大きな、荘厳な扉が開かれる。
神の像が一番に目に入る。
そしてその下にいる責任者であろう人物。
次いで、多くの僧が列を成しているのが見えた。



「−これは三蔵法師殿、この様な古寺にようこそおこし下さいました」


「…歓迎いたみいる」



この責任者であろう僧が声を出す。
そこに全く心が篭っていない三蔵の声が返した。

達は後ろからその姿を見守っていたが、どうやら凄いお持て成しをされてるらしい。



「おい、三蔵ってそんなお偉い様だったワケ?」


「ーというより『三蔵』の称号の力ですね。…この世界には『天地開元』という五つの経典があるそうで…」



どうやら彼等もしっかりと『三蔵』の称号の意味を知っているわけではなかったらしい。
も勿論、神すらも知らなかったのだから知る由もない。
八戒が説明し始めたので、そのまま耳を傾けた。


天地開元経文はそれぞれの守り人に与えられる。
その守り人こそ『三蔵』の名。
仏教徒の間では最高僧の証として崇められているということ。

分からない単語の羅列。
は白竜と一緒に首を傾げながら説明する八戒を見上げた。



「んーと?つまりその経文とやらを持つ人が仏教で言う『偉い人』で、それが『三蔵』だということ?」


「まァ、簡単にいうとそうですね」


「ふーん…宗教ってよう分からんもんだな」


「あ、もそう思う?俺もよく分かんねェんだよな〜そういうの」


「あ、そうなの?」



悟空もの言葉に同意を示している。
どうやら彼もチンプンカンプンのようで。

宗教だとかそういう制度や思考はサッパリだ。
二人の頭の上にはクエスチョンマークが飛び交っている。



「なんであんな神も仏もない様な生臭ボーズが『三蔵』なんだ?」


「そこまではちょっと…」



悟浄はそれが気に喰わないらしい。
どうやら仏道はが思っている以上に『清い』ものらしい。
とりあえず、そういうものだと素直に受け取ることにした。
考えることに没頭すると面倒なだけだからだ。

前ではあの年老いた責任者であろう僧が長々と話をしている。
どうやら三蔵の一人である『光明三蔵法師』がここに立ち寄ったという自慢話らしい。



「光明三蔵様が亡くなられた後を愛弟子である貴方様が“玄奘三蔵”として継がれたと聞いておりますが」


「−そんなことよりこの石林を一日で越えるのは難儀ゆえ、一夜の宿を借りたいのだが」



延々と続くだろう言葉を、三蔵はすんなりと遮った。
この話を続けたくないのか、それとも面倒なだけなのか。
おそらく後者の方が強いだろう。

彼の言葉に応対したのは近くの僧であった。



「ええ!それはもちろん喜んで!ーただ」



ちろり、と彼の視線が飛んでくる。
何か物言いたげだ。
八戒がすぐに問い返しに口を開いた。



「何か?」


「ここは神聖なる寺院内でして、本来ならば部外者をお通しする訳には…そちらの御四方は仏道に帰依する方の様にはとても…」



どうやら待遇が良いのは三蔵のみらしい。
確かに彼以外は法衣など纏っているわけなどないし、見た目不良な雰囲気も出ている。
なるほど、とが納得する間、悟浄が声をあげた。



「ざッけんなよ!坊主は良くても一般人<バンビー>は入れられねーッてか?」


「まあまあ」


「俺は構わんが」


「うわー言うと思ったー」



八戒が宥める間に、三蔵はあっさりと了解。
それに悟空は引き気味だ。
信仰心が強いだの警戒心の間違いなんじゃないのとかそういう言葉が近くから飛び交う中、はくるりと踵を返した。



「…ってオイ、何踵返しちゃってンの」


「は?だって入れねぇんだろ?だったらいつまでここにいたって無駄じゃんよ」



何当たり前のことを、とは紫苑の瞳を半目にしながら肩を軽く竦めた。
すっかり諦めの境地。
止めた悟浄が片眉を軽く上げてはぁ?と言葉を出した。



「お前諦め早すぎだろうがよ」


「ここで悟浄みたいに怒って体力減らすよかマシだよ、面倒臭ぇし。じゃ、三蔵ゆっくりしてって〜俺外で寝るから。お邪魔しました」



岩場は硬いが、どうにか眠れるかもしれない。
御飯ぐらい一日食べなくてもなんとかなるだろう…力はなくなるだろうが。
そのときは三蔵に妖怪退治を任せよう、うんと軽く思いながら手をヒラヒラとさせる。



「明日からの旅路、危ない道を三蔵様一人と体力のない四人で頑張ろうな〜」



この言葉はせめての寺院の僧に対する嫌味だ。
御飯ぐらいは強請っておいた方が良かったかもしれない、と心の隅で思いながら歩を進める。
辺りの僧がざわめいたところで、遠くから「お、お待ちを!」と声がかかった。

機嫌はあまり宜しくない、というのも疲労が溜まっているからだ。
は面倒臭そうに振り向いた。



「何すか。俺さっさと寝て明日に備えたいんすけど」



言葉を出すことすら億劫になってくる。
半眼で軽く睨むと、止めた僧は冷や汗をかきながら三蔵へと向き合った。



「−この方々はお弟子さんですか?」


「−いや、下僕だ」



三蔵はその問いに戸惑うことなくキッパリと言い切る。
いっそここまで言い切ると清々しい。
悟空と悟浄は呪文のようにコロスコロスと言って殴りかかろうとするも、八戒が笑顔で押さえていた。



「ああ、やはりそうでしたか」



仏教では『下僕』は大丈夫らしい、という妙な情報が一瞬頭の中を駆け巡る。
偽善的な笑みで此方をちらりと見るその僧。
はまだ面白くなく、片眉を軽くあげた。



「−では今回は三蔵様に免じて、そちらの方々にも最高のおもてなしを御用意致します」


「え?」



の表情が一変、キョトンとなる。
どうやら部外者であろう自分達をも三蔵と一緒に入れてくれるらしい。
悟浄が舌打ちする中、は踵を返していた足をゆっくりと戻した。

渋々だろうが、休ませてくれることには変わりない。
はじっと許可した僧を見上げた後、ペコリと頭を下げた。



「ありがと。助かります」



だからこそ礼を述べる。
その後、責任者であろう僧にも頭を下げる。
まさか礼を述べるとは思っていなかったのか、多くの僧が動きを止めた。


近くから「だから変に礼儀正しいっての」という悟浄の声と、三蔵の溜め息が聞こえた。










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