「結局、分かったような分からなかったような…」


「あんま考えすぎんな。とりあえず俺は普段、一つと二つでやってるってこった」



未だに分かっていない悟空をよそに、がのんびりと答えた。
梅酒はロックだろうがソーダ割りだろうが美味しい。
カラコロと氷を鳴らす。



「分かった、そういうことにしとく!」


「ん、いい判断」



これ以上説明したところで悟空が理解出来るとは思えない。
とりあえずそれで納得してくれて良かった。



「で、アレはどうやって出してんだ」


「あ、それはヒミツで」



三蔵の疑問に、はさらりと返した。
この質問は、答えてはいけないもの。
ギラリと隣から届く、鋭く睨む瞳を無視。
反対側からは、楽しむように笑う悟浄がいる。

丸テーブルはこれだから嫌だ、と思う。
向かいにいる悟空はキョトンとしているし、八戒は苦笑だけだ。
ここの席は特に嫌な気がする。



「俺の鎌について、答えられるのはこれだけ」


「…っとに面倒臭ェな」


「お互い様」



ピラピラと手を振ってやりすごす。
どんどん少なくなっていく梅酒に、次は何を頼もうかとはメニューを見始めた。
三蔵から溜め息が零れるのを感じながら、無視を決め込んだ。

ちなみに隣の悟浄はクツクツと喉の奥で笑った。

がメニューと睨めっこをする中、沈黙が訪れる。
よし、杏酒ロックでいこうと思ったときだった。



「…どう思う?」



言葉を出したのは三蔵。
声色からして真剣な話のようだ。



「どうって?か?」


「コイツはどうでもいい」


「そりゃ有り難いこって」



悟浄がクイとを親指で示すが、どうやら違うらしい。
どうでもいい、と言われるのもどうかと思うが、これ以上追求されても困る。
とりあえず有り難いという言葉で終わらせておいた。



「俺達が長安を発って、今日で一月になる」



一月。
どうやらは、彼等が旅をし始めてからの時を同じくらい、一緒に旅していたらしい。
では彼等に会わずに旅してきた一年は一体何だったのか。
バイトに明け暮れていただけだったのか。

何とも、微妙な感覚だ。



「倒した妖怪は星の数。そのほとんどが『紅孩児』が送り込んだ刺客だ」



確かにその通りだ。
沢山の数を殺してきた。
そしてほとんどが『紅孩児』の名前を出した。

が目的を知っていることは、八戒が喋ったのだろう。
だからこそ、三蔵はの前でもこれについて口を開く。



「その『紅孩児』が牛魔王の息子なのはわかる−しかし」



手を組む。
真剣な声。
は静かに、隣を見上げた。



「本来は誰の指示にも従わないはずの妖怪達が自害にいたるまでの忠誠を誓うとはな…」



紫暗の瞳が、過去を映す。
そう、寺院でもそうだったが、自害する妖怪が多いのだ。
紅孩児の、名の下に。


(それだけ、忠誠しがいがあるってことか)


見たことはないが、聞いたことはある。
中々の、カリスマ性の持ち主だと。



「ここしばらく静かだったからな。そろそろ又何かしら攻撃をしかけてくるだろう」



確かに、ここ数日の野宿では刺客は現れなかった。
いつもなら沢山の数で攻めてくるのに。



「もしかしたら、作戦があるかもしんないな」



油断したときにやってくるかもしれない。
もしかしたら、スパイ的に。
メニューをパタンと閉じてテーブルの上に置く。



「…結局僕らはまだ何も知らないんですよね。牛魔王蘇生実験の目的も、それを操るのが何者なのかも………」



牛魔王蘇生実験の目的。
操る者。

それが何であれ。


(俺は行かなくちゃ)


親友がいる。
目的もある。

確かに知りたいけれど。
それは、二の次。



「あのー、ご注文の品ですぅ」


「わーい」



シリアスな空気はぶち壊れた。
喜ぶ悟空に、尚更だ。
ガックリと頭を下げる三人をよそに、は店員さんを見上げた。



「ありがとう」


「あ、いいえ!」



微笑めば、戸惑う女性。
あまり慣れていないのかもしれない。



「バイトさんですか?」


「あ、ハイ!まだ慣れてなくて…」



やはり日が浅いらしい。
あたふたと対応する姿は実に愛らしい。
何だか嬉しくなって、はニコニコと笑った。



「俺、酒場のバイトやったことあるんだけど、凄い重労働だよな。頑張って」


「え、あ…はい」



ポカンとする店員。
何やら変に励ましたらしい。
そこに悟浄の手が銀の頭を叩いた。



「イタッ」


「悪ィな。コイツ、お姉さん的な女が好きらしくてよ」


「ハ、ハァ…」


「え、いや、確かに美人さんだけど、俺、そういう意味じゃ…」



ただバイトって大変だよなって話だったのに。
悟浄の勘違い。
というか嫉妬だろうか。

ナンパとかするのは悟浄だけだというのに。



「するのはエロ河童だけだろ!はんなことしねェよ!」


「んだと猿!」


「ありがたい援護サンキュ、悟空」



本当に今のは有り難い。
まぁまぁと抑える八戒は苦笑だ。
とりあえず、隣通しではなかったことに拍手だ。



「あーあ、ごめん巻き込んで。あと、忙しいだろうけど杏酒ロック一つお願い」


「あ、はい分かりました」



店員は頭を下げる。
がテーブルへと視線を戻すと、取っ組み合いは止まっていた。
悟浄と悟空の間にいたのが八戒だったお陰だ。
これで三蔵だったら、もっと危なかっただろう。



「−ま、腹減ってちゃ戦もできねってか」


「その様ですね」


「いただきまーす」



それぞれが食べ物を手に取る。
も手を合わせて「いただきます」と丁寧に挨拶をした。
悟空が口に含むのが早いか。

そう思ったときだった。



「−きゃあッ」


「あ?」



口に運ばれるはずの食べ物がピタリと止まる。
女性の悲鳴。
先程と同じものだ。



「そう嫌がんなって。一緒に飲もーや、姉ちゃん」


「また貴方達…放して!」



店員がまたからまれている。
しかも、おじさんは立ち上がってまで、彼女に近づきたいらしい。
女性は手をプルプルと震わせて、耐えている。



「…あーあ、オッサン下手だよ。女の扱い方がさ」


「何だと若造がァ。すっこんでろ!!」



声を出したのは悟浄。
も振り返って、とりあえず水の入ったコップを手に取った。



「まーた灰皿くらいたいワケェ?カコーン!とな」


「!!〜てめェかさっきのは!?」


「いい加減にしときなよ。セクハラは立派な犯罪だって学ばなかった?次は水の入ったコップもいくよ?」



バイトの経験があるからこそだが、お客には中々逆らえない。
だからこそ、女性の被害が多い。
は見た目が少年だからこそ助かっていたものの、これで泣いていた人は知っている。
クルクルと水を回してみせると、セクハラをしたおじさんは怒りに任せて足を振り上げた。



「うらあ!!」


「うお!?」



食事ののったテーブルが蹴りでひっくり返される。
となると、食事は床へと落ちるのは必然。
梅酒ロックも、消えてしまった。



「何てことするの!!」



女性店員が叫ぶ中、悟空が真っ先に立ち上がった。











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