神様がやってきて、三蔵を助けてくれた後。
五人は宿の中で休んでいた。

雨で濡れた服はそこらに干してある。
は一番背の高い八戒から上の寝巻きを借り、下の寝巻きは悟空のを拝借した。
見た目は微妙だが、そんなことは言っていられない。
勿論、礼を言って有り難く着させてもらった。
悟空は、寝たままだが。


一人は未だ意識不明で、重症のため別室に。
一人は、寝息をたてたままベッドに。

そして。



「……おチビー平気かー」


「んなワケあるかー」


「大丈夫そうですね、二人共」



悟空と一緒の部屋で。
大量の血気を取られていた悟浄とがベッドでヘバっていた。

貧血気味なのだからしょうがない。
心なしか青い二つの顔に、八戒はケロリと笑っている。



「悟浄の怪我も大したことありませんでしたし、めでたしめでたしですね」


「悟浄だけ血気吸い取られていれば、めでたしめでたしだったのに」


「俺だってショックだっての!クソ…両性体に奪われるとは…」


「慣れてるんだからいいじゃないですか」


「そうだよいーじゃん」


「良くねェッ!」



悟浄は両性体に唇を奪われたのが嫌だったらしい。
しかし、彼は女性で慣れているからまだマシだ。



は、初めてだったんですか?」


「うん、初めて」



何せ、は初めてを奪われた。
ショックは酷いものだ。
が。

過ぎてしまったことはしょうがない。
寝転がりながら、は溜め息を一つ吐いた。



「もーいいよ俺は。神様だし、ノーカウント」


「じゃあ俺もノーカンで」


「アハハ、めでたしめでたしじゃないですか」


「「デスネー」」



これまた溜め息混じりに、二人揃って声を出す。
ある意味ヤケだ。

とりあえず三人は、飲みかけだった酒に手を伸ばしていた。
一つは三蔵の飲みかけ。
だが、それは必然的に悟浄の手にある。

甘い香りが部屋を、満たしている。



「っていうか、貧血にお酒って大丈夫なんですかね?」


「いいんだよ、飲みたいときに飲めば」



我慢すれば、それはそれで毒だ。
は気にせず、寝転がりながらお酒だ。
礼儀はなっていないが、今はしょうがない。

苦笑を零す八戒の横で、悟浄は壁にもたれたまま酒を口に含んでいる。
しばらくの沈黙の後。
酒を飲み干し、それを床へと置く音が響いた。



「…よし、じゃあ俺寝るから」


「……ってよォ、マイペースすぎね?」


「それ、褒め言葉として受け取っとくよ。おやすみ」


「あ、その前にちょっといいですか?」



悟浄の言葉を聞き流し、下に敷いていた掛け布団を引っ張り出す。
さて寝ようとしたところ、八戒に止められた。

個人的には早く寝たいところだ。
貧血気味も、寝れば治る気すら起きている。
しかし、何か言いたいことがあるかもしれないと、はそのまま首を傾げた。



「何?」


「悟空のことなんですけど…」


「悟空?」



はて、一体何かあっただろうか。
話の張本人は、今ベッドの上で爆睡中だ。
特殊な金鈷のお陰ですっかり元通り。
そんな茶色の髪を見てから、深緑の瞳へと視線を戻す。

話しかけた八戒は。
少々戸惑いながら、口を開いた。



「…どう、思いましたか?」


「は?」



どう思ったか。
それは何を意味するのか。

悟浄の表情が曇る中、八戒は続けた。



「金鈷がなくなった、生来の姿…。僕らは三蔵から聞いていましたから、ある程度覚悟は出来ていたんですが…」



ある意味、悟空の『正体』といっていいあの姿。
妖怪というものでありながら、異端と呼ばれるそれ。
理性も、判別能力も、『悟空』の形すらない彼の姿。

八戒と悟浄は三蔵から聞いていたからこそ、覚悟は出来ていた。

しかし、は初めて。
恐怖を覚えても仕方がない。
だとしたら、悟空にも一応報告しておくとか。
傷つくだろうかとか。


ーと、そういうことを言いたいらしい。
しかし、それを読み取ったは。



「なんだ、そんなことか」



ケロッとしながら簡単にそう言い切った。
くだらないとばかりに、はもそもそと布団の中へと潜る。
さすがに言い切ったことにポカンとする二人。

は瞳を閉じながら、口だけを動かした。



「…異端だとか、何だとか。それ、俺が言える立場じゃないし。それに」



彼が異端と呼ばれるのなら。
はもっと異端なのかもしれない。


例え金晴の瞳が鋭くても。
髪が長くても。
耳が尖っても。

理性を失っても。
判別能力がなくても。
魂が輝いていても。


『異端』でも。




「悟空は、悟空だろ」




それは、変わらない。










「………?」



八戒に声をかけられたが、次に紡がれたのは寝息。
言い切ったは、そのまま眠ってしまった。
顔を覗いて、悟浄は苦笑を零す。



「寝るの、早いっつーの。なァ、悟空」


「……………」



深紅の瞳は、起きたばかりの悟空を見ていた。
まだ寝惚けてはいるものの、しっかりと聞こえていたらしい。
生来の、ところから。

金晴の瞳は、小さく揺れている。



「…三蔵、は?」


「隣の部屋で、眠ってますよ。の黒い羽織りが少し、出血を止めてくれたんです」


「八戒の気功で傷も塞いだし輸血もしたしィ?命に別状はねーッてよ」


「そ、か……」



そこで一つ安心。
小さな安堵の息が零れる。

そのまま、金晴の瞳はへと向けられた。



「俺、制御、外れたの?」


「ええ、まァ」


「覚えてねーのか?」


「うん…」



自分の生来の姿すら知らない。
制御が外れていた間のことは、覚えていない。
記憶にない、多くのことが、グルグルと頭の中を回ったぐらいで。



「…どちらにしろ、悟空は悟空、だそうですよ」



制御が外れた間、何をしたのか分からない。
理性をなくし、何か大変なことをしたかもしれない。
『異端』と呼ばれた自分だ。

だが。



「………うん」



は。
そんな自分をいとも簡単に。


閉じられている紫苑の瞳。
零れる、寝息。
さらりと揺れる、銀の髪。



ある意味、寝てて良かったと思う。
今の顔はきっと。


泣きそうだから。




「俺!三蔵見てくる!!」



上を見上げて、さっさと立ち上がる。
悟空はそのまま隣の部屋へと駆けていった。

















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