飲み比べが始まって数時間。
辺りはお酒の匂いと、それを飲んだ人独特の匂いで満ちている。
数人が酒に呑まれている中、はのんびりと嗜んでいた。



「あ、これ美味しい」


「本当ですね。上品さがあります」


「な。店主さん、あとでこの酒の銘柄教えてくれる?」


「あ、はい、分かりました」



のほほんと飲むのはと八戒。
勝負と感じなければ、何のその。
満月が近いせいもあるのか、全く呑まれない。



「…口だけじゃねーようだな」



セクハラ男チームは、セクハラ男本人以外は全滅。
本人も元から酔っ払っていたにも関わらず、飲んでいるのだから、酒豪中の酒豪だろう。
だが、やはり目は虚ろだ。



「こんくらい何だよ。こっちゃまだまだ余裕だぜェ。なあ悟空…」



目が虚ろである悟浄の言葉に答えたのはいびき。
の隣の悟空はテーブルとランデブー。
同じく目を虚ろにした三蔵がガツガツとその頭をテーブルへと打ち付けた。



「起・き・ろ、このサル〜!!」


「ちょ、やめなって。もう寝てんだから」


「ふふん、そのガキはリタイアの様だな」



どう見てもギブアップだ。
それを起こしてやるよりは、寝させている方が楽。
無理に意識を覚醒されて、戻したらどうしてくれよう。
面倒臭くなること間違いなしだ。



「そっちこそ、てめェ以外全滅じゃねェか」


「残念だな。俺はこの辺じゃ飲み比べで負けたこたァねーんだよ」



悟浄がけしかけるが、全く効果はない。
本当に自信があるのだろう。
ニヤリと笑うその男を見ながら、はグラスの中を飲み干した。



「じゃあどーせだから、もう少し強いお酒下さーい」



八戒の暢気な言葉がセクハラ男の顔を歪ませる。
さすがにそう来るとは思っていなかったのか、口をポッカリと開けている。
も何やら、美味しいお酒を沢山飲んでいるせいか上機嫌だ。
いつもの面倒臭そうな顔ではなく、八戒に毒されたかのようにニコニコしている。



「今度は苦いのがいいなぁ」


「さっきのは上品でしたけど、少し甘かったですからね」


「な」



ニコニコ笑いあう余裕組。
その向こうでは目が虚ろ組で、冷や汗を流している。



「…そーいえば俺、八戒が酔ったところ見たことナッシング」


「あなどれねー」


「おチビも寺院以来、酔ってねェよ、そういえば」


「親子か何かか、あいつらは」



口々に言う悟浄と三蔵。
だが、たちには聞こえていない。
何やら喉が焼けるようなのが良いとか、そういう話で盛り上がっている。

お酒がやってくると、はすかさずグラスへとよそった。
それをよそに、八戒が隣にいる女性の店員に話しかけた。
小さい声なので、には聞こえない。
だが、彼女を安心させるであろう言葉を放っているのだろう。


八戒は、そういう人だ。


グラスの中の酒を口に含む。
甘い香りとは裏腹の、苦いお酒。
この苦さが心地よい。

飲み込めば、喉が熱く、焼ける。
これがまた、癖になる。
美味しいお酒に、はまた微笑んだ。



「うん、ナイスチョイスです、店主さん」


「おや、ありがとう」



ニコと微笑みかければ、店主も嬉しそうに返してくれる。
先程までうろたえていた人とは思えない。
美味しそうにが飲んでいると、八戒も隣で飲み始める。



「あ、美味しいですねェコレも」


「あースルメが欲しい、スルメ。チータラでもいい」


も中々の酒豪ですよね」


「お互い様〜」



意味もなく乾杯。
カツンとグラスをぶつけて、またお酒を飲む。
この二人だけ和気藹々と、異世界のようだ。
他に残ってる人たちは人たちで、かなりキているというのに。



「−おい、どうした坊主?」



問答無用で飲み続ける二人をよそに、三蔵の動きが止まった。
身体全体が震えている。
そこに、セクハラ男が気付いたようだ。
ニヤリと、下品な笑みを浮かべている。
飲みながら、二人もそちらを見た。



「そろそろ限界か?手がふるえてるぞ。その女顔にはお酌役が似合いだぜ」


「………」



普通なら言い返すだろうここで、三蔵が黙る。
珍しいこともあるものだ。
だが、そう簡単に終わってくれそうにない。

嫌な予感がする。



「−くっ」



小さく笑う。
怪しげに、喉の奥で笑い続けている。
八戒はゆっくりと立ち上がり、は悟空を椅子ごと静かに彼から離した。
嫌な予感は、的中するらしい。
三蔵はまだ笑い続けている。



「愚か者が…俺を愚弄するとは、いい度胸だ」


「−三蔵?」



八戒が声をかけるが、聞こえていないよう。
クククと笑い続ける口が、ピタリと止まった次の瞬間。
またすぐに開かれた。



「魔戒天…もごっ」


「わーっ!民間人相手にイキナリそんな大技かまさないで下さいっ」


「……うーわ」



必殺技の魔戒天浄を繰り出そうとしたらしい。
途中で八戒が口を塞いだために、大事にはならなかったが。
伸びた巻物はシュルシュルと音をたて、行き場なく彷徨っている。

が小さくヒいていると、ゆっくりと巻物は戻っていく。
見た目よりも、三蔵はかなり酔っ払っているらしい。


しかし、それだけでは終わらない。
届かなかった攻撃の音に、セクハラ男の仲間が起きたのだ。
またお酒の飲み比べが始まるのかと思いきや、何やら違う様子。
何せ、手にはグラスがなく、拳が握られていたからだ。



「まだるっこしい勝負はヤメだヤメ!!力でツブしてやらぁ、若造ども!!」


「望むところだァ、エロジジイ!やってやろうじゃねぇか!!」


「え、今までのは何だったの!?」



店主の悲鳴をバックミュージックにがツッこむ。
お酒の飲み比べで勝負がつくという話だったのに、結局は喧嘩だろうか。
しかも、それを悟浄が買ってしまった。

ただの喧嘩なら、自分は面倒臭いから入らない。
今回の勝負は、自分が沢山美味しいお酒を飲む、ということで括られていたから参加しただけ。


眠っている悟空が喧嘩に入るのは難しい。
せめて巻き込まれないようにと、端に寄せるしかないだろう。
ズルズルと引き摺り、壁へと頭を預けさせる。

問題は三蔵が、しっかりとした意識で喧嘩出来るか、だ。
またあの必殺技を出してしまえば、また面倒なことになる。


(あー、面倒)


フゥと一息、溜め息が出る。
しかし、それは途中でピタリと止まった。












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