グラスの中に入っていたお酒は無くなる。
はそれをそこらに置いて、腕を組んでのんびりと戦いを見ていた。


そろそろ朝が来る。
また徹夜だろうか。


眠くなり、一つ欠伸が無意識に出る。
東の空が明るくなるのを感じながら、紫苑の瞳は遠くを見つめた。



「ん……−あれ。−おい三蔵!起きろよ悟浄ッ!!」


「つ…いってー」



しばらくして、酒場の中から声が零れ始める。
振り返ってみると、各々起き上がる三蔵一行の姿。
ようやく薬の効果が切れたようだ。



「これは…どうなってるんだ一体」


「あ、!!」


「おはよーさん」



悟空の声に、は紫苑の瞳を向けて、ピラピラと手を振ってみせた。
明るくなってきた外。
もう影は出来るほどだ。



、これってどうなって…」


「うん、それだけど。三蔵一行のお前らは早く外出て、八戒を助けたら?」


「え?」



ビシと人差し指を外へと指す、
悟空が首を傾げる中、外では小さくも大きな戦いの音。
三蔵が頭を抱えながら立ち上がり、悟浄が近くの窓から外を見た。



「!!…おい!なンで…何で八戒<アイツ>戦ってんだよ!?」




窓の外から見えるのは、八戒と八百鼡が対峙する姿。
さすがにそれには驚いたらしい。
二日酔いの痛む頭も、眠気もすっと覚める。



「バイトのお姉さん、刺客だってよ」



暢気にコメントをして、小さく欠伸をする。
結局徹夜だ。
やはり酒の飲み比べは避けて、さっさと寝た方が良かったかもしれない。



「…で、お前は暢気に観戦か?」


「うん、俺は三蔵一行として括られなかったから」



三蔵一行として括られて、かかってきたのなら話は別。
自分に災いがかかるようなら戦う。

だが、今回は違う話。

紫暗の鋭い視線。
金晴の、戸惑いの視線。
深紅の微妙な視線。

それらを感じながら、は肩を竦めてみせた。



「…あのさぁ、俺がこういうのだって理解してたろ?何、その視線。今更なんだけど」


「…っじゃあ!せめて俺達起こすとかしろよ!」


「面倒臭いからヤダ」



喰ってかかる悟空に、はのんびりとかわした。
自分には関係ないこと、面倒なことはやらない。
これがだ。



「基本、俺に関係なければ手は出さない主義だし、面倒なことはやらない」


「……らしいっちゃア、らしいけどな…」



キッパリハッキリ言い切るに、悟浄は苦笑を零した。
隣では悟空が何か言いたげに睨みつけてくる。
三蔵は諦めたのか、さっさと外へと歩みだした。



「でもさァ!!」


「まあ、落ち着けよ。どっちにしろ八戒が優勢だ」



はようやく酒場の中から視線を外した。
陽が地を照らす。
月はその太陽に、場所を譲った。

そこに立つ、二つの影。
紫苑の瞳に映ったのは、どう頑張っても八戒が負ける状態ではないもの。



「待ッ…」


「来ないで!!」


「…おお、こりゃまた凄い発展だこって」



どこをどうなってそうなったのか。
いつの間にやら、八百鼡の持つナイフは彼女自身の首へと向けられている。
面倒そうに溜め息を吐き、紫苑の瞳が半開きになる。

の言葉に促されるように、悟空と悟浄も玄関へと走ってくる。
それと擦れ違うように、中へと入る。

床に落ちていたの荷物を、持ち上げる。
喧嘩に巻き込まれた埃をパンパンと払い、背負った。
そのままゆっくりと外へ出る。

未だその刃は首へと届いていない。



「バカ、ヤメロって…!!」


「あ、間に合った」



悟空が叫ぶ中、は遠くからその光景を見ていた。
まだ八百鼡はナイフを首へと刺していないことを確認する。
そこから素早く、駆け出した。


(四っ)


集中力はある。
心の中で唱えれば、小さな四つの鎌がの周りに現れる。
三つをそのままにして、一つをすぐさま、八百鼡の元へと放った。
猛スピードでそこへと、駆けていく鎌。
ついで、も出来るだけ速く、駆けていく。



「やめ…!!」



ナイフが掲げられる。
八戒が切羽詰まった声で叫ぶ。

それはに対するものではなく。
八百鼡の自殺に対する言葉。

紫苑の瞳が光る。

間に合うように、間に合うように。


神経を研ぎ澄まさせて。



振り下ろされる瞬間。
紫苑の瞳が睨みつけるそこに鎌が届く距離。



「いけっ!!!」



の声に反応するかのように、鎌はスピードを一瞬増した。
金属音が朝焼けに響く。

鎌が、ナイフを弾いた。


これでひとまず安心だろうか。
四つの鎌が消える。
そう思ったが、空中へと投げ出されたナイフはそのまま、どこかへと飛んでいくことはなく。

垂直に飛んで、そのまま八百鼡へと落ちてくる。
刃が、下のまま。



「ヤバッ」



鎌を出すのは間に合わない。
間に合うのはの身体のみだ。

八百鼡を突き飛ばせば早い。
だが、そこまで頭は回らない。

走って走って、ナイフへと飛んだ。



!!?」



悟空の声など気にしない。
これを手にしないと、彼女は死んでしまう。

手を真っ直ぐに伸ばす。


空を、掴むかのように




しかし、視界が一瞬にして霞んだ。
紅の風が、辺りを巻き込む。



「!!」


「なっ!?」



八戒の声が遠くで聞こえる中、からも声が上がる。
一体どこからこんな風が。
しかもこんな、綺麗な紅の色の。
戸惑う中、それでも空中のナイフを探す。



「きゃあぁあ!!」


「八百鼡さん!?」


「だ、大丈夫かっ!?」



ナイフはまだ、彼女のところへと行ってないはず。
下を気にしながら、今はそれどころじゃない。
砂埃に目をやられたのだということを信じたい。

今はナイフを。


もう一度見上げる。
綺麗な紅の風の中、銀色に輝くそれを探す。

だが、探す必要などなかった。





それは


手を通り越した、目の前に












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