大きな悲鳴と共に、扉が閉じられ。
またそれと同じように、三蔵達が着替えていた扉は開かれた。



「…どーしたっての?」



開けたと思ったら思い切り閉じて、そこに背を預けて息を整える悟空。
その顔は驚きと、赤面に染められている。

悟浄は一番扉の近くにいたために、訊かざるをおえない。
窓側では三蔵が頭を抱え。
八戒が苦笑を通り越した笑顔で迎えた。



「だだだだだ、だってが」


「おチビがどーしたっての」



どもっているあたり、本当に驚いたようだ。
面倒だが、それを訊いてやらないことには始まらない。
悟空は思い切ったように、大きく口を開けた。



が、女に変わったあああああ!!!」



酷く混乱しているらしい悟空から出た言葉は、が女だった、ではない。
今まで男だと思っていたのに、見たのは女のもの。
上半身しか見えなかったが、腰は綺麗にくびれ、小さいながらも胸があった。

思い出すだけでも恥ずかしい。
というか、女に変身したとしか思えない。
というのも、受け入れられないからだが。



「…あーあ、バレちゃいましたね、三蔵」


「…また面倒になるな」



悟空の混乱をよそに、のんびりとした応対。
窓側の二人は慌てる彼を見て、外を見る。
無視を決め込んだらしい。



は女に変身しただけだよな!そうだ!そうに決まってる!!」


「んなわけねーだろが」



現実を受け入れられないままの悟空に、悟浄が面倒そうに言い放った。
彼はもう着替えは完了しており、後は靴下を履いてスリッパを履くだけ。
そこらに落ちていた悟空の上半身に纏うべく服を軽く彼に投げつけた。

悟空とは違って、彼は酷く冷静だ。
耳だけ澄ませていた八戒が、おやと後ろを振り向いた。



「悟浄は驚かないんですね」


「そういうお前らもじゃん」


「え!?ええ!?どういうこと!?」



まるで知っていたかのような言葉。
驚く悟空を後目に、三蔵もゆっくりと振り返る。
どうでもよさそうに靴下を履き始めた悟浄が口を開いた。



「そーりゃ分かんだろ。細い腕とか、妙に柔らかいとか」


「…正直、悟浄を侮ってましたよ僕。さすがですね」


「女好き万年欲情エロ河童だからな」


「ああ?!アレはアウトだっつの!ガキだし胸ねェし女の欠片もねェし!」



大きくバツを両手で作る。
悟浄はが女であることをしっかりと知っていたらしい。
それでも手を出さないのは全く「女」と認めていなかったからに過ぎない。



「…え、じゃあ俺以外皆、が女だって…」


「ハイ、知ってたということになりますね」



ポカンとする悟空をよそに、八戒は苦笑を零した。
結局知らなかったのは悟空のみ。
だから、着替えの部屋は別々にしたんですよと付け足すと、彼はへにゃへにゃとその場に崩れ落ちた。



「…知らなかったぁ……」



顔はまだ赤いまま。
そういえばいつか抱えて助けたとき、軽かったっけとか。
今更『女』を認識して、またそれが混乱を呼ぶ。

まだ脳裏に焼きつく、白い肌。



「イイじゃん、儲けもんだと思っとけ〜。で、どうだったよ。胸はやっぱ小さかったろうが」


「ハイハイ、そこまでー」



そろそろその話はやめましょう、と八戒が遮る。
このままではまた教育上宜しくない話に発展してしまいそうだからだ。

『女』と知って戸惑うのは悟空のみ。
三蔵達は全く普通である、というのはそう認識していないから。



「さ、悟空。着替えたら出ましょうね。そして、に謝りましょうか」



裸を見たことは変わりない。
だったら謝るしかない。

ポン、と優しく肩を叩く。
すると、悟空はさっさと上の服を着た。
乾いた音と共に感じる平らで筋肉質な胸。


全員着替え終わったと同時に、八戒が、ゆっくりと扉を開いた。






扉の向こうには女性と、の姿。
テーブルに置かれた乾いた洗濯物を仲良くたたんでいた。



「ごめんね、手伝ってもらっちゃって」


「いいえ、これぐらいしないと」



笑みには笑みを。
は三蔵達にはあまり微笑まないが、他人となれば別。
すぐに別れることを知っているからこそ、笑みを零すのだ。



「あ、タオル足りた?」


「助かりました。スミマセン、服までお借りして」


「ううん、サイズが合って良かった」



女性が部屋から出てきた三蔵達に気付いて微笑みかける。
八戒が応対している間にも、はパタパタと洗濯物をたたんでいく。
そこに、顔を真っ赤にした悟空がゆっくりと近づいた。



「…、あの、さっきは、ゴメン」



ゆっくりと、小さく紡がれる言葉。
は顔をあげて、フムと考え始めた。



「まぁ、寝惚けるには早い時間だったな」



怪我があるだとかなんだとか。
ケロイドだとかなんだとか。
寝惚けて言いにきたことを謝ってるのだろうと、はのんびりと返した。



「…寝惚け?」


「あれ、違う?怪我とかケロイドとか」



何やら話が擦れ違っている。
二人揃って首を傾げる中、悟浄が後ろからやってきて、悟空の頭に腕を置いた。



「お前の裸見たことに、謝ってんだろーが」


「裸?」



面倒そうに声を出す彼を見てから、は思い返す。
悟空が部屋へと入ってきたとき。
寝惚けた台詞と、自分の状況。

ようやくそこに至ったのか、はポンと両手を叩いた。



「ああ、俺の裸見たから?」


「遅ェよ、気付くの」



ベシッとの頭を軽く叩く。
と同時に、悟空は思い出したのか、また赤面しだした。
初心なことこの上ない。
悟浄は彼の頭に乗せた腕に体重を預けた。



「別に俺の裸見たぐらいで謝ることねぇよ?」


「え?」



キョトンとしたのは悟空、悟浄だけではない。
言い切ったもキョトンとしている。
というのも、彼等の顔があまりにも間抜け面をしているからだ。

何だかそれがおかしかったのか。
は小さく吹き出した。



「…って何笑ってんだよ!こっちは真剣に」


「アハハ!いや、だって、俺の裸見て嬉しいこと何もなかっただろ?」



真っ赤になりながらも訴える悟空をよそに、はクツクツと笑う。
悟浄はまだ目を見開いて、笑うを見やっている。



「あの女の人なら嬉しかったろうけど、俺の見たって何もないだろうが」


「ええ!?いや!でも!」


「確かに生物上『女』だけどな。それだけの話だ、俺のは」



身体は確かに女性のものだけれど。
そんなに立派なものでもないし。
心は、そんなものではない。



「だから、気にすんな。たかが俺の裸だ」



クツクツと笑いながら、はまた服をたたみ始めた。
本当に自分で『女』を意識していない発言。



「…いいのかなぁ」


「…イイんじゃね?」



遠くで悟空が戸惑い。
悟浄が面白そうに笑みを作り。
静かに洗濯物をたたんでいるを横目で見て。

三蔵と八戒は人知れず溜め息を零した。
結局『女』であることを隠したことは無意味だったことに。











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