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「…飲む前から目が座ってますけど〜?」 「わーい、酒だ酒だー」 苦笑交じりに言う八戒と、喜ぶ未成年の悟空。 各々席についていく。 他人事には感じながら遠目から観察しようと移動しようと動き出す。 が。 「ヨォシ、勝負は五対五!!先に全滅した方が負けだ、いいか!!」 「おうよ!!」 悟浄が受け答える中、の足はピタリと止まった。 数がおかしい。 (あれ、今五対五って聞こえたんだけど) 勝負に入る気はサラサラ無い。 面倒だからだ。 それに勝負事は大好きなお酒といえど、弱いと思う。 気のせいにして、さっさと行こうかと歩をまた進める、が。 「どこへ行く、」 ガッと服を掴まれた。 そして、何故かそのまま持ち上げられる。 これでは持ち上げられた猫のようだ。 手の持ち主は、三蔵。 「いや、俺勝負、不参加なんだけど」 「そんなの俺の許可無しで出来ると思ってんのか?残念だったな」 「え、無理決定?強制参加?」 「当たり前だろーが」 強制参加、決定。 鋭い眼光で睨まれ、捕まってはもう逃れられない。 無理やり座らされた席は八戒と悟空の間。 ガタンという大きな音と、身体にはしる衝撃。 「イッタ!」 「イイか。お前はいつもどおり飲め。いつもどおりに。負けたら承知しねェからな」 強制参加の上、強制勝利を求められてしまった。 ポカンとするをよそに、三蔵は自分の席へと早々と戻っていく。 と言っても、悟空と悟浄の間なので、さして距離はそんなに遠くない。 人の話を聞かないというのは分かっていたことだ。 また、負けず嫌いであるし、短気で子供っぽいことがあることも。 だが、これはどうだろう。 承知しないって、何があるんだろうか。 「頑張ろうな、!」 悟空は暢気にやる気を出している。 ニコニコと笑っているあたり、この勝負の意味が分かっているのか分からない。 嫌そうに顔を顰めていると、その向こうからは鋭い眼光。 そして、面白がっているであろう笑み。 「…俺、勝負事はとことん弱いって言ったのに…」 「うっせェ。飲めばイーんだよ飲めば」 無責任な言葉だ。 この勝負でセクハラ男を倒せるのかがかかっているというのに。 女性の店員さんのために負けたくはないのだが、何せ勝負事は負け続き。 自信はない。 「大丈夫ですよ」 「何が?」 八戒から声がかかる。 向かいでは下品な笑みを浮かべるセクハラ男とその仲間達。 計五人。 酒豪と呼ばれる人たちばかりのようだ。 深緑の瞳を覗けばふんわりと優しい笑みが返ってくる。 訝しげに首を傾げると、彼はゆっくりと口を開いた。 「は勝負事、と考えると弱くなるだけです」 「うん、だからヤバイんだけど」 「ええ、だから、これはただお酒を楽しむ場所だと考えればいいんですよ」 勝負事となると負けてしまうのは、プレッシャーも一つの理由。 勿論運が悪いせいもある。 だが、今回はお酒。 普段のであるのならば、お酒はかなり飲めるはずだ。 「ただ、お酒が沢山飲める場所。勝負など関係ない。そうすれば、だって肩の荷が下りるでしょう?」 「…ああ、なるほど。物事は考え様ってやつか」 「そういうことです」 がポンと相槌を打つと同時に、店主が沢山のお酒とグラスを持って現れた。 美味しそうなビンがどんどん置かれていく。 八戒の言葉が効いたのか、何だか心が軽くなる。 どちらかというと、お酒が沢山飲めるという嬉しさが満ちる。 「…八戒、ありがと。かなり楽になった」 「それは、良かったです」 ニコといつもどおりに微笑む八戒に、も安堵の息を零した。 グラスの中へと注がれる甘い香り。 それを手渡しで、奥へと渡す。 全員に届いたところで、お酒の飲み比べが始まった。 一方、店員の八百鼡はというと。 目の前の光景に涙を流したい衝動に駆られていた。 この酒場の店員として働いてまだ半日。 というのも、ただお金が欲しくてバイトしているというわけではない。 勿論、セクハラされるためでもなく、仕事に追われるためでもない。 ただのアルバイトではない。 ちゃんとした目的があってここにいる。 『三蔵一行』の排除が目的。 正体は妖怪。 吠登城の、紅孩児からの刺客。 ただの刺客ではない。 紅孩児の、直属の刺客。 全ては、紅孩児のために。 ーだったのだが。 (ど…どうしよう) 毒を混ぜた食事は全て、セクハラして喧嘩を売ってきた男にグチャグチャにされ。 しかも何故か自分のために彼らがそのセクハラと戦うことになってしまった。 計画通りに動いては、くれない。 本当にこの三蔵一行を倒せるのだろうか。 いささか不安になってくる。 (…それに) そっと自分の手をみやると、人差し指に巻かれた絆創膏が目に入る。 三蔵一行として新たに加わったらしい、五人目。 銀の髪と紫苑の瞳、そして黒い羽織りが特徴という情報が入ってきている。 攻撃はもっぱら、どこからともなく現れる鎌。 それは三種類ある…などなど。 確か牛魔王蘇生実験に関わっている科学者の一人が、そんなことを言っていた気がする。 彼女はまた、三蔵一行に加わるような『モノ』ではないはずだがと考え込んでいた。 どんな『モノ』かは聞かなかった。 そこに興味はなかったからだ。 聞いたのは、下の、ほぼ少数の妖怪だけらしい。 (名前は…、) 目の前でお酒を飲む、少年。 セクハラした自分を心配し、手当てをしてくれた少年。 (この子は、三蔵一行ではなかった) 進む方向が一緒なだけ。 これが本当ならば、は殺さないでいいということになる。 を知っていたあの科学者に報告するべきだろうか。 そんなことすら思う。 (この子は、殺さなくてもいい) そう思うだけで、心が軽くなる。 自分を手当てしてくれた、若い子を殺すのは忍びない。 三蔵一行の中で、お酒をクピクピと飲んでいくの姿を見て。 八百鼡は小さく笑んだことを、誰も知らない。 |