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ゆっくりと時が過ぎていく。 旬麗の仕事や、おばさんの手伝いをしていたりで、もう夕刻。 またごはんをご馳走になってから、部屋の前へと戻ってきていた。 「美味かったな、晩ごはんも!」 「食べすぎじゃねぇ?」 「全ッ然へっちゃら!」 ごはんを食べた後、八戒と三蔵、悟浄はそのまま戻っていった。 残った二人は後片付けを手伝って、ついでにおばさんを隣へと送っていった。 その間、先程『女』だと意識していた悟空だったのだが、すっかりと元通り。 一体あの騒ぎは何だったのだろうか。 ニコニコと笑う悟空の横で、は小さく溜め息を吐いた。 今日の寝室となる部屋の扉を開ける。 「−あ・れ。悟浄はぁ?」 「さあ?便所じゃないか」 悟空の第一声はそれ。 部屋の中で寛いでいた三蔵が応えると同時に、入ってきた悟空は顔を顰めた。 「げ、何コレ」 「あのオバサンがどうしても一晩泊まってけって。修学旅行じゃねえっつーの」 先ほど送っていったオバサンの笑顔が頭の中をよぎる。 というか、泊まっていってと言ったのは旬麗ではなかったろうか。 はのんびりと考えていると、隣にいる悟空から乾いた笑い声が零れた。 ベッド一つの傍にはこれでもか、と敷詰めた布団。 皆がこの部屋で寝るということはこういうこと。 旬麗に、やっぱり違う部屋にするとでも強請っておいたほうが良かったかもしれない。 「ま、お世話になったことですし、お言葉に甘えましょう」 のんびりと本を読んでいた八戒が笑顔で促す。 それもそうだ、とはそこらに布団に腰を下ろした。 これもしっかりと干していたのか、太陽のいい匂いがする。 柔らかく、温かい。 (これも、沢山の想いが詰まってる) それが何だか嬉しくて。 は小さく笑みを零した。 あの優しい笑みも。 あの優しい手も。 あの優しい香りも。 (。お前みたいだ) 身長も体重も。 性格も何もかもが違う。 けれど、懐かしいこの感覚。 (それに、ここは、本当にいい村だな…) 人間と妖怪の異種間の交わりが禁忌とされていても、むしろ祝福してくれる村の人たち。 祝福された二人の深くて、優しい愛の形。 今は悲しいけれど。 きっと きっと、未来は 「…なー、八戒。いい加減教えてよ。前っから悟浄が捜してる、“ジエン”ってのは何者なんだ?」 ふと意識を戻せば、悟空がさらりと八戒への質問を行った。 ベッドへと腰を下ろし、隣の深緑の瞳を見上げる。 が、彼はすぐに立ち上がった。 「僕もおトイレお借りしますか」 「本持ってか?」 「ばっくれんなよッ悟浄のこと知ってんのは一緒に暮らしてたお前だけじゃん」 よいしょ、と本を持って逃げようとした八戒の逃亡は失敗に終わった。 三蔵のツッコミだけに終わらず、悟空からも大きな声があがる。 ぼんやりと、はその三人を見ていた。 「本人に直接聞けば…」 「絶対嫌」 「…なら聞かなくてもいいんじゃん」 本人に直接聞くのは嫌だというのに、何故八戒に尋ねるのか。 が首を傾げる中、悟空は枕を抱いて、唇を尖らせた。 「…だけど何か、俺何にもヒミツとかねーのに、アイツにあるのってズルイじゃんか」 なるほど、そこが嫌なわけか。 悟浄に直接聞いたところで、からかって終わるだけだからだ。 拗ねている理由が何とも微妙なだけに、は溜め息を小さく吐いた。 「…ガキ?」 「悪かったな、ガキでよ!!まだ未成年だもんよ」 三蔵の言葉に、悟空は逆ギレ。 確かに未成年だし、悟空は子供だ。 身体的にも、精神的にも。 恐らくと同じ位の歳なんだろうが、全くそこが違う。 の場合、他人のヒミツだろうが何だろうが、関係ない。 自分の『領域』に入られなければ、何事もどうでもいいことでしかない。 勿論、も自分のヒミツを零さないように必死になってるあたり、子供ではあるのだが。 「そういう意味じゃ、コイツだって同じだろうが」 三蔵の親指が、びしりとを指す。 確かにそうだ。 の方がヒミツを沢山抱えている。 ヒミツの塊のようなもの。 何やら自分にも飛び火しそうだ。 どうしようもなく、両手を上げるだけだ。 「もズルイ、けどさ。絶対に言わねぇんだろ、どうせ。のこと知ってるヤツもいないしさ」 とは違う。 八戒という理解者がいるからこそヒミツを聞ける。 あの、悟浄のヒミツを。 「…分かってくれて、何より」 悟空は分かってくれていたようだ。 どんなに責められたことで、ヒミツを話す気など更々無いことを。 上げていた手を下げて、ホッと一息。 逆に三蔵は眉間の皺が増えているのが見えたが、それは無視だ。 「…ま、悟浄にも口止めされてませんしね」 喋ろう、としているのか。 八戒のその言葉に、はすぐさま、立ち上がった。 「たんま。ちょっとたんま」 「はい?」 言葉を中断させる。 皆が疑問符を浮かべる中、はさくさくと扉へと歩いた。 「そういうことは、俺抜きで話してくれ」 「え?なんで?」 悟空が首を傾げる。 そこは、分かってないのか。 は面倒そうに振り返って、扉を開いた。 「俺は俺の『領域』に入れない。それだけ、俺も誰かの『領域』には入らない」 紫苑の瞳は、真っ直ぐに向けられた。 その信念を曲げないとでも言うように。 これはルール。 『壁』を薄くしないためにも、自分のためにも。 相手のためにも。 「…旬麗のは、聞いたじゃん」 「旬麗は今日限りだし、あれは不可抗力。じゃな」 悟空の言葉を軽く払いのけ、は扉の向こうへと足を踏み出す。 パタリという音と共に閉まり、の足音は遠のいていった。 「…本当に、礼儀がなってるというか、なんというか」 「こっちは楽だがな」 消えていった扉にコメントをしたのは八戒と三蔵。 一人に出来るのは、まだ逃げはしないという確信のもと。 荷物はここにあるのだし、この村を抜け出すとなればまた一苦労だろう。 だからこそ、三蔵も何も言わずにそのままにした。 八戒はと悟浄がいない部屋で、話し始めた。 『ジエン』…悟浄が捜しているのは『沙爾燕<サジエン』。 悟浄が八歳のときから行方不明のままの命の恩人。 そして、腹違いの兄であるということを。 |