正体がバレてしまうのが恐いだけじゃない。

その後に起こることが、恐いのだ。

自分で止められるものじゃない、それが。






太陽と闇は受け入れられない。
在る場所が違う。

それ以上に。
この手が。

また大切な人たちの血で染まる前に。




カップの中のお茶が揺れる。
手が震えるからではない。
テーブルが、振動によって揺れているから。

紫苑の瞳が現実へと戻る。
勢い良く立ち上がると、も顔を顰めて同じように立つ。
白竜が一鳴きしたところで、二人の視線は、同じ方向へと向けられた。



振動の元。
ガラリガラリと瓦礫が落ちる中、見える巨体。
それは悟空と紅孩児の後ろに立ちあがった。



「…悟空!後ろー」


「え?」



それは誰が叫んだのだろうか。
息を呑んだのは、誰か。
倒れたはずの、あの黒い怪物が足を伸ばしていた。



「な…ッ!?」


「避けろ!!悟空!紅孩児!」



の声が響くも、それは時としては遅かった。
足はすでに伸びている。
それが振るわれるのには、時間はいらない。

大きな打撃音。
倒れる二人の姿に、は顔色を変えた。

呻き声と、彼らにかける声が青空を酷く歪ませる。
白竜が飛び立ち、避難する。
一歩踏み出すの隣に、必然的にが立った。



「行くの?」



答えは分かっているかのように、気楽に質問する。
この騒動に、の瞳は光を取り戻している。
まだ感情としては複雑だろうが関係ない。

は、命が関わるときに必死になるのだから。



「…あれを放っておくと、また犠牲者が増えるからな」


「言うと思ったわ」



悟浄が足を防いでるのを見て、は手を意識する。
握られるのは二つの鎌。
紫苑の瞳は真っ直ぐ、あの巨体を映す。
は小さく笑って一歩前へと出た。



「私も行くわ。久々に協同戦線と行きましょ」


「…


「知ってるでしょ?私も誰かが死ぬところ、見たくないわ」



が驚いて隣を見上げると、紺色の綺麗な瞳とかちあった。
笑みを浮かべた彼女の両手には、いつの間にか武器である鉄扇が各々握られている。

親友で幼馴染だから分かること。
お互いに。
信念も、思いも。


お互いに、笑みを浮かべて。
そして走り出す。
最後の、協同戦線だと。



「私は右へ」


「じゃ俺は左っと」



悟浄の押さえていた足を、見知らぬ妖怪男性が切る。
これが三蔵一行と紅孩児一行の一時休戦を意味している。
それを象徴するかのように、紅と銀の髪はその間を駆け抜けた。



!?」


さん!?」



八戒と八百鼡が声を上げる中、二人は進むことをやめない。
お互いに笑みを浮かべ、各々足へと斬りかかった。
固い節々。
まるで金属のようなそれに、二人で顔を顰めて距離を取る。



「固いわね」


「やりがいがあるな」


「フフ、そうね」



背中合わせに立ち、ニヤリと笑う。
お互いに信頼し、背中を預ける。
違う色の瞳には同じものが映る。

どこか一体感を感じながら、二人はお互いに軽く小突いた。



「ヒールの科学者は無理しねぇようにな」


「今時はヒールでも科学者でも戦う時代よ」


「ハハッ!イイ女じゃん」


「フフ、その女を気遣うもイイ男よ」



そんなことを言いながら揃って走り出す。

巨体の攻撃を避け、隙があらば攻撃する。
お互いに声を掛け合い、足りないところは補助。
初めて一緒に戦っているとは思えないコンビネーション。
悟浄がまた足を押さえる中、二人の後ろ姿に苦笑を零した。



「…何、アイツら息合いすぎじゃねェの」


「何だ、知らないのか?アイツらは親友同士だぜ?」


「ハァ?」



彼の疑問に当たり前とばかりに言い切ったのは、隣にいた妖怪。
名前を独角児という、短髪で筋肉質な男性。
初めて聞く二人の関係に、悟浄だけならぬ三蔵一行全員が目を見開いた。

よくよく見れば、戦ってる中も二人で目を輝かせている。
ヘタすれば笑顔にすら見える。



「何だ、本当に何も聞いてねぇんだな」



独角児が呆れに似た息を吐きながら、巨体の足を一つ切り取った。
ごとりと、重みを感じる音が鳴る。
悟空の表情に少し翳りが見える中、その隣の紅孩児が口を開いた。
飛び交う二人を、見上げながら。



は科学者だ。俺達とは直接関係はないが、三蔵一行の五人目としてが浮上したとき、それをすぐに否定した」



今でも思い出せる。

の情報が届いたとき、今迄携わろうとさえしなかったがすぐに前へ出たこと。
特徴を聞き出すなり彼女だと分かり、それはないとハッキリ言い切ったこと。
そして親友だったから分かると、微笑んでいたことすら。

彼女の部下の一人もを知っていて、どこかの下の妖怪に正体か何かを話したらしい。
だが、その話はそこまで広まっていない。
それらは言うべきではないだろうと、紅孩児は口を閉ざした。



「なんで、そう言い切れたんでしょうか」


「良く分かりませんが、なんでも、さんは人とは長い期間、一緒にいたくないタイプだとか…」



八戒の問いには、八百鼡が答える。
お互いに戦いを中断し、巨体と、を見やる。
巨体に攻撃は効いてない。
しかも、やはりヒールとあっての動きが宜しくない。
はそれを知っているために、彼女を守るように動いている。




「ああもう!こんなことになるなら、ヒールなんて履いてくるんじゃなかったわ!」


「無理すんなっつったじゃん。つか逆ギレかよ、らしいなぁ」


「そんなとこで懐かしまないでくれる!?」



ケラケラと笑うとは逆に、は逆ギレだ。
ヒールによって動きが鈍るのが気に喰わないよう。
全く子供らしいやり取りに、三蔵一行も紅孩児達も一種の呆れがくる。



「なんか、めっちゃ楽しそうなんだけど!」


「イーなぁ。オイラも混ざりたい!」


「だったら降りろ」



悟空が指をさして不貞腐れ。
三蔵の上に乗った李厘が羨ましがる。
肩車状態はまるで親子のようだ。
勿論、父親役は青筋を作っているが。


しかし、こちらも目を奪われている場合ではない。
あの巨体はまだ動いているのだ。
此方も動きださなければ。

皆が再び、動きだした。












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