朝が来る。
温かい布団に包まれる。
心地よいこの感覚。

優しい村だからか。
優しい人に会えたからか。
優しい命を、感じることができたからか。


(温かい)


布団に包まって、温かな陽射しを感じる。



「ーちょっと!!起きとくれよアンタ達!ねえ!!」



誰かが呼ぶ声が聞こえる。
起きなければいけないのかもしれない。
でも、瞼が開かない。



「起きろー!!」


「うぎょっ」



掛け布団が取られ、ゴロゴロと身体が転がる。
頭がゴツンという音で、何かにぶつかる。
はみ出ていた床だ。

痛い。
素晴らしく痛い。
ぶつけた頭に両手をあてて辺りを見回す。
すると半おばさんと、叩き起こされた面々。



「〜何だよオバチャン。まだ六時じゃん」


「それどころじゃないんだよ。旬麗知らないかい?」


「旬麗…?」



痛くて、寝起きのぼんやりとした頭。
悟空と半おばさんの声をゆっくりとしつつ、身体を動かす。
低血圧なだけに、頭の回転は遅い。



「旬麗がどうかしたのか?」


「どこにもいないんだよ!村のウワサ話を聞いちまったみたいで…」



もう頭の回転が通常に戻っている悟浄が声を出す。
ちなみにの頭はようやく昨日の出来事を思い返すまでに至っている。



「ウワサ?」


「ああ。昨晩西の森に現れて、人間を襲った妖怪が」



ようやく廻りだす、頭。
先程までの会話が理解できるまでに至る。
ぼんやりとした目で見上げると、焦った顔のおばさんがいた。



「茲燕によく似ていたって……」



目は、確実に開き、頭はすんなりと理解した。

『ジエン』
優しい旬麗の、彼氏の名前。

彼に似ている妖怪が、人を襲ったとなったら。
きっと。



「−まさか旬麗は、一人でそこへ…!?」


「…追った」



会いたい。
逢いたい。

人間を襲ったなど、信じない。
逢って、話を。



「…ってギャア!!!ここで脱ぐな!!」


「あ、わり」



悟空が顔を赤くして大きく叫ぶ。
さっさと行こうと思って、着替えようとしたらこれだ。
眠っても起きても、女だという意識は皆無。
だからこそ性質が悪い。

脱ぎかけた上を戻し、そこらにあった着替えと靴を取る。
荷物のワンショルダーも抱える。



「行くだろ?俺まだ、旬麗に借りがあるし」



二回目の着替えの借りがある。
部屋を出ようとして振り返ってみる。
すると、当たり前のように笑顔を見せる面々。
勿論、三蔵は無表情だが。



「じゃ、玄関で」



肯定、と受け取ってはさっさと廊下に出た。
扉を閉めて、脱衣所へ。
スリッパを鳴らして、そこへと走った。

着いた途端、勢いよく脱ぎ捨てる。
急がなければ、旬麗の身が危ないかもしれない。


まだ頭の中を離れない。
優しい笑顔で、子供扱いしてくれた綺麗な手。
想いが込められた、温かい洗濯物。


乾いたジーンズを穿き、慣れた手つきで小袖に手を通す。
靴下を穿いて、ブーツへと足を突っ込む。
ギュッと紐を力強く縛って、ついでに軽く顔を洗う。

気合を入れて。



「うしっ行ける」



黒い羽織りは後で羽織ればいいだけの話。
男達はもっと着替えは早いはずだ。

律儀にちゃんと脱いだ服をたたんで。
スリッパを綺麗に並べて。
ペコリとそれに頭を下げた。


羽織りを持って、廊下を走る。
スリッパとは違うブーツは、五月蝿い足音しか鳴らさない。
玄関へ行けば、四人は準備万端のよう。



「あ、来た!」


「じゃあ、行きますか」



白竜はもう、ジープとなってスタンバイしている。
さすがに速い。
がコクリと頷くと、皆で乗り込む。



「頼んだよ!私はこっちで探してみるから!」


「じゃあ、よろしくおばさん!」



おばさんが叫ぶ中、ジープは発進した。
朝の風を切り、前へ前へと進む。

村を抜けて、西の森へと入っていく。
木々をよけて、土を蹴り上げる。



「ーもうちょいスピード出ねぇの!?」


「これでも最速なんですけどね」



路の無い場所だからこそスピードが落ちる。
ジープ、もとい白竜が頑張って走ってくれているのだ、文句は言えない。
はじっと目を凝らし、耳を澄ませる。

何事も、逃さないように。



「村人のウワサ通りその妖怪が茲燕だとしたらなおさら、旬麗と会わせる訳にはいかんな」


「〜何考えてンだよ、旬麗は!?」


「俺が知るかよ」



三蔵と悟空がそんな会話をする中、の隣に座る悟浄が、のんびりと煙草を銜えた。
それに火を点けて、紫煙を吐き出す。
ぼんやりと空を見上げて、笑った。



「なァんも考えちゃねーだろよ。愛しい男のこと以外はな」



分かっているのだろう。
彼女の気持ちを。

昨日口説いていたように聞こえたあの言葉の後に、何をしていたのかは知らない。
それを全く聞いてはいなかったし、興味はない。
でも、悟浄が彼女のことをよく考えているのは確かだ。



「……そうだね」



彼氏である『ジエン』を想って想って、干す洗濯物。
あれが悲しいながらも、温かいものだと感じられるのだから。
今も彼を想って想って、想い止まないことは確かだから。



「……逢いたくて、逢いたくて。それだけだろうね」



今までどこにいたのとか。
無事だったのとか。
何していたのとか。

そんなの二の次で。
ただ今は。


逢いたいと。





「…後は、人間を襲ったのは嘘だとか、そんなとこかな」



逢いたいという望み。
それと同時に、人を襲ったことに疑惑を感じて。

愛している人が、愛している人たちを殺す。
それが、酷く恐くて。

そんな恐怖と、戦っている。



「フン、知った口ききやがって」


「言ってる自分でもそう思う」



三蔵の低い声に、肯定する。
彼女のことを全て、知らない癖に、彼女の身になったつもりで。
おこがましい、とか生意気としか言い様がない。

それでもこんなに感情移入してしまうのは。
あの優しい笑顔と、温かい洗濯物と、優しい手が忘れられないから。
でも、それだけじゃない。


にどこか、似ているから

放っておけない



紫苑の瞳を遠くへと向けて、耳と感覚を研ぎ澄ませる。
彼女を、探す。



「ーっと。これ以上は車じゃ進めませんね」


「思ったより深いな、この森は…」



ジープが止まる。
木々は鬱蒼とあって、大きなそれは動けない。
八戒と三蔵の声に、はジープから飛び降りた。



「おい!待て!!」



三蔵が叫び、悟浄の手が伸びる。
が、はそれを振り切って森へと走る。



「逃げないから、探させろ!」



振り返ってそう言い放って。
驚く四人を見た後、真っ直ぐ前を向いては森の中へと消えた。



「……あ、分かったかも俺」



ポカンとする中、悟空が声を出す。
すぐに動かないといけないというのに、あまり見られないの必死さに驚いたままだ。
三人が何が分かったのかと悟空へと視線を落とす。
言った本人は金晴の瞳を、が消えた森を見つめてポカンとしたままだ。



って、他人の命が関わると懸命になってる」



今回の旬麗。
寺院でお世話になったときの葉と怪我した僧。
このときは酷く必死で。

必死さがなく、面倒そうに戦うのは、そこに第三者がいないとき。
自分達と、妖怪との対峙のとき。



「…確かに、そうですね」



不必要に命が絶えることを、止めるように。
足掻くように、動く。



「…まあいい。逃げねェって言ったんだ、アイツは放っておけ」



今は、旬麗を探すのが先。
もしが逃げたのなら、また追いかければいい。
取り返せるもの、取り返せないものの区別はハッキリとついている。



「手わけしよう。悟浄と八戒は向こうへ。俺と悟空はこっちを捜す」


「ああ」


「ジープは目印としてここにいて下さい」



ジープである白竜が小さく鳴く。
それを聞いてから、三蔵達は二手へと別れた。

深い深い森。
消えた旬麗を捜して。













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