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金属音が空に響く。 戦い始めた彼らをよそに、とは白竜のいる席へと腰を降ろした。 「あら、可愛い子ね」 「だろ?白竜っての。白竜、この人は。俺の大切な女性だ」 「宜しくね、白竜」 「ピーッ」 自己紹介は終了。 白竜が一鳴きして頭を下げると、当たり前のようにの頭の上へと移動した。 ずしっと軽い重みを味わったところで、は目を瞬かせた。 「あら…白竜はに懐いてるのね」 「あー、よく分からないけどな」 「フフッ…そう」 笑うは、別れてから、可愛いから美しいに変っている。 歳月は彼女を大人にしたようだ。 は小さく笑いながら、彼女にお茶を淹れた。 艶やかな亜麻色がカップに注がれる。 湯気の出るそれを彼女に差出し、二人で目を合わせて笑う。 そして一口を含んだ。 懐かしい。 過去、何度もこうしてお茶を飲んだ。 と、と、あの人と。 穏やかな陽射しの中。 香るお茶を楽しみながら。 未来に思いを馳せた。 「、美人になったな」 「はまた男らしくなったわよ」 「アハハ!ありがと」 「フフ」 違うのは、歳月が経ったこと。 あの人がいないこと。 お互いの立場が、違うこと。 思うのは、過去と現実のこと。 過去は、無意識にも捏造されるものだけれど。 あの頃は綺麗だったと思える。 幸せ、だったと。 紺色の瞳と紫苑の瞳はそれぞれ揺れる。 口の端は上がったまま。 複雑な感情は見せないように。 「…三蔵一行と、一緒に旅しているのね」 「向かうところが一緒だからな。…吼登城ってのは、意外だったけど」 「じゃあそこまで一緒に来るってこと?」 「いんや。早く行きたいのは山々だけど、途中で別れようと思ってる」 お互いから、戦っている一行へと視線を移す。 四対四と綺麗になっているため、それぞれタイマンでやってるようだ。 三蔵と李厘、八戒と八百鼡、悟浄と見知らぬ男性、悟空と紅孩児。 各々、懸命に。 若干、紅孩児が押されているような気がする。 「…で、お前は紅孩児んとこでお世話になってるってことか」 「王子様は関係ないわ。私はただの吼登城の科学者よ…蘇生に関わってる、ね」 「あ、俺も三蔵一行とは関係ないぜ?俺もただの旅人だよ、お前を止めるための、な」 決別してから変らぬ、お互いの倫理観と価値観。 そして決意。 瞳の奥のそれは、揺らがない。 お互い、今は止めない。 止めたとて、何も変らない。 自分達より大きなものが動いているのだから。 それにお互い、理解しているのだ。 譲れない、思いを。 のんびりお茶を啜りながら、戦いの見物。 はその中でも、三蔵一行に目をやっていた。 紅孩児達に果敢に立ち向かっている彼ら。 瞳は強さを秘めているかのように、力強く輝く。 「…いい人たちじゃないの」 まるで太陽のよう。 の遠い、紺色の瞳を見てから、はまたお茶を啜った。 香ばしい香りに、独特の旨み。 太陽の光を弾き輝くお茶。 脳裏を過ぎるのは、それを背負った彼らの姿。 「…だろ?…太陽みたいなヤツらだよ」 がそこにいたからだろうか。 素直に、その言葉が出る。 紺色の瞳がに戻ったとき、表情に翳りがある彼女の姿があった。 白竜が不思議そうに首を傾げる中。 顔をあげたは、自嘲の笑みを浮かべた。 「…、貴女…まさか正体を」 「バラしてない。…バラせるわけ、ねぇだろ」 「そ…う」 の言葉に、少し複雑な表情をする。 正体を知られていないことに対する安堵か、それとも緊張か。 心の傷を知るからこそ、複雑だ。 「…、貴女は、どうして三蔵一行と?」 もっともな質問。 は素直に答えるために口を開いた。 拉致から始まった旅。 彼らの目的はの正体が分からないために監視されていたこと。 つい先日、正体はどうでもいいと言われたこと。 結局、この正体が暴走した場合止めるために共に旅をすることになったこと。 としてはメリットを重視して一緒に今まで旅してきたことを明らかにした。 勿論、心を許していないことや正体を明らかにしていないことも付け足して。 長くなるだろうその話をさっさと短くしたものを、はしっかりと聞いていた。 紺色の瞳でを見つめ、聞き漏らしのないように。 「…ってわけで今日までやってきたけど…」 「そう」 が言い終わると、はふとまた三蔵一行に視線を逸らした。 まだ飽きずに戦っている。 一口お茶を啜ってから、彼女はゆっくりと瞳を閉じた。 「…貴女に、忠告をしておこうと思ったの」 過去を映す瞼の裏。 幾度も信じ、傷ついたの姿。 涙はとうに枯れて、泣くのを我慢する姿が。 開かれた紺色には、太陽が映る。 「また、傷つくんじゃないかって」 「…」 「私としては、泣くより、泣くのを我慢してるの方がイヤだから」 もし彼らによってまた傷つくのなら。 そんな姿は見たくないと、忠告しなくてはと思った。 「けど」 の瞳と口。 表情を見る限り、確かに心は許していない。 壁を崩してもいないし、領域を侵されているわけではない。 だけど。 「遅かったわね」 「え?」 もうその兆候が見られる。 紫苑の瞳の奥に。 が目を見開いて驚く中、は小さく笑った。 「気付いてないだろうけど、貴女はもう侵されてるわ」 「んなバカな…」 「どうやら、あっちも侵されてるようだけど、ね」 「いやいや、んなバカな」 紺色の瞳は映していた。 戦いながらも、の様子をちらりちらりと見やる彼らの姿が。 が気付いてないことに、笑みが零れる。 小さくまたクスリと笑ってから、紺色の瞳は親友を映した。 「、言っておくわ」 遅いのならば、もう何も言うことはない。 言うとしたら。 一つだけ。 紫苑の瞳が戸惑いで揺れる中。 彼女はしっかりと口を開いた。 「貴女が三蔵一行と行こうが、避けて行こうが。 信じようが、全てを明かそうが。それは貴女が決めることよ」 もう戻れないのなら。 これから進むのがどの道であれ、が進むのであれば。 傷つこうが、どうしようが、決めるのは彼女。 過去の過ちを繰り返すのも。 繰り返さないのも。 「……」 「私が言えるのはそれだけよ」 紫苑の瞳が揺れる中に、は綺麗に微笑む。 の決心に委ねる。 これは、の人生なのだから。 忠告などもともといらなかったのかもしれない。 今更ながら、はそう思いながら笑った。 「…でも、俺の次は決まってる」 紫苑の瞳は揺れながらも、未だ闇の中。 太陽の光は、受け入れない。 「アイツらとは、離れる。俺のためにも、アイツらのためにも」 自分のためだけではない。 彼らのためにも。 歩み寄っては、いけない。 |