「完了。足綺麗」



ひょいと足を見せれば溜め息二つ。
勿論悟浄と悟空だ。

旬麗はが脱いだ服を持ってクスクスと笑っている。
足を綺麗にすると同時に、ついでに風呂に入れてもらったのだ。
新たな着替えを借りて、今に至る。



「旬麗、着替えまたありがとう」


「いいえ。でも屋根の上にまで上がるなんて、本当に元気ね」



タオルを頭に被せられ、優しく髪の水滴を拭いてくれる。
本当に子供扱い。
これで何回目だろうか、そう感じさせられるのは。



「旬麗、きっといいお母さんになれるよ」


「フフッありがとう」



ワシャワシャ、と拭いた後、彼女はクスクスと笑う。
となると、きっとお父さんは『ジエン』だろう。
彼も見てはいないながらも、何だか未来の温かい家族が垣間見える。



「ほんと、悪ィな旬麗。このおチビチビチビが」


「うわー、ニューあだ名がまた増えてるし言いにくそう」


「誰がそうさせてんだっつーの。悟空、手繋いどけ手!またチョロチョロされっと面倒だから」


「おう!」



綺麗な女性の手が離れた途端、頭に衝撃。
悟浄がバシリと叩いたのだ。
言葉がどこかの生臭坊主くさい。

イタイと小さい言葉が零れる中、手が軽く誰かに握られる。



「ホラ、部屋戻ろうぜ!寝床決め勝負があンだから!」



より子供っぽい彼の手は、の手を隠せるほどの大きさ。
純粋な笑みを見せる悟空にはグイグイと引っ張られていく。
寝床決めの勝負という言葉に疑問を感じながら、後ろを振り向く。
と、頭をガシリと押さえられて前を向かされた。

悟浄の、大きな手は頭をも掴める。



「…頭イタイ」


「前向け前」


「旬麗に挨拶したいだけ!おやすみなさい!!」



後ろを見れないままに、が声を出した。
本当は顔を見て言いたいのだが、頭の上の手がそんなことをさせてくれない。



「おやすみなさい」



笑い声と共に、優しい声。
何だか安心させるそれに、は空いている手を振った。





部屋に戻れば、八戒の笑みと三蔵の睨みに迎えられた。
白竜は我先にとの頭に飛んでくる。

近頃分かったことだが、白竜は八戒の肩との頭が好きである。
何かあるごとに、そこに止まる。
悟浄の手が離れた途端、ここは自分の場所とばかりに座りこんだ。


良く見れば彼等も先程風呂にでも入ったのか、自分達の服へと変わっている。
川で濡れたそれらは乾いたらしい。
しまった、そっちに着替えればよかったと今更思うが、もう遅い。



「−さて、全員が揃ったところで問題です」



ニコヤカに八戒が人差し指を立てた。
まるで本当に問題を出すみたいに。

皆がそちらに注目する中、口から問題が紡がれた。



「おばさんが敷いてくれた布団は四組。そして特等席といわんばかりのベッドがひとつー」



一体それの何が問題なのか。
が首を傾げる中、他三名の空気が真面目なものになった。



「ざけんな。…まさかこの俺に床で寝ろなどとでも言うつもりか?」


「五日も野宿してたんだぜぇー?俺だってベッドがいいッ」


「誰もヤローとなんざ肩並べて寝たかねーっつの」



どうやらベッドの取り合いらしい。
これが悟空の言っていた寝床決め勝負だ。


(…ほんと、子供っぽいな皆)


布団の上で眠れるだけ有り難いものだというのに。
輪を作り出す彼等を横目に捉えながら、適当にそこらに横になる。



「…勝負だな」



しっかりマジな顔で勝負する気満々。
主に三蔵と悟浄の瞳が光る。



「おう!……って…何もうそこらで寝転がってんだよ」



悟空も気合充分。
とガッツポーズした途端、金晴の瞳にはやる気のないの姿。
頭の上の白竜が八戒の元へと移動する中、呼ばれた張本人はやる気なさそうに声をあげた。



「俺、布団でいい。勝手にやってくれ」


「はぁ!?勝負ぐらいしとけよ!もしかしたら勝つかもしんねェだろ!?」


「勝負自体面倒臭い。勝負しても、この俺が勝てるわけがない」



もそもそと掛け布団の中に入っていく。
温かさに、目を閉じそうになる。

が、それは痛みによって遮られた。



「ベッド以外でも布団の場所を含んでるからな。勝手にそこらに眠る権利はお前にねェよ」



顔面を軽く叩いたのは悟浄。
喋ったのは三蔵。

変な連帯感を感じる。
結局、彼等の勝負が終わるまで寝ることは許されないらしい。
しょうがないとばかりに布団から抜け出す。



「ついでに勝負、やってけよ。どうせ負けるだろうけど?」



パラパラと悟浄がカードを切る。
どうやら勝負はそれで行われるようだ。

負けても、何もやらなくてもどっちみち起きたまま。
ならば、暇な時間をこれで潰すしかない。



「…じゃあやる」


「決まり。カードでイッパツ勝負といこうぜ?五人の中で一番強いカード引いた奴の勝ちってこった」



分かりやすい勝負だ。
各々適当なカードを引いていく。
も真ん中のそれを、溜め息吐きながら引いた。



「−あ、やりィ!じゃ〜んっKだぜキング!!俺の勝ち〜」



嬉しそうに言い放つのは悟空だ。
手にはスペードのキング。
しかし、そんな彼をよそ目に、悟浄はニヤリと笑った。



「ばァか。数字がデカけりゃいーってモンでもねーぞ。こっちゃAなのよ!」


「何ィ!?」



悟浄が出したのはクローバーのエース。
悔しがる悟空をよそに、はのんびりと自分のカードを見つめた。
数字は、全く話にならない数字。



「フン、…甘いんだよ愚民ども」


「!!スペードのA…!!?くっそーそれがあったか!!」



三蔵が無表情ながらも、どこか優越感に浸るかのようにカードを見せる。
エースはエースでも強いマーク。
今度は悟浄が悔しがる番。
ただただは、こんな勝負に熱を入れる三人を見るだけだ。



「あのー、あのちょっと」



八戒がイイ笑顔で手招く。
皆がそちらへと視線を向けて、カードが開かれる。



「JOKERなんですけど僕」



動きがピタリと止まる三人。
そういえばこういう勝負事は得意だったと、どこかで聞いていたっけ。
はクルクルと器用にカードを回す。



はどうでした?」


「…見るだけ、ムダだけど見る?」



回していたカードを、ピッとそこに捨てる。
高レベルの中、のカードは。
ハートの2。

勝負、の話ではない。
八戒が、苦笑を零した。



「ヤダーッやっぱ俺ベッドがいいーっ!!」


「あッてめ!!ガキがおめーはッ」



拗ねてベッドに飛んだのは悟空。
ツッコんだのは悟浄。

何とも元気がいいというか何というか。



「勝負がついたなら、さっさと寝床決めてくんない?寝たいんだけど」



が溜め息吐きながら後ろに手をつく。
が、彼等の言い合いやら取っ組み合いが終わるわけがない。



「大体カードで勝負すんのが間違いなんだよ!!八戒が勝つの目に見えてンだろうが!!」


「えー僕のせーじゃあないですよぉ」


「あ、いででででっ」


「誰だよJOKER入れた奴ぁ!?」



ベッドの上で悟空と悟浄が取っ組み合い、そこに三蔵も参戦。
混沌とした戦いに、もうの声は届かない。
しょうがない、それが終わるまで待つだけだ。
とりあえず、自分は巻き込まれないように端へと動く。



も俺がベッドの方がいいよな!?」


「なんでそうな…うわっ!?」



移動する途中で、誰かの手がの腕を掴んだ。
大きさからして悟空だろうか。
そのまま引きずり込まれて、混沌の中。



「おいおチビ!お前も邪魔だっつの!!」


「ちょ、本当に俺を巻き込むなって!イタ!」


「おい!俺の上に乗っかるな!」


「え、誰の上!?ごめん!?」



一体何が起こってるのか目も頭も追いつかない。
目の前では足が飛び、手が飛び。
下敷きにしている誰かがいるだろうが、見えない。

目が回る。
自分が一体何故こんなことになってるのかすら分からない。



「遅くなってごめんなさい。皆さんの服全部乾きましたから…」



ガチャと扉が開く音と、女性の声がする。
旬麗だろう。
第三者の声に、取っ組み合いはぴたりと止まった。
ようやくの目の回転も止まる。

寝転がっている悟空の上に、彼の手を掴んで乗っかる悟浄。
その傍で立っている八戒。
三蔵がいない、と思えば下と後ろに体温を感じる。


ピタリと止まっているのは旬麗も同じ。
目の前にいる五人の状況を見て、そのまま。



「あっあのっスミマセン!!ここに置いておきますねっ!わっ私何も見てませんから!!…ごゆっくりどうぞ!!」



焦りながら退場。
しっかりと誤解したまま。

冷や汗が流れる。



「「……」」


「…あーあ」



これは絶対に、変な方向に誤解された。
身体を動かさないまでも、からは大きな溜め息が零れた。
ようやく終わった取っ組み合いだが、またもや面倒な誤解を生んだもの。



「オイッ何か今すっげえ誤解されてねェか!!?」


「え?何?なんで?」


「………あ、もーイイよ。死ねお前ら」



分かってないのは悟空のみ。
ようやく、ゆっくりと身体は動き出す。
悟浄が悟空の上からどいて、も動き出す。



「あ、やっぱ三蔵の上に乗っかってたんだ。ごめん」



すっぽりと、三蔵の上に乗っていたのだ。
背中が彼の体温で温かく感じたのは、気のせいではない。
軽く謝って、そこからどける。



「じゃ、皆さっさと寝床決めて。早く寝たいから」



どうせ、カードで一番小さい数なのはだ。
寝床を決める権利はない。



「あ、じゃあ僕はベッドで。おやすみなサーイ」



八戒だけはのんびりとベッドへと潜っていく。
決まっていない四人は、今度は取っ組み合いにならないように、面倒そうに決めたのだった。












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