濡れた道を追って辿り着いたのは村の中にある、極普通の一軒家。
ただ、違うのは他の家とは違って、沢山の洗濯物が風にはためいているということ。



「あら、いらっしゃい」



女性は外で待っていてくれたらしい。
いや、それとも洗濯物を干していたのだろうか。
柔らかく微笑む彼女に、は笑い返して頭を下げた。



「すみません、遅くなりました」


「フフッいいのよ。さ、こちらにどうぞ」



何やら子供として扱われているようだ。
というのも、彼女の瞳は本当に子供を見ているかのような眼差しだからだ。
微妙な感覚に陥りながらも、玄関を潜る。

すっきりと片付けられた家の中。
無駄なものはほとんどないが、ちゃんと生活していることが伺える。



「他の人たちは皆、あの部屋で着替えてるわ」


「…あれ、着替えも濡れてたんじゃ…」


「ウチのでよければ、着替えがあるのよ」



ホラね、と彼女は適当な服とタオルを渡す。
たった今そこで会ったばかりだというのに、本当に有り難いことだ。
温かい人は本当に温かい。



「悪ぃな」


「ありがとう」


「フフッいいえ。さ、着替えて。貴方はこっち、貴方はこっちの部屋よ」



は右の部屋、悟浄の部屋は左。
着替えの部屋はいとも簡単に分けられる。

男同士ならば同じ部屋にするだろうに、と思いながらも、は素直に従った。



「ありがとう。じゃ、また後でな」


「おう」



悟浄にさっさと背を向けて、促されるままに部屋の扉を開ける。
誰もいないそこに、は足を踏み入れた。

あの女性の部屋だろう。
ベッドと可愛らしい小物、タンスが置いてある。
窓には花が綺麗に咲いている。
優しい香りが鼻を擽った。






「…うーわ、ムッサ!」



逆に、悟浄は自分が促された扉を開けて、嫌そうに顔を顰めた。
一つの部屋に、三人の男の生着替え。
女好きの悟浄にとっては、ムサいことこの上ない。



「嫌なら外で着替えてろ。誰も止めやしねぇ」


「あー、着替えますよ着替えますよ。あー、男の裸見ても嬉しくねぇってのに」



三蔵の鋭い眼光を感じながらも、扉を閉める。
筋肉質なそれらを見て、酷く心が萎える。
が、着替えなければ始まらない。
自分もさっさと脱いで、タオルで体を拭き始めた。



「あれ、は?」



気付いたのは悟空。
上半身だけ裸で、ワシャワシャと頭を拭いてあちこち見回した。
下はしっかりと着替え終わったようだ。

いつもそこらにいる銀の髪がいない。
悟浄と一緒に来たはずだというのに。



「あ?アイツなら違う部屋で着替えてんぜ」


「ハァ!?一人で!?ズリィ!!」



こっちは一つの部屋で男四人鮨詰めのように着替えているというのに。
悟空が頬を膨らませる中、八戒と三蔵は静かに目を合わせた。

だけ違う部屋にしたのは、彼等だった。
というのも、が女だということを知っていたのはこの二人だったからという話で。
今まで一緒に寝たりはしていたものの、さすがに着替えは危ないのではないか、という配慮のもとだ。


その間に逃げるのではないか、という考えもあったが、まぁそれはないだろう。
まだ『壁』は壊れず、『領域』には入れないでいるのだから。



「なんでアイツ一人で着替えてんの!?」


「しょうがないじゃないですか。昔の酷いケガを見られたくないって、前言ってましたし」


「え、俺それ初耳なんだけど!」



八戒が苦笑を零しながら悟空を促す。
適当な嘘で、誤魔化して。
いつ聞いたの、この間の…と八戒と悟空の会話が続く。
三蔵も溜め息を吐きながら、着替えのズボンを穿き始めた。



「……というわけでですね、着替えの部屋を別にしてもらったんですよ」



結局嘘が嘘を呼んで、の背中には大きな傷があって、それはケロイド状で…と大層なものになってしまった。
悟空は何も言わずに、じっとその嘘に耳を傾けていた。



「…なんで八戒が知ってて、俺が知らないんだよ」


「そう言われましても…」



今度は嫉妬に変わっている。
頬は先ほどよりも膨れて、本当に子供が拗ねている表情。
苦笑で誤魔化そうにも、誤魔化せない。
そこでようやく、悟浄が口を開いた。



「あーあ、始まっちゃったよ。チビ猿ちゃんの嫉妬〜」


「んだとコラ!!」



からかうことで、話を逸らす。
悟浄お得意の話術に、悟空は喧嘩を売られたとばかりに喰いついた。

そこでようやく八戒が安堵の息を零す。
瞬間、それが凍りつくことになる。



「…もういいよ!俺、アイツに怪我ぐらいどうってことないって言ってくる!!」


「え」



何故そんなことに。

真実を知る八戒と三蔵の動きがピタリと止まる中、悟浄は面倒そうに声をあげた。



「そんなん、後で言えばイイだろーが」


「今言っておかないと、忘れっかもしんねェもん」



正論。
悟空は後で後でと言って忘れるタイプだ。
だからこそ今行かないと、と思ったらしい。



「じゃ、行ってくる!」


「わーっ!ちょ!ちょっと待ってください悟空ー!!」



八戒が叫ぶ中、悟空の耳には全く聞こえず。
無情にもパタリと扉は閉められた。









「…何か、八戒の悲鳴が聞こえたような」



のんびりと脱いで、濡れた服はカゴへ。
身体を一通り拭いて、首へとかける。

着替えの下着はなんと女性モノ。
あの女性は、が女性だということを分かっていたらしい。


(ブラは、いらないんだけど)


というか、サイズが全く合わない。
彼女の胸は大きかったが、のはとりあえず、女だとは分かるものの、小ぶり。
まぁ、いつもさらしをブラジャーの代わりにしているのだ。
今回もそうすればいい。

下着を穿いて、着替えのズボンを穿く。
どうやら下着以外は男物らしい。
少しだけ足の長いそのジーンズに足を通す。

ファスナーをあげて、ボタンをとめて。
何やらぶかぶかだが気にしない。
さて長い裾でも捲ろうとしゃがんだときだった。



〜!!」



バァンと思い切り開かれるドア。
驚いて顔をあげると、そこには上半身だけ裸の悟空の姿があった。



「どした?」


「どしたもこしたもねェよ!昔の怪我とかどうってことねェだろ!」


「は?」



一体何の話だ。
とりあえず、両足の裾を捲って足を出す。
それを確認したところで、は上半身をあげた。



「昔の怪我?」


「八戒から聞いた!んなケロイドとか大したことねって!!」


「ケロイド?」


「そ!ケロイ………」



冷静に問い返せば全く分からない話。
ケロイドって何だろうと思いながら、は腰に手をあてながら目の前の悟空を面倒そうに見つめた。
が、先ほどまで酷い剣幕で喋っていた悟空の口が止まった。

ぽかんと、を見て。
目を擦って。
もう一度見て。

次の瞬間。



「………でぇぇぇぇええぇぇぇえええぇ!!!!!?」



大きな叫び声と共に部屋から出て行った。
何とも騒がしい。
一体なんだったのだ。



「…何しに来たの、アレ」



溜め息が零れる。
変な夢でも見たのだろうか、この真昼間から。
はそのまま、何も気にせずに、そこらにあった包帯へ手を伸ばした。
グルグルと胸に巻きつけてから、着替えを身体に通す。

上は丁度良いシャツだ。
有り難いなぁ、と思っていると、部屋の外はまた五月蝿くなっている。
一体、本当になんなんだ。


そう、は全く、女という意識がゼロに近かった。











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