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死んでしまった妖怪からはまだ、煙が上がっている。 札が未だに、彼らの何かを吸い取っているよう。 無残なその姿に、は近くの壁に身体を預けた。 恐怖で、震える身体。 それを沈めようと、片手はもう片腕を掴んで止めようと必死になっている。 だが。 (彼らもまた…あの人たちのように) 苦痛を伴い。 沢山のモノを吸い取られて。 自分がこうなる様を、消えていく意識で感じ取るのかと思うと。 辛い。 こんな言葉じゃ括れないほどに。 (妖怪退治なんて、日常茶飯事なのにな) こんなことで反応してどうする。 自分だって、多くの妖怪の命を奪ってきたというのに。 彼らを、沢山送ってきたというのに。 大きく溜め息を零す。 自分に言い聞かせてから、はようやく視線をあげた。 「あ…ありがとうございます、六道様!!」 「−礼などいらん。これは俺の使命だ」 使命。 それが妖怪退治。 ということは、妖怪なら誰かれ構わず殺しているということなのだろうか。 まだ理性がしっかりと残っている者もいるだろうに。 が顔を顰めたまま、彼を見詰める。 すると、戦っていた妖怪三人組がこちらへと歩き出した。 「よくわかんないけど、片付けてくれてラッキーってカンジ?」 「なーんだ、寝よ寝よ」 「あ、、大丈夫ですか?」 ぞろぞろと、まるで小さな団体旅行。 の頭に、悟浄の手が置かれたり。 八戒が話しかけてきたり。 悟空がの腕を引っ張ったり。 どうやら一応、心配してくれたらしい。 何故か、それにすごく安心する。 は小さく、ありがとうと言葉を出した。 女性も安心したのか、もうとっくに廊下に出ている。 全くもって情けないなぁと思ったときだった。 「!−おい」 六道が動いた。 持っていた杖を、近くにいた悟浄の首筋にピタリとあてる。 眠そうに煙草を銜えようとした彼も、動きを止めた。 「…何」 「貴様ら、人間か?」 ギラリと光る六道の瞳は、闇の色に染まりきっている。 平然と立っている悟浄達とは反対に、は小さく身体を揺らした。 「また随分と、不躾な質問ですね」 「俺の目はごまかせんぞ。貴様ら三人とも、妖怪だな」 三人。 彼の瞳には悟浄、八戒、悟空が映っていた。 には、視線が下りてこない。 妖怪ではないと判断したのだろうか。 人間でもない、ということは判断できないのかもしれない。 人間だとか妖怪だとか、そんなことに囚われるのが嫌いなのはだけではない。 悟空も、そうだった。 「−だったらどうだってゆーんだよッ!!俺達は…」 「悟空」 八戒をのけてまで、言う言葉。 理由を述べようとした途端、それは敵わないことを知る。 その言葉に、六道の殺気が勢い良く溢れだしたのだから。 「言っただろうが…全ての妖怪を俺が滅すると…!!」 凄まじい力を感じる。 妖怪だったら妖力、と言えるのだろうが、彼は人間。 法力と呼ばれるものだろうが、それにしてはあまりにも邪悪に感じる。 さすがにそれには焦ったのか、悟空たちは臨戦態勢へと入った。 「何だよコイツ、人の話も少しは聞けって…」 「−いいからよけろ!」 『<オン>』 言葉と同時に、札が飛んでくる。 そこにいた悟空やは、しっかりとそれを避けた。 ドアへと貼られるそれ。 妖力を吸い取るであろう、札。 自分に災いがありそうならば、自分も戦わなければならない。 せめて、その札はに効くのか。 隙を盗んで、はそれに恐る恐る触ってみた。 何も変化は起こらない。 ならば裏面かとも思ったが、それも変化なし。 やはりこれは妖怪退治専用の札のようだ。 には効果がない。 まずそこに安堵すると、視線を六道へと戻した。 悟空が如意棒で殴りかかっている。 しかしそれは簡単に避けられてしまった。 「げ」 今度は六道の攻撃の番。 持っていた杖が、高く掲げられた。 「ヤバ…」 「悟空…!」 貫かれる。 そう思った途端、も声をあげそうになる。 が。 誰からの悲鳴もあがることはなかった。 「!?」 身体を貫く音ではなく、杖を捕らえた音。 誰かがそれに驚く声。 の紫苑の瞳には、三蔵が映っていた。 「朱泱<しゅうえい>−何してんだ、あんた」 まるで知り合いに語りかけるかのよう。 瞳も口調も真剣なものだ。 一応、警戒していることが伺える。 動揺したのは、六道。 はそんな姿を見ながら、前へと出た。 「お前は…」 「一応言っとくけど、こいつら殺しても、バカが減るだけだぞ」 素直じゃない。 そんなことを思いながらも、はようやく悟空達の中へと入ってこれた。 「大丈夫か?」 「あ、おう!も?」 「もち」 簡単に大丈夫だと確認する。 そして、二人揃って前で話し合う二人を見つめた。 「何…知り合い?」 「シっ」 悟空の声に、八戒が小さく声を出した。 まだ気を許してはいけない。 促されるように、も口を噤んだ。 「く。くっくく…っ。ははッ」 笑い出したのは六道だった。 笑うところはどこにもないはずだというのに。 しかも、それは自嘲のようなものにも聞こえる。 「−そうか!!噂には聞いていたが…まさかこんな所で出会<でくわ>そうとはな」 噂。 その言葉に、は顔をまた顰めた。 噂というものは尽きないもので。 大きくもなり小さくもなり。 真実ともなり嘘とも成りうる。 「『今代の三蔵法師には不逞の輩がいる』『下賤の民を従者に選んだ』とー」 「……」 それは確かに真実かもしれない。 だが、その噂は確実に、彼らを好いていない人たちが蒔いた話だと分かる。 不逞だとか下賤だとか、そんな単語があるのだから。 三蔵は何も言わない。 だからこそ、他の三人も、も何も言わなかった。 「『何している』だと?それはこっちの台詞だ、玄奘三蔵。先代三蔵を殺めたのがそいつらの同族だということを忘れたはずはあるまい…!!」 憎しみに囚われた瞳。 口の端を上へと上げて、笑んではいるものの。 それは殺意の表れでしかない。 はその間、なるほど、とどこか納得していた。 妖怪を憎んでいるのは、彼の師であろう先代三蔵、という人が妖怪に殺されたからだ。 そして、それはきっと三蔵の師匠。 二人はおそらく、同じ寺の出の知り合いだ。 「−人間変わるモンだな、朱泱。あんたの口からそんな言葉は聞けるとは」 「変わったんじゃねえ。朱泱は死んだんだよ」 三蔵の言葉から聞こえるのは、昔とは変わり果てた心だということ。 六道から紡がれたのは、朱泱の死。 それは何を意味するのか。 には、どこか分かる気がした。 「お前が寺を去った、十年前のあの日から……!!」 過去の悲しみと苦しみ。 多くの負の感情から逃げるには。 『死』を選ぶしかないということを。 |