森という場所は多くの命が宿る。
植物が、そこに生きる動物が多々あるから。


(俺の『担当』は、違うから分かる)


だからこそ、分かる。

森の中に感じる光。
それは目には入らないけれど、『死神』の感覚が感じさせるもの。

生きた、『魂』。



「…こっちか」



一つのそれに、三つのそれが近づいている。
それは人間、妖怪の区別がない。
にとってはどちらも『同じ』もの。


(旬麗…)


過去の親友、にどこか似た女性。
だからこそ失いたくなど、ない。

草や根を掻き分けて、ただそこへと走る。
できれば、ウワサの妖怪が『茲燕』ではないことを祈りながら。
彼女が無事であることを祈りながら。


もうそろそろ着く。
瞬間。



「きゃああああ!!」



響く、悲鳴。
旬麗の声。

の紫苑の瞳には、逃げる際に転んで、木に背を預ける彼女と。
妖怪が三匹。
それを認めると、足は無意識に駆け出した。



「ー手こずらせやがって。もう逃げられねェだろ?」



若い男の声。
嬉しそうに言うその言葉の後ろには、目的が隠れている。



「昨日の今日でこんな上玉が手に入るなんざ、ツイてるなァ、オイ」



一人が旬麗へと手を伸ばす。
が、それは空気を掴んだ。



「な、なんだてめぇは!?」



三人が声を出す中、旬麗に背を向けて、両手を広げる。
紫苑の瞳は、彼等を射抜いた。



「あ、貴方…!」



旬麗が声を出す。
しかし、目の前の人物は振り向かないまま。



「この女性<ヒト>に、手を出さないでくれる?」



いつもより低い声。
威嚇するように、瞳を鋭くする。
そのまま、はそこに膝をついた。



「…旬麗、大丈夫?」



振り向きはしないまでも、せめて声で確認する。
彼女は振るえながら、の肩に手を置いた。



「だい、じょうぶよ」


「怪我も?」


「ええ、ないわ」



その言葉に、安堵の息が零れる。
しかし、彼女は恐怖で震えているというのに肩に置いた手に力を込めた。



「ありがとう、でも、ここにいては貴方が…」


「…あのさ、どこまで子供扱い?」



子供だから、せめてだけでも助けようと言っているのか。
そこまで子供な扱いされては、なんだか虚しい。
無事だという嬉しさと同時にやるせなさ。
安堵の息は、溜め息へと変わった。



「フッ…アハハハハハハ!!確かにガキだ…」



子供だと認めたことで、目の前の妖怪達はまた活気づく。
怯えていた目は、危ない方向へと輝き始める。
目の前には女子供。

大の男の妖怪三人には敵わない。
そういう結果に辿りついたらしい。



「ガキも、まぁまぁな上玉じゃねぇか…」



下品な笑い声が響く。
ただの食べることに対することなのか、性的な食べるの意味なのか。
どちらにしろ、嬉しくはない。

ギッと睨んで、旬麗を背中に隠す。
しかし、それは彼等を煽るだけだったらしい。
笑い声が増して、手が伸びてくる。



「ダメ…っ!!」



旬麗の声が悲鳴のように響く。
銀の頭へと伸びる、妖怪の汚れた手。

紫苑の瞳はまだ真っ直ぐに伸びてくる手を見据えて。
広げていた手に、力を込める。


掴む瞬間。
そこでの手が動いた。



「なっ……」



紫苑の瞳で睨んだまま。
頭と妖怪の手の間を遮るのは、大きな鎌。
持ち手のところでそこを遮り、刃のところを妖怪の腰あたりにあてる。

ぴたりと止まる妖怪の動き。

はそのまま、口の端を上げた。
近づいてくる『魂』を感じたから。



「「旬麗ッ…!」」



二つの声。
草が分けられる音。
感じた瞬間、は手にあった大鎌を消した。



「「お?」」



伸ばしていた手の持ち主である妖怪の頭に、左右どちらからも伸ばされた足。
声の持ち主の二人が同時にそれを蹴っている。
そのままどうなるか、なんて分かったこと。
二人の声と、地面へと落ちた音を聞きながらはとりあえず、気にせずに後ろへと振り返った。



「もう、大丈夫だね」



彼等が来たことはすぐに分かる。
微笑みかけると、旬麗も、安堵の息を零した。



「今のがクロスカウンターってやつですね!!」


「何やってんだよ、あのバカコンビは」



八戒も三蔵も現れる。
近くでは、足を痛めた二人が言い争っている。
それをよそに、彼等は旬麗の元へと歩み寄ってきた。



も無事ですね」


「あたぼー。後はよろしく」



旬麗が無事ならいい。
はフゥと息を吐いて、そこへと座った。

走った距離は短いとはいえ、疲れた。
草木をわけて必死だったのだ、精神的にも疲れる。
冷たい土が心地よく感じた。



「−って言うか、何だよてめェら!?」


「突然わいて出やがって…」



意識のある妖怪二人が慌てだす。
自分達を知らないということは、あの牛魔王蘇生に関わる部下達ではないことを意味する。



「あんたの恋人じゃないんだな?やっぱ」


「ええ…背格好はよく似てるけど違います」


「そっか…よかった」



三蔵の質問に、旬麗が返す。
彼女の彼氏、『茲燕』ではない。

これは一つの救いだ。
安堵の息が零れて、は後ろの木に頭を預けた。



「茲燕を…茲燕を知らない!?そこの人や、この子と同じ銀髪の……」



銀髪。
と同じ髪の色。
妖怪達は目を見開いて、首を傾げた。



「知らねェな。この辺で銀髪の妖怪は俺くらいだぜ」



八戒の言ったクロスカウンターとやらをくらった妖怪は銀の髪。
悟浄が小さく笑うのを見ると、隣の旬麗が揺れた。



「そ…う…」



後ろへと身体が落ちる。
が目を見開いて、それを追う。
倒れるそれを支えたのは、三蔵だった。



「旬麗…?旬麗!!」


「ちょ、揺するなって……あ、大丈夫。気絶してるだけ」



覗いてみれば、整った息をする彼女。
首筋に手をあてれば、健康的な脈を感じる。
全く心臓に悪い。
八戒も覗き込んで、安堵の息を零しながらジープへと運び始めた。
や三蔵達もそれに続く。



「気がゆるんだんでしょう。こんな所まで走って来たんだ、無理もないです」



逢いたい、逢いたいという希望と。
信じたくない、信じたくないという恐怖と。

二つのそれに駆られて、この距離を走った。
精神面でも、身体面でも疲れて当然だ。
しかも、どちらも杞憂に終わってしまった。

安心か、悲しみか。
いや、これのどちらも感じたからこそ、気絶したのだ。


じゃあ帰ろうか、と動いたとき。
後ろから声がかかった。













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