部屋の中には牌の音と軽い雑談の声。
小さくページを捲る音。

線香の匂いと三蔵と悟浄の銜えている煙草の匂いが混ざる。
そして空いたビール缶からは独特のお酒の香り。


は紫苑の瞳で何度も麻雀特集を見つめながら、片手でクルクルと日本酒ワンカップを回していた。
酒が入ってるせいか頭はあまり回らない。
疲れているせいもある。



「ロン」



パタンと牌を全て見せる音がする。
三蔵の低い声に、悟空と悟浄があーと軽く溜め息を吐いているのが聞こえた。



「…あ、三蔵上がった?役名何?」


「清一色」


「んーと、ある一種類の数牌のみでつくるきれいな役……あ、本当だ、綺麗。器用だな〜」



雑誌にある牌の配置を見ながら適当にコメントを返す。
誰がどの役で上がったのか教えてもらって、それを雑誌で探す方が覚えるような気がして、先ほどからこういう会話だ。
眠くなってきたのか紫苑の瞳は半開き。
ワンカップを口に含んで流し込み、フゥと息を吐き出して壁に頭を預けている。



、眠いんじゃね?」


「んん〜酔ったかなぁ」



疲れているときに飲むと酔いは廻りやすい。
ぼんやりと宙を見つめながら悟空の言葉に返す様は本当に酔っているようだ。
白竜が上から覗き込んできて可愛い紅の瞳とかち合う。
クイと首を傾げる白竜に、も同じように首を傾げた。



「…酔ってンな」


「酔ってますね」



がこんな風になったことはないから分かること。
悟浄と八戒もそういうところを確認したところで、は残っていた酒を飲み干した。
フゥと息を吐いてベッドの下へとビンを置く。
そのままだらりとは寝そべった。

白竜は頭から離れ、ごろりとうつ伏せになったの背中へと乗った。



「んあー…もうダメだ。寝るわおやすみ」



誰の言葉をも待たず、はそのまま目を閉じた。
雑誌はそこらに適当に置かれ、掛け布団をかけないまま。
全く緊張がなく、安心しきった様子。
眠りに入ろうと深く息を吸ったときだった。



「何なさってるんですかーッ!!」



大きな音と共に扉は開かれ、葉が参上した。
さすがにその声と音に眠りは妨げられる。
慌しい彼の様子とは逆に、麻雀をやっている四人は冷静だった。



「麻雀」



悟浄がさらりと答えると同時に、葉は煙草を吸う三蔵を見つけて目を見開かせた。



「うあ煙草なんか吸ってはいけません三蔵様ッ!」


「あー?」


「よッマルコメ君。かけつけ一杯」


「ああああ缶ビールなんか持ち込んでる〜!!」


「……うっさ……」



今度はビールを差し出す悟浄に声をあげる。
子供の声ではあるが、五月蝿いことこの上ない。
先ほどまで眠りにつけそうだったは、半眼で顔だけを動かした。



「没収ですッ!!」



荷物ごと持っていこうとすると、中からドサドサと沢山の物が溢れ出す。
酒、酒、酒、酒、冊子、酒、酒、何故か十八歳未満禁止のエロビデオが数個、酒、酒……。

欲望の塊が川の流れの如く床へと落ちていく。

慣れていなかったらしい葉という少年は顔を真っ赤に染め、目を回転させて。
挙句の果てにはそこに崩れ落ちた。



「…何、五月蝿くした挙句寝るの?」



不機嫌そうにが言ったところで、どこからともなく溜め息が零れた。






そしてその後。

倒れた葉を介抱すべく他の僧を呼びに行ったところ、酒などしっかりとバレてしまった。
全て没収され、部屋の中には「禁酒禁煙」「色即是空」などの用語が書かれた紙がテープで貼られている。
舌打ちする悟浄を後ろから眺めながら、は眠りを妨げられ、壁に頭を預けてベッドに座っていた。

ちなみに葉は頭を冷やされて、復活を遂げていた。



「…まったく。三蔵法師ともあろうお方が、何故あの様な下賤な輩をお連れに…」



溜め息と共に、この部屋に来た僧が小さく声を出す。
のんびりとが見ていると、三蔵が彼の言葉に反応したかのごとく素早く動いた。
僧の顔のすぐ横の壁に、大きな音と同時に手が置かれる。
突然のことに、僧は目を見開いて身体を強張らせた。



「喉、渇いたんだけど」



紫暗の鋭い眼光で、睨み倒す。
低い声を出して、脳へと恐怖を伝える。
そこに恐怖を覚えない、ただの人間などいない。
怯えた僧は「ただいまお茶をお持ち致します!!」と踵を返して出て行った。
有り難さを全く感じていないながら、彼はどォもと小さく口にした。



「何?どしたの」


「さーね」



分かっていない悟空が、傍で新聞を読み始めた悟浄に問いかけるが、彼は全く興味なし。
ただただはのんびりとその様子を見て、虚ろな瞳を閉じた。


(…フーン…なんだかんだで大切にしてんだな)


彼の行動は素直じゃないまでも、そうとしか思えない。
もしくは『三蔵』の称号への何かだろう。


(ハッ…なーにがどうでもいい、なんだか)


白竜がの胡坐の上へと乗って一つ欠伸をする。
その背中を優しく撫でて、も同じように欠伸をした。

もう騒動は終わっただろう。
大きな声はもう聞こえることはないはずだ。
遠くで八戒と葉がここには妖怪が来たことがないとか、そういう話を聞こえる。



「…となると、なおのこと、僕らがここに長居するわけにはいきません…ね……」



そう言ったところで、八戒がピタリと言葉を止めた。
何事か、と悟空と悟浄が目で追う。
深緑の視線の先には、壁に背中と頭を預けて座り、膝の上に眠った白竜を乗せたまま眠る



「…寝てますね」



葉までもが目で追い、確認する。
このままでは五月蝿いかもしれない、と彼は小さく頭を下げて部屋を出て行く。
バタンと音がしたところで、静かな沈黙が訪れた。



「…ベッドがあンのに座って寝てどうするよ」


「よっぽど眠かったんでしょうねェ」



折角のベッドが勿体無い。
そんなことを言う悟浄をよそに、悟空はさっさとの傍へと移動した。
近づいても全く反応しないまま、ただただ小さく寝息が零れている。
そこに、悟空は小さく笑った。



「なァ八戒」


「なんですか?」



起こさないように、と小さく声を出すと、八戒も同じように返事をする。
彼はの膝の上で眠る白竜をそっとどかした。



って、酔うと寝んだな」



酔ったことなど今までなかったから知る由もない。
は、笑い上戸などになるわけでもなく、ただ眠くなって寝るだけ。



「…そうですね」



新たな一面が見れた、と嬉しそうに笑う悟空に、八戒も柔らかく笑んで返した。
白竜を静かに移動させた後、座っていたをゆっくりとベッドに倒す。
掛け布団をかけると、それに包まるように動いた。
もしかして起きたか、と思ったときだった。



「……ありがと…」



小さな声が、口から零れた。

金晴の瞳と深緑の瞳が瞬きをする。
じっと見つめてみても、起きた様子はなく、ただただ寝息だけ。
未だに瞬かせている悟空をよそに、八戒はクスリと笑った。



「どこまでも、律儀ですねェは」



眠ったままでも礼儀を忘れない。
その姿は立派だけれども、見た目は悟空よりも少し幼く見える。



「…お前ら、そいつを甘やかしすぎてんじゃねェか」



三蔵が紫暗の瞳で面倒そうに見てから声を出す。
低いそれに、悟空がようやく表情の動きを開始させた。
パチパチを目をまた瞬かせて、顔をあげて三蔵を見上げた。




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