疑惑の種は少しずつ、芽を息吹かせる。



何がいけなかった?
一緒に旅をしているくせに三蔵一行を助けなかったから?
しかし、これは今迄もそうだった。

紅孩児と何か仲良かったから?
それで刺客に感じた?


もう、その理由を考えることすら面倒臭い。


ああ、面倒臭い。



「三蔵」


「何だ」


「いい加減にしてくんない」



良い日になると思った。
お酒も美味しかった。
好感を持つ妖怪達に会った。

なのに。



「面倒臭すぎ」



何故こんなに面倒なことに。
ああ、なんて面倒なことに。



「こっちの方が面倒だ」


「へぇ、そう」



もう、の目は笑わない。
口も、笑わない。

いい加減、キレていた。


良い日になろう日だったのに。
ここまで正体に執着する三蔵に。



「理由を教えてもらってないのに拉致して?で、一ヶ月経っても『正体』に拘って脅し?殺し?他人の気持ち無視すんのもいい加減にしろ」



優しい八戒もいた。
頼もしい悟浄もいた。
元気な悟空もいた。

楽しくなかったといったら嘘になる。
でも、それ以上に、自分がのんびりと構えていたから苛立たなかった。



「俺は『三蔵一行』じゃない。それはお前らだって承知してたはずだろうが」


「ああ、そうだ。だがお前の今回の行動は俺に敵対するものだ」


「お前に?俺が何をした?紅孩児には助けてくれたお礼に包帯やっただけだろうが」



これは礼儀だからだ。
確かに気に入りはしたが、それだけの話。
仲間だとか、そんなことは一切ない。



「例えお前が紅孩児についてなくとも、いい加減正体を知らねェと俺の邪魔になりそうだからな」


「…そうかよ」



どこまでも自己中心な男。
彼の言いたいことは、良く分かる。

正体不明であるからこそ、恐い。
侮れない。
危ない。

そんなの知っている。

だが、それ以上に。



「正体がそんなに大事か?だったらお前も全部更け出せよ。てめぇが抱えてる過去ともども!!全部を!!」



自分だって。

言えないことがあるのに。


もう普段のの姿はなかった。
怒りと憎しみに瞳を焦がし、牙を剥く。
自分の領域を侵す相手に贈る、威嚇のように。

ここまでかき回されて黙っていたのは、メリットが大きかったから。
しかし、今はどうだ。
銃をつきつけられては、メリットはもう望めない。

頭につきつけられた銃を、一度睨みつけて。
そしてそれを感じさせずに歩きだす。



「勝手に動くんじゃねェ」


「撃つなら撃てよ」



もう、どうにでもなれ。

ポケットに両手を入れたまま、八戒や悟浄、悟空の横を素通りして。
そしてある一定のところで止まって、振り向いた。

紫苑の瞳に、闇を映す。



「ただし、覚悟しろ」



簡単に殺されることは、してやらない。
銀の髪が太陽の光を反射させる。
それと同じ色の刃はもう、彼らの首筋へとあてらられていた。



「なっ…」


…」


「……オイオイ、マジになんなよ」



四つの鎌は旋回せずに。
冷たいそれをピッタリとあてている。

驚く悟空と八戒の声も。
からかい混じりの悟浄の声も。


今は雑音。



「お前が引き金を引くのが速いか?俺が首を刈り取るのが速いか?どっちにしろ無傷ではすますつもりはねぇよ」


「てめェ…」


「喧嘩売ったのはそっちだろ。俺がいつも温厚なチビでいると思うのが間違いだ。銃を向けるなら、鎌で斬られる覚悟でいろ」



怒りを露にする三蔵をよそに。
はただただ、怒りを抑えるかのように睨みつけた。
だが、口の端はどんどん上がっていく。

少しでも誰かが動けば、すぐにでも首を刈り取れる。
三蔵が手を少しでも動かせば、自分の頭には風穴が空く。

ああ、これでは本当に。




「…オタガイサマ、だな。俺達はお互い、刃を向け合ってる…これが、俺達の関係…か」




いつか、八戒に言われた言葉。

自分を守るため。
自分を阻害するものを排除するために。

お互いが、お互いに。



相容れない。





「……ああ、あと、これも一応言っておこうか?」



これは。
これだけは、真実。



「俺は、誰とも、相容れたりは、しない。『三蔵一行』だろうと、『紅孩児一行』だろうと」



どんなに好意を抱こうと。
どんなに好意を抱かれようと。

誰にも。

誰にも。


自分を


理解させたりはしない



「『関係』も、いらない。そんな、もの」



お互い様でさえ。
殺し殺される関係でさえ。

億劫。



と、あの人だけでいい。

あの、二人だけ


『関係』を築けているのは





「…………ああ、久しぶりにキレると疲れるな。余計なこと言うし、俺。あ、どっちにしろ正体は言わないからな?」



もう、集中力はなくなった。
言いたいことも、言わなくていいことも言い切った。

鋭い紫苑の瞳が、面倒そうなものへと変わる。
未だ銃を向けられているにも関わらず、はすんなりと鎌を消した。
戸惑いながらも息を零す誰かのそれが聞こえる。



「じゃな。眠いから俺、寝るわ」



確か宿を取っていたはずだ。
多く部屋が取れたので、だけ個人部屋。
一応女性だからと、八戒が手配したと言っていたっけ。

くるりと三蔵達に背を向けて、歩きだす。
軽く、手を振って。



「殺しに来るならいつでもどーぞ。俺を置いて旅をするのは、むしろ大歓迎。じゃ、おやすみ」



誰の返事も待たず。
銃の引き金も気にせず。

ただ眠りたかった。


それだけ。












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