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「は〜、やーっと生き返ったぜっ」 「いいお部屋じゃないですか」 「ま、『三蔵様』のお陰っスか」 「殺すぞ」 肉がないとはいえ、夕食をご馳走になった五人は部屋へと案内された。 質素ではあるが、ベッドが全員分あり、中々広い。 各々ベッドやら椅子に腰をかける中、も近くにあったベッドへと腰を下ろした。 「どうぞおくつろぎ下さい」 テーブルの上にお茶が置かれる。 傍にはそれを置いたであろう小さな僧の姿。 可愛い容姿に、子供独特の高い声の持ち主だ。 「私は身の廻りのお世話をさせて頂く“葉”と申します。よろしくお願いします!」 ニコリと可愛く微笑む彼は、意外と人懐こいのかもしれない。 いや、『三蔵』のお陰かもしれないが。 「えーと、葉?お茶ありがとう」 「あ、いえ!」 が律儀に頭を下げると、葉も同じように頭を下げた。 それを確認してから、はテーブルへと歩いてお茶を取り、啜った。 熱いお茶が喉を通り抜けていく。 中々美味しいお茶だ。 「チッ配膳ぐらいキレーな姉ちゃんにやらせろっての。悟浄がっかり〜」 「そんな不浄な…!!この寺院内は女人禁制ですよ。ーですよね三蔵様ッ」 「…何故俺にふるんだ」 半眼で嫌そうに声を出す悟浄に、葉はすぐに注意をし、同時に三蔵に同意を求めた。 寺院内では女人は禁制。 (あ、そうなんだ) その言葉を聞いて、は少しばかり紫苑の瞳を泳がせた。 今のところ誰も自分が女であることを知ってはいないようなので問題はない。 が、少しばかり申し訳ないのは確かだ。 の心をよそに、葉は目を輝かせて口を開いた。 「私生きて三蔵様にお会いできるとは思っておりませんでした!!感激ですッ!!三蔵様といえば御仏に選ばれし尊き御方。我々仏教徒にとって絶対的存在にございます!!」 熱を込めて語る葉の瞳は心なしか本当に感動して潤んでいるようだ。 三蔵はどうでも良さそうにそれを流し、尊いというところに悟空が小さく吹き出している。 一気に全てを言い切ると、満足したように扉を開いて「御用の際は何でもお申しつけ下さい」と可愛い笑顔を振りまいて出て行った。 まるで崇拝の塊だ。 「…なんかアレだな。絶滅危惧種の天然記念物みたいだな、『三蔵』って」 ここまで来ると哀れみすら湧いてくる。 『三蔵』という名前で括られる彼にも、それを恋愛のように『痘痕も笑窪』のように崇拝してしまう彼等すらも。 葉が出て行った扉をのんびりと見つめては湯のみをテーブルの上へと置いた。 コトリ、と小さな音が鳴る。 「うーん、まさかそんな例えが出るとは思いませんでしたねェ」 「勝手に動物にして哀れんでんじゃねェよ」 苦笑交じりに八戒が言った後、不機嫌そうに三蔵が新聞を開いて読み始めた。 溜め息が出ているあたり、呆れているのだろう。 そんな後ろ姿を見ながら、は今更ながら「ああそうだ」と声を出した。 「三蔵、ありがと」 「あ?」 何の脈略もなくの礼。 眼鏡をかけて新聞の一面を見ていた紫暗の瞳がへと向いた。 隣で口々に三蔵が銃をブッ放してる姿を見せてやりたいと言っていた悟浄と悟空すらも振り返る。 対するは平然と口を開いた。 「いや、三蔵がいたからここに入れたんだよなぁと。今更だけど」 本当に今更な話題だ。 四人がそれぞれ呆れる中、は「それだけ」と言い切ってベッドへと腰を下ろして靴を脱いだ。 「…ってさァ」 「うん?」 靴を揃えると同時に悟空が声を出す。 聞き返していると、頭の上に白竜が飛んできた。 軽い重みを感じながら顔をあげると、何とも微妙な顔をした悟空がいた。 「優しいのか律儀なのかユルいのか天然なのか全ッ然分かんねェよな」 「…ごめん、まず、それ貶してのか褒めてんのかから分からん」 「…俺もどっちか分かんね」 悟空もよく分かってはいないらしい。 問い返したのにこのままでは拉致があかない。 は面倒くさそうに壁に背中を預けた。 「……えー……じゃあ貶してるって受け取っとく」 「そこでなんで貶してるをチョイスするんだよお前は」 「適当適当。面倒臭ぇから。あ、ビール頂戴ビール。その荷物の中に入ってんだろ?」 ヒラヒラと悟浄のツッコミをやり過ごし、そこらに転がっている荷物を指差す。 悟空が懸命に持ってきたものだ。 しょうがねぇなと荷物を漁り、ビールの缶を軽く投げる。 は軽々と片手で受け取りプシリと勢いよく開けた。 「ありがと悟浄」 「ハイハイどーいたしまして」 「いただきます」 挨拶を済ませてからビールを喉へと通す。 独特の苦味と炭酸が口の中を駆け巡る。 プハと息を吐くと、悟空が俺も飲むと荷物を漁りだした。 「…オイ、」 「…何」 フルネームで呼ぶのは三蔵だ。 事実、他のメンバーはしっかりと名前のみで呼ぶのだが、彼はわざわざフルネームで呼ぶ。 言う方も面倒臭いだろうに、一向にそれがなくなる気配はない。 呼ばれる方もウザったいと思いつつ訂正はしない。 それが壁の一つであることを、何となく理解しているからだ。 「礼するくらいなら正体をさっさとバラすことだな」 「ハイハイソーデスネ。スミマセンデシター三蔵ニハモウ礼言ワナイカラ安心シテ」 「なんで片言!?」 三蔵の言葉をスルーすべく片言で返すと悟空からツッコミが来る。 遠くからクスクスと笑うのは八戒だ。 「…ったく面倒くせェ。さっさと吐いちまえばいいものを」 「何だよ。誰だって謎はあるだろ〜?『三蔵』だって名前じゃないじゃんよ称号じゃんよ」 どうでもよさそうに声を出すと、ギロリと鋭い視線が飛んでくる。 はそれを視界に入れないように、頭の白竜を肩に乗せてバリアーを張った。 白竜は戸惑いながらも声をあげる。 「ごめんな白竜。あの金色の視線が恐いからいけないんだ」 「お前が正体バラさねェからだろうが!」 「あはは、まあまあ」 今にも新聞を破りそうな勢いで立ち上がる三蔵に、八戒は笑顔でビールを渡した。 同時に悟浄が荷物の中から麻雀の牌が入った箱をテーブルの上へと置く。 悟空は悟空で麻雀用の板を用意している。 「誰にだって言えないことがありますし、そこらへんにしといたらどうですか、三蔵」 柔らかく笑う八戒に、三蔵が絆されたかのように席につく。 舌打ちつきではあったが。 は白竜の陰からこっそり様子を伺うと、そこにはもう麻雀の用意がバッチリ準備されていた。 「っつーか麻雀やろうぜ麻雀」 「今度こそ俺が勝つ!!」 どうやら助けられたらしい。 白竜が安心して頭の上へと戻っていく。 気合の入っている悟空と悟浄の傍ら、三蔵が新聞をたたんでテーブルに向き直っていた。 三蔵にビールを手渡した後、八戒が荷物の中を一通り漁って一冊の雑誌を取り出した。 「は麻雀知らないんでしたよね」 「あ、うん」 知っていることには知っているが、役を覚えきれていないためゲームの段階にまでは至らない。 どこまでがリーチでどこまでがロンなのか分かっていないのだ。 確か發と白と中が…と思ったとき、の前には雑誌が差し出されていた。 「この雑誌に役とか遊び方が詳しく載ってますから、勉強しててください」 「え」 問答無用で受け取らされる雑誌。 表紙には巻頭グラビアだとか淫らなヌードだとか教育上よろしくない言葉の羅列と写真がある。 恐らく、悟浄の私物。 その中に『麻雀特集』という言葉が入っていた。 「早く覚えて、一緒にやりましょうね」 キョトンとしながら上を向くと、いつもと変わらない微笑を浮かべている八戒がいる。 電気の都合上、まるで後光が差しているよう。 あの月夜を、思い出させる。 「…五人じゃ出来ないだろ〜」 「だったら俺とチーム組んで一緒に考えようぜ!だからちゃんと覚えろよ!」 遠くから簡単に言ってくれる悟空。 悟浄は彼の向かいで口笛を吹きながら、長い紅の髪を軽く結っている。 懐から煙草を取り出している三蔵は器用に火を点けながら、ちゃっちゃか牌を混ぜているのが見えた。 「……了ー解」 ビールを持った手を軽く挙げて、礼をする。 四人揃って麻雀を始める音を聞きながら、は静かに雑誌を開いた。 紫苑の瞳に映ったのは、麻雀特集という言葉。 そして、見えぬ壁が少しずつ崩れていく姿。 |