのか、悟空は頬を膨らませた。
自分達との相違点を出しては、『正体』を掴もうとしている三人を、どこかで分かっていたからだ。



「俺は別に、の『領域』だとか、そんなの関係ねェもん!」


「悟空」


「アイツと一緒にいれば楽しい、そんだけ!!」



本当はどんな笑顔だとか。
『領域』の向こうに何があるのか知りたいけれど。

それで遠のくくらいなら、このままでいい。


嬉しい言葉と、あの戦い方と。
面倒臭いところと酒に強いところと。
礼儀正しいとか、他人に見せる顔だけで、良い。



「じゃ、俺部屋に先戻ってるから!」



言いたいことは全て言った。
悟空はそれでスッキリしたのか、さっさか寺院へと戻っていった。
太陽の光を反射させて、輝くかのように。













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