破片が未だに降り注ぐ。
爆音が近くから聞こえる。


式神ならば、三蔵達に任せておけば大丈夫だろう。
怪我人の止血をし、声をかけて安全な場所へと避難させる。
黒い羽織りはまたボロボロになって止血に役立っていく。
頭上から降り注ぐ破片をよけながらも、はただ手当てと避難に専念した。



「……よし、これで一段落か」



どうやら式神はあれから大きくは動かなかったようだ。
時折地響きがあるが、それぐらい。
お陰で怪我人は増えていない。

動けない最後の怪我人を背負って終了だ。



「うえー…痛いよー…」



最後の怪我人は子供。
足を怪我しているだけで、軽症だ。



「ほら泣かない泣かない。死ななかっただけマシだっつの」



赤ちゃんをあやすかのようにおんぶをしながら、時折揺らす。
破片を避けて歩いていると、母親らしき人物が駆けてくる。
無我夢中のせいで、辺りを見ていない。

間違えれば破片の下敷きになってしまう。
は急いで彼女へと駆け寄った。



「坊や!!」


「お母さーん!!」


「感動の再会は後で!お母さん、頭上ちゃんと見ながら避難して!!」



子供を渡してから、一緒に途中まで駆ける。
破片が少なくなってきたあたりで、ようやくその親子から離れることができる。
礼を述べる母親に手を振りながら、はまた駆け出した。

まだ見える黒い大きな物体。
血に染まった小袖を見ながらも、未だにその場で暴れることをやめない。
それを止めなければ、怪我人死人も増えるばかりだ。


三蔵達の後ろ姿が見える。
どうやら苦戦しているようだ。
自分も参戦しなくてはいけないかもしれない。

そう思ったとき。
黒い大きなその物体は、何かによって吹っ飛んだ。
駆け寄っていた足が、ゆっくりと止まっていく。



「え、ええ…?」



三蔵達があんなに手こずったであろうそれが、簡単に吹き飛んだ。
何か見えた気がしたが、速くて見えなかった。
それとも彼らが倒したのだろうか。
が三蔵達の元へ辿り着いたのは、この数秒後だった。



「…お疲れー」


「あ、!お帰り」



のんびりと歩いてきたに、悟空がすぐ様振り返った。
他の皆は、あの倒れたモノがあった場所を凝視している。
そこには、猫を抱える女の子がいた。

よく見れば、妖怪の。



「何があったわけ?」


「俺にもよく…あれやっつけたの、あの娘っぽくて」


「はぁ」



どうやら大きな黒い物体を倒したのは三蔵達ではなくその女の子らしい。
よりも小さなその子。
では見えなかった速いものは彼女だったのか。

褐色の肌とオレンジ色の髪と瞳。
活発そうな表情が印象的な女の子だ。
しかし、どこかの誰かに似ている気がするのは気のせいだろうか。


そう、この間、会ったばかりの。
誰かに。



「−あ。『三蔵いっこお』やっとめっけ!!」


「え?」



女の子はどうやら、やっと此方に気付いたらしい。
可愛い、クリクリっとした瞳を輝かせ、思い切り指をさす。
言葉からして、どうやら三蔵一行が目当てのようだ。
だとしたら牛魔王サイドだろう。
彼女は両手を腰にあてて、偉そうに口を開いた。



「オイラは李厘!!紅孩児お兄ちゃんの代わりに君達をやっつけに来たよっっ」


「「お兄ちゃん」ってーまさか」



紅孩児。
お兄ちゃん。

この二つが結びついて意味する言葉は。



「紅孩児の…妹ぉ!?」



彼女は、つまりそういうこと。
全員が全員驚き、目を瞬かせる。
も同じように驚いた。

そしてどこか納得がいく。
ああ、だからどこかで会った気がしたんだと。



「…だから死んでね」



しかし、性格は全く別らしい。
ウインクして可愛く言う彼女はどこかお茶目でセクシーだ。
真面目そうな彼とは正反対にすら思える。

とりあえず、これで疑問は解決。
自分には関係ない。
どんなに可愛かろうが、紅孩児の妹だろうが。

彼女の相手は、三蔵一行だ。
は一息吐いてから、踵を返した。



「…と、ゆーわけでっっどっからでもかかってこいっっ!!」



凛とした声を聞きながら、はそこらにある椅子を立てた。
テーブルも立てなおし、そこらを物色する。
美味しそうなお茶を見つけ、お湯を見つけてそれを注ぐ。
綺麗な色が、光を反射させる。



「どっからって言われてもなァ…」


「さてどーしたもんでしょう」



三蔵一行が戸惑う中、白竜が何ともないように羽ばたく。
そして、同じように何ともないようにお茶を淹れるの頭に降り立った。



「あーお前も飲む?」


「ピーッ」


「はいはい、少々お待ちを」



もう一つカップを取り出し、そこにお茶を注ぐ。
白竜専用に、少し温めにするために水を入れておく。
これで完了。

そんな優雅な一人と一匹をよそに。
李厘は全くかかってこない三蔵一行に不満顔だ。



「むっ。オイラが小さいからってバカにしてるなっっ?じゃあこっちからイクよ!!」


「うあ!!?」


「なッ…」



繰り出した拳は悟浄へと向けられた。
が、素早く避けたために大丈夫だった、が。
道路に穴が開いた。
悟空が青ざめる中、彼女は笑顔で手を鳴らしている。



「悟空、お前いけっっサイズが一番近い!」


「何でだよっ一番サイズが近いのだろ!?」


「…ですが、はあそこで優雅にお茶飲んでますよー」


「えええっ!?」



擦りつけが擦りつけを呼び、の名前が出る。
しかし呼ばれた本人は優雅にお茶。
八戒が苦笑を零す中、悟空と悟浄は大っぴらに反応して後ろを振り向いた。



「てめっ!お前何暢気にお茶なんかしちゃってンだ!!」


「俺三蔵一行じゃねーし」


「このヤロウ……」


「ま、頑張って」



全く関係ないことには手を出さない。
白竜とのんびりお茶をしながら見学は決定だ。
は戦う気ゼロ。

悟空はこうなったらと八戒を見上げた。



「だったら!子供相手なら八戒だろ!?」


「それを言うなら女性の扱いなら悟浄でしょう」


「あんなの女じゃねェよ」



擦り付け合い再び。
忙しい一行だ。
そんな中、李厘は再び走りだした。



「でやッ!」


「ちょ…ちょっと待て!!」


「待たないモンね。悪い奴はみんな死んじゃえ!!」



何とも子供らしい答えだ。
お茶を啜りながら、白竜のために違うカップを寄せる。
頭の上から小さな白い頭が伸び、中身を舐める。
はそんな光景を見ながら、横目で戦いを疑っていた。

また拳がどこかに飛ぶのだろうか。
宙に浮いたそれは、どこかに当たる前に止められた。
彼女の身体が、宙に浮いたからだ。



「捕獲完了」


「にゃっ?うにゃにゃっ?」



小さな彼女の背中部分の服が三蔵に掴まれている。
何とも面白いその光景。
は小さく、誰にも見られないように笑った。














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