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過去に何があったのか。 それは誰にも分からない。 話をしても、それは本当に真実なのか分からない。 例え真実であっても、その心境は本人にしか分からない。 大体、そんなものだ。 思い出だとか過去なんて、自分でも良いように解釈してしまうことすらある。 そんな不安定なものなのだ。 ただ、その場でさえ、自分の心さえ読み取れないのが常。 だからこそ、他人の心なんて読めるはずもない。 ましてや、過去と今が交錯する心情など。 雨は降り続き、雷も同じく鳴り響く。 真っ暗な闇に走る影。 時折聞こえるのは、金属音。 戦い始めて一体、何分経っただろうか。 三対一の戦い。 どちらも一歩も譲らない戦い。 「茶番はこの辺で終わりにしようか」 「近づけねーわ、術はハネ返すわ…どーしろってんだよ!」 いや、譲っている。 悟空達が確実に。 息切れをしているのは、加減をしているから。 それくらい、見ている此方はしっかりと分かる。 六道もそれに気付いている。 いや、彼も加減をして力量を測っているのだ。 「−おい」 雨の中、冷静な低い声が響いた。 闇へと金色の髪が溶ける。 先程まで一緒に屋根の下にいた彼はもう、決意をしたかのようだった。 「下手な義理立てはやめろよ。奴を呪符から解放する術は」 何故彼らが加減するのか。 それは、三蔵のことを考えていたから。 知り合いだということが分かった。 ならば、できるだけ殺さないように攻撃しながら、助ける術を考えていたのだろう。 呪符から解放する、術を。 「たったひとつだ」 しかし、そんなものがあるのなら、とっくのとうにやってるはずだ。 酷く根を張ってしまった札。 知識がないにすら分かることだ。 「………」 彼を解放させる術は たったひとつだということを 銃を片手に歩みだす三蔵。 八戒は静かにそれを横目で見ている。 はただただ彼らを見ることしか出来ない。 『三蔵一行』ではないから。 関係ないから。 これは三蔵の問題だから。 多々理由がある中で、まとめて言えることは。 自分はお呼びではないということ。 「−だめだ!!」 制止する声が、闇をかき消すかのように響く。 銃を向けようとする三蔵に、悟空が掴みかかった。 「今はあんなだけど、あいつお前の仲間だったんだろ!?」 「…悟空」 「マジでやめろ!!」 優しい子だ。 本当に。 そんなことを思う。 真剣な金晴の瞳に、三蔵の動きが止まる。 決意したと思ったであろうに、行動が出来なくなってしまう。 それはまだ、戸惑っているという証。 しかし、それは良いことか。 それは後から決めること。 動く影がある。 殺意を露にした、影が忍び寄る。 「バカ、後ろだ!!」 「危ないっ!!」 悟浄が大きく叫ぶ。 それに伴うように、も叫んだ。 悟空の後ろには、六道。 笑みを浮かべて、杖を掲げていた。 それは、どこに刺さるのか。 時は、こんなときに 止まることが出来るのだろうか 紫苑の瞳は見ていた 悟空が貫かれようとする瞬間に それを突き飛ばして庇った 人を 「てッ…!!−あたたた…アタマ打ったァ!!…あれ?」 何かを突き刺す音。 飛び散る、温かい液体。 怪我はなさそうな、悟空の声。 それが、導く答えはひとつだけ。 雷が轟き、閃光が走る。 その光が映すのは、紅の液体に染まる一つの身体。 「さんぞ…?」 金色の杖が、腹部を貫いている。 悟空の傍で横たわる、彼の身体を。 「「ー三蔵!!」」 玄奘三蔵の、身体を。 雨は降り止まず、紅の液体を流していく。 体温を、奪っていく。 誰もがそこに走り寄る中、も足を外へと走り出した。 黒い羽織りを、脱ぎながら。 しとどに降り、身体を濡らしていく。 アタマから、シタまで。 冷たい、雨に。 「が…かはッ」 「三蔵!!」 「三蔵、しっかり!!」 杖が抜かれ、口からは同じような紅の液体。 雷によって光る、それ。 紫暗の瞳は、閉じられた。 「三蔵ー目ェ開けろよ、三蔵!!?」 「何ガラでもねェことしてんだよ!!」 「三蔵…!!」 一度起き上がったと思ったら、うつ伏せになって倒れる。 ピクリとも動かない。 彼らの声ももう、届かないのか。 「…蔵!三蔵ッ…!!」 「動かしちゃダメです悟空!!」 グラグラと身体を揺する悟空。 八戒が止める中、はその中へと入り込んだ。 「どけ!」 「ッ!?」 無理やりに入り込んだために、悟空を少し突き飛ばすものになってしまった。 が、今はそんなこと言ってる場合ではない。 顔を覗き込めば、青いそれ。 杖が突き刺さった部分は背中まで貫通していて、多量に出血している。 命に関わる怪我。 「…ッ…三蔵が…!!」 「見りゃ分かる!少しは落ち着け!!」 取り乱している悟空をそっちのけて、はさっさと黒い羽織りを怪我の部分に巻きつけた。 止血を試みる。 手が温かい紅の液体に染まっていくが、そんなことはどうでもいいこと。 まだ息はある。 助かる可能性がゼロにならない限り、やれるだけのことはやらなくては。 「あ…うがああああああああ!!」 呆然としていた六道が、声をあげた。 遠吠えにも似た、苦痛に呻くそれ。 は傷口を押さえながら、彼を見上げた。 瞳がグラグラと揺れ、定まっていない。 目の前の光景を受け入れないように。 悲しみと苦しみに歪む瞳。 だが、口は笑みを零し始めた。 「は…ざまァ見やがれ…!!」 はその言葉に、目を細めた。 そして、近くにいた八戒に傷口を押さえているかのように告げると、すぐに立ち上がった。 「妖怪ごときに加担しやがる奴は人間だろうと死んじまうがいい!!」 大きく笑い出す六道。 狂い出したように、いや、もう狂っている。 その札を胸につけた、その日からきっと。 「本当にそう思ってるなら、そんな顔で笑えないはずだけど」 「っ!?」 いつの間にか、六道の額には温かい感触があった。 目の前には銀の髪と紫苑の瞳。 そして紅に染まった指二つを、彼の額に押し当てている。 「な、何だてめェは…!」 「そんなの、どうだっていいだろ?それよりも、アンタだろうが」 睨んではいない、その紫苑の瞳は。 真っ直ぐに彼の瞳を捉えて、逃がさない。 動くはずの腕ですら、縛られているかのような錯覚に陥る。 息を飲む音が、聞こえた。 「お兄さん、苦しさから逃げてる」 「なっ」 「魂が、声をあげて、嘆いてる」 三蔵の、紅の液体を。 まるで撫でるように彼の頬へと伝わせる。 温かかったそれはどんどん、冷たくなっていく。 「…しっかりしろよ。アンタの大切な人だろっ!札の快楽に左右されずに、魂の叫ぶまま苦しめっ!!」 聞こえている。 彼の魂の嘆きが。 泣いて、苦しくて、悲しいのに。 自分がそこにいたいのに。 札の快楽に身を委ねてしまいたくて。 自分を受け渡してしまいたい。 矛盾に満ちる心を紛らわすように、笑うから。 そんな顔になる。 「そんな顔で笑うのなら、魂を捨てちまえっ!!!いっそ楽になるか、それとも苦しみながら生きるかどっちかにしろ!!」 ドンと、勢いよく、札を叩く。 まるで判子のように、血液の手形がついた。 三蔵の、死にかけだという痕をつけて。 「…六道?朱泱?どっちにしろお前の魂はココじゃない。それだけは、覚えておきな」 札ではない。 魂は、別の場所にある。 揺らぐ瞳を見ながら、はしっかりと言い切った。 |