甘やかしているのか。
そう言われればそうだ。
まるで子供を見るかのような行動なのだから。



「アハハ、そう見えます?」


「ああ。まるで保護者だ」


「言われたな、八戒」


「てめェもだ悟浄」



のんびりと新聞を読んでいた悟浄が軽く笑うと、トバッチリが飛んできた。
名前を出された二人は互いに見合わせ、揃って肩をすかした。

というのも、これも事実であるからだが。


三蔵から見て、八戒と悟浄はを妹か、子供のように扱う。
出会ったときにはなかった行動が多々見受けられた。


正体を見抜くためか。
人とナリを知るためか。



どちらにしろこの接触は


手探り手探り、壁を見つけて

ゆっくりとそれを崩していく


薄くして薄くして

いずれかは


壊す




「いいじゃん!って面白いしさ!」


「猿は黙ってろ」



悟空は元から地で接触している。
何をも考えず、ただただ友達として。
壁を感じつつも。
不機嫌そうな声に悟空が口を尖らせる一方、八戒と悟浄は何ともないように口を開いた。



「大丈夫ですよ三蔵。ちゃんと弁えてますから」


「そうだぜェ?どこぞの生臭坊主よりも器用なんだからよ」



直接尋ねる三蔵だからこそ、素直に真実が零れるわけではない。
だからこそサイドから攻める。
時間はかかるであろうが、どこからともなくそれは零れるかもしれない。

逆に、全く気にしていない悟空だからこそ零す可能性もある。
油断というものが、もし役立つのならの話ではあるが。


四面楚歌。

その言葉が今のの状況に、良く似合う。



「まァ、それだけではなく、純粋に面白いと思ってるところもあるんですけどね」


「何せ反応が新鮮だから、なァ?」



笑いながら話す八戒と悟浄に、三蔵は深い溜め息を吐いた。
ちなみに悟空は話題が飛び飛びになっているため、頭の上にクエスチョンマークを飛ばすのみだ。

どちらにしろ、興味関心の方が先走っているのだろう。
それでも構わない。


求められているのは、結果。
の『正体』。
それは何をもたらすものなのか。

求めるものは、それのみ。



「…フン、勝手にしろ。ただ、情は移さねェようにしとくんだな」



結果によっては

この手で



紡がれない言葉の意図を読めたのは、勿論八戒と悟浄のみだった。
それも、どこかで分かっていたこと。

だからこその拉致だと、知っていたのだから。



「やーん、三蔵様ったら親切ゥ〜」


「殺すぞ」



チラリと見える、懐に黒い物。
光にそれが反射するだけで、本当に撃つ気はないらしい。
悟浄はククッと小さく笑ってから背もたれに身体を預けた。

情を移せば、もしものときに面倒なことになる。
心を許せば、もしものときに傷つくのは自分。

そう、素直ではない彼にとっての忠告。
優しさととっても過言ではない。



「情なんて、移せるほど持ってませんよ僕達は」


「そうかよ」



事も無げに八戒が軽く言う。
三蔵も鼻を鳴らして窓の外へと目を向けた。

八戒と悟浄は分かっていながら、動いている。
何かあったら理性でどうにかするであろう連中だ。

となると、一番厄介なのは悟空だろう。
素直に動いているだけ、情に流されやすい。



「っつか一体何の話してるわけ?」


は面白いですねって話ですよ」



だからこそ彼は知らない方が良いのかもしれない。
一つ一つの行動や言動の攻防戦や、『もしも』のことなど。

それだけ、傷つくことになっても。


(マジで面倒くせェ……)


たかが正体不明のモノ一つに対してここまで左右させられるとは。
悟空が喜々とのことを話している姿を横目で確認すると、おのずと溜め息は深いものになる。

話題の中心は何も知らずに爆睡中。
いつもは酒に呑まれることはなく、なんだかんだで注意深いのか、寝るのは最後。
ここまで無防備になっているのは三蔵達と一緒にいてから初めてのことだろう。
その姿をこれまた横目で確認して、すぐさま視線を戻す。


投げ出せてしまえば楽だろうに。
拉致してしまった手前、そうもいかない。


だからこそ早めに『正体』を知っておきたいところなのだ。
壁を壊す前に、此方の領域に踏み込まれる可能性だってある。
まるで水や空気のように、静かに忍び寄って。

はそんな性格ではないことは、なんとなく分かる。
だが、そんな気もないのに入ってしまうことがあるかもしれない。


事実、不思議と一緒にいても苦にはならない存在だ。
というのも、まるで悟空や八戒、悟浄のように感じてしまうのだから。
気兼ねも、遠慮もいらない存在。
しかし、それを認めれば領域を侵させてしまうということ。

だからこそ、をフルネームで呼ぶ。
他人として認識するために。



「三蔵も大変だねェ」


「…何がだ」


「べっつにィ?」



まるで三蔵の思考を読み取ったかのように言葉がどこからか聞こえる。
眉間の皺が増えた三蔵を見て、口を出したであろう悟浄がニヤリと笑ってみせた。

彼は意外と鋭いところがある。
周囲を良く見ているからこそ、雰囲気で思考を読み取ることも多々あるのだ。
一番空気が読めるのは彼かもしれない。



「まァ、あんま深く考えねェこった。来るときは『来る』んだからよ」



それは壁が崩れる日か。
領域を侵される日か。

それとも『もしも』の日か。


意味深な言葉と共に深い笑み。
そしてそれはすぐに外され、悟空と八戒の会話に混ざり始めた。
今の話題はから逸れ、どこで誰が眠るかというものになっている。

心がスッキリ読まれてしまい、最もなことを言われてしまえばもう何も言えない。
三蔵はバツが悪そうに顔を顰めて、窓へとまた視線を戻した。


夜を照らす月は新月に近いもの。
それでもしっかりと輝く。


扉が小さく音をたてた。
が寝ていることを知っているであろう、ノック音。



「あ、あの三蔵様。僧正様が是非ともお話をしたいと申しておりますが…」



葉の声だ。
三蔵は小さく舌打ちし、音をたてて椅子から立ち上がった。

本当は是非ともお断りしたいところ。
だが泊まらせてもらっている立場上、伺わなければいけないだろう。
面倒臭そうに溜め息を吐きながら、三蔵はさっさと扉を開いてその部屋を後にした。









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