温かい陽射しを感じながらも、空気は冷え切っている。
特に、易者と三蔵一行の間には。



「そんな偽善者面でごまかしてるけど、罪人の目をしてるじゃないですか」


「…………」



一体何の話かは分からない。
しかし、八戒が反論しないあたり、真実が含まれているのだろう。
は平然を装いつつも、目の前の易者を見つめていた。

これもまた『領域』なのだろう。
面倒なことになったものだ。
耳を塞ぎたいところだが、そうもいかない。

この易者の正体を知るからこそ。
言葉に注意を払わなければいけない。
行動にも、表情にも。

何もかも。


易者はそれを知ってか知らずか。
笑みを濃くし、狂気に満ちた瞳で八戒を見上げた。



「腹に傷を持ってますね?それが貴方の罪の証だ。償いきれない程の…」



恐怖を煽るような声。
核心をつくような言葉。
しかし、楽しむかのように笑む口の端。

それらは何の感情を意味するのか。
どちらにしろ、八戒に向けられているもの。



「−ッ何者だてめぇ!?」


「おっと」


「ケンカ売ってやがんのか!?」



怒りに身を任せ、乗り出したのは悟空。
大きな声を出して机を叩く。
しかし、この易者にとっては犬の遠吠えも同じ。
彼はからかい混じりに、妙に癇に障るように笑ってみせた。



「我はただの易者ですよ。信用度の低い…ね」



悟空が唸る中、はそっと八戒に目をやった。
表情が強張って止まったまま、動かないでいる。
悟浄も横目で彼を見ているあたり、心配しているようだ。



「…そうそう、貴方もですよ」



ぞくり、と背筋が凍る。
振り向くと、その易者の瞳はへと向けられていた。

どうやら今度は自分のようだ。
は半眼で彼を睨みつける。
実に興味深そうに、彼は一つの牌を取り出した。



「我の牌は真実すら示す。ほら、貴方を示す牌を渡しましょう」



手を差し出すように促され、はそれを差し出した。
静かに手の平に乗せられる牌。
冷たい易者の手を感じて、彼の正体を確信しながら開く。

一つの牌。
そこには『魂』の文字が書かれていた。



「『魂が呼ぶのは汝か、それとも汝が魂を呼ぶのか』ー。さぁ、どちらでしょうかねぇ」



喉の奥でクツクツと笑う易者。
悟空が心配そうにを見ているのが分かる。
しかしは冷静にそれを見つめていた。


(なるほど、俺の正体を知っててそういうこと言うわけか)


彼ならば、の正体を知っていて当然だと言っていい。
何故なら、一度彼は『お世話になっている』はずなのだから。

さしたる精神的ダメージはない。
はその牌をポンポンと投げながら、その易者を見つめた。



「じゃあ、俺も占い一つ。易者さん、アンタの真実」



投げていた牌を、元の場所に戻す。
そして音を立てて混ぜ始めた。

意外そうに見つめる易者。
三蔵達もちゃっかり見ている。
そんなこと気にせずに、は一つの牌を易者に向かって軽く投げた。
弧を描いて、しっかりと彼の手に届く。

選ばれた牌には、何も書かれていない。
いわゆる『白』の牌。



「それが意味するのは、何だろうな?」



意味ありげに、はニヤリと笑ってみせた。
あえて言葉はいらないだろう。
彼ならば、分かるはずだ。

の真実を『魂』の牌に捉えたのならば。
彼の真実を『白』の牌に捉えることに意味はある。


易者はそれを見て、の表情を見てから。
さも楽しそうに笑い始めた。
理解した、という意味を込めて。



「クク…貴方は易者の資質、ありますねェ」


「そらどうも」



褒められても嬉しくはない。
未だに笑う彼に、は肩を竦めてみせた。



「え、何、結局どういう意味なワケ?」


「ヒミツ」


「ハァ!?ズリー!!教えろよ!」



悟空がを揺する中、紫苑の瞳はしっかりと三蔵達を見つめていた。
どうやら、牌の意味は分かっていないようだ。
ならば、『魂』の意味も分かるまい。
そこに小さく安堵しつつ、心は全く違うことを考えていた。


どちらにしろ隙を見て、いずれ倒しにいかなくては。
『白』をそのまま動かしておくわけにはいかない。
『魂』…死神である自分だからこそ。


クツクツと笑い、易者はまた一つの牌を取り出した。
そこでようやく悟空の揺さぶりが止まる。
視線は一つのものへと集まった。



「我の牌は運命をも語るんです…ほら」



見せたのは何と書かれているのか分からない牌。
意味は彼しか知らない。
易者は、笑みを濃くして口を開いた。



「『災いは汝らと共に』−」



災いは、彼らと共にある。
三蔵一行が、ここに生きている限り。

西を、目指す限り。


ある意味当てはまっている。
はへぇと小さく納得してしまった。



「ま、信じないのは勝手ですけどね…」


「それ、どーゆう…」



悟空が声を荒げたときだった。
どこかからか、大きな爆音が響く。
同時に悲鳴があちこちから共鳴するように上がった。

振り返れば活気ある町が一変。
何か大きくて黒いものがそれを襲っている。



「ぎゃあああ!!」


「うわあぁ化け物だ!!」



人の何十倍もの大きなもの。
町を踏み潰していくそれに、皆が悲鳴をあげ、視線を奪われる。
三蔵一行もも、見上げて口をポカリと開く。



「な…何だありゃあ…!?」


「………キモい」



虫にも見えるが、それよりも酷く歪だ。
そして、魂がそこにはない。
あの、易者のように。


(!しまっ…)


易者、で思い出し振り返ってみれば、そこには占い用具だけ。
易者本人はいない。
八戒もそれに気付いたのか、汗を静かに流している。


(…逃がしたか…)


いずれ己の手で、と思っていたがそうもいかないらしい。
は小さく舌打ちをして、またあの大きな化け物へと視線を向けた。
今はこちらが先決だ。



「まさかアレも牛魔王の刺客かよ!?」


「いや、それはわからんが奴の胸元の梵字…あれは『式神』の印<しるし>だ」


「式神!?あんなでかいのが!?」



式神。
その単語にはなるほど、と頭を動かした。
ならば魂の反応がないのも納得いく。

とにかく今は死ぬ人を減らすのが先決だ。
はすぐさま、走りだした。



「っと!オイおチビ!!お前また…!」


「はい、また団体行動乱しまーす」


「宣言つきかよ!?」




ピラピラと手を振ってそう宣言すれば、悟空からツッコミが返ってくる。
が、それにまた何かを言う時間はない。
あの式神が動く度に、建物の下敷きになる人々がいるのだ。
せめてそれだけでも助けなければ。

悲鳴と爆音が辺りの音を独り占めし、艶やかな血の色が彩る。
そんな中、魂を辿っては真っ先に駆け抜けた。


死んだ人は助からない。
ならば、助かる可能性のある人を助ける。

出来る限り。













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