しばらく戦っていても、全く効果がない。
いい加減、体力も消耗してくる。

どこかしらで悲鳴が聞こえた。
八百鼡のような、高いそれ。
反応したは、彼女に近づく巨体の足に反応が遅れた。



っ!!!」


「っ!!」



動くも、ヒールのお陰で跳躍が低い。
とっさにガードするの後ろに、は鎌を仕舞って跳んだ。
受け止めるために、両手を開く。

予想通りに、は巨体の足により宙へと投げ出された。
それを、が受け止める。
少しでも地面に落ちたときの衝撃を少なくするために、受身を取る。
だが、二人分の体重と重力に、の身体は大きな音と一緒に地面へと沈んだ。



「ぐっ!!」


っ!!」



背中に走る痛みと衝撃に、呻く声。
はすぐさま立ち上がり、を覗き込んだ。



っ!!、大丈夫っ!!?」



心配そうな声に、はゆっくりと目を開けた。
青い空に、紅の髪と揺れる紺色の瞳。
が上手い具合にクッションになったために大丈夫だったようだ。

何故かそれが嬉しくて、ゆっくりと手を伸ばす。



が平気なら俺も平気、なんてな」



ちゃっかりウインクしてみせる。
手を取ったは一瞬ポカンとした後、呆れ顔となった。
の頭を軽く叩く。
そのままゆっくりとの身体を起き上がらせた。



「あ、いたたたた」


「今の格好良かったけど、こんな身体でバカ言ってんじゃないわよ」



起き上がらされて始めて分かる痛み。
背中を強打したせいだ。
骨折、打撲まではいかないらしく、しばらくすれば戻るだろう。

痛いと笑いながら、起き上がる姿はまるで別人。
傍にいた八戒は、紅孩児を庇って倒れた八百鼡を支えながらそんなことを思っていた。



「あ、八百鼡っち…」



起こされて目に入ったのは、八百鼡。
八戒に支えられた彼女を見ながら、は顔を顰めた。



「大丈夫ですか?


「俺は平気。…八百鼡っちは」


「紅孩児を庇って、腰と背中を強打して気を失ってるようです」



も顔を顰める。
そして、偶然にもと彼女は同じタイミングで巨体を見上げた。
しっかりと、睨みつけて。



「あの式神は、丸ごとでないと倒せないわよ」


「ったく。面倒だな」



まだ戦う意識を忘れてはいない。
冷静に分析したに、は舌打ち一つ零した。

部分的に攻撃しても効果は薄い。
ならば、丸ごととも倒さなければいけない。
しかしそんな技、誰が持っているというのか。


そんな折、前へ出たのは紅孩児だった。



「悟空、あの式神の動きを止められるか」


「え?」



悟空に協力を呼びかける。
目を瞬かせたのは、彼だけではない。
も、同じように彼を見上げた。



「多少時間さえあれば俺も召喚魔が使える。アレを倒すには他に手がないだろ。ほんの数秒でいい。動きを封じてくれりゃあ一発で決まる」



説明は分かりやすいもの。
最もな言葉に、はなるほど、と小さく零した。
未だ暴れる巨体を倒せる術はそれしかない。



「…ただし」



紅の瞳が悟空を見下ろす。
真剣さの中にある優しさが、口を滑らせた。



「巻き込まれるなよ」



低くも、心地よい声。
は自分に向けられたものでもないというのに、小さく笑った。
そんな彼女に反応するのは、勿論だ。



「…って王子様っぽい人好きそうよね」


「あ、分かる?俺大好き、ああいうタイプ」



二人の目には、頷いて駆けていく悟空が見える。
しかも「てめェこそ外すなよなッ!?」という余計なお節介つきだ。
それに怒る紅孩児を見て、笑みは増す。



「義理堅くて人情深くて不器用で優しくて?最高じゃん」


「面白くて?」


「そゆこと」



絶対からかったら面白いタイプだ、と笑う。
勿論、ヒトとして出来ているからという理由もあるが。
も小さく笑いを零す中、は四つの鎌を出現させた。



「だから、ついつい手を出したくなる」



クルクルと回転するそれは、巨体目掛けて飛んでいく。
勿論、それが斬れるわけではない。
やることは一つだ。



「紅孩児、悟空!俺が注意引きつけとく!しっかりやんな!!」



出来る限り声をあげて、聞こえるようにする。
そして四つの鎌は躍るように巨体の周りを飛び回り始めた。
所詮目くらまし。
戸惑う巨体に、がニヤリと笑う。

の普段ない言葉に驚いたのは一瞬。
悟空は嬉しそうに振り返って拳を上げた。



「おうッ!」


「分かった。任せたぞ、



紅孩児からは任されてしまった。
しかも、いつの間にか名前だけで呼ばれながら。
召喚魔を使うには、莫大な集中力が必要になるからだろう。
名前に気を使う隙も無かったのだ。

起こされたの肩を、がしっかりと支える。
温かいそれに、安心する。



「しっかりやんないと、悟空さんがバラバラになるわよ」


「分かってるって」



紫苑の瞳に力が入る。
はそんなの姿に小さく笑って、同じように巨体を見上げた。
二人の力で鎌は回る、そんな気すら起きるほどに。







「…性格変わってンじゃねェか、アイツ」



これまでのを見て零れた言の葉一つ。
腕を組んで、紫暗の瞳が面倒そうに開かれている。
悟浄はそんな三蔵に近づいて、苦笑を漏らした。



「大切な女に会って、抑え切れないんでなイの?」



あそこまで心を、身体を許し。
表情を豊かに出来て。
それが行動や言葉に現れる。

三蔵達と旅をしていた頃とは、偉い違いだ。

だからこそ分かる。
こそが、の言っていた『大切な女性』だということが。



「しかも、なんだかんだで女っての大切にしてるみたいだしィ?」



八百鼡を守ろうとしたのも。
心配したのも。

どこかで女の人を大切にしたいがために動いた証。

その隣から独角児が現れ、のんびりとを見やった。
彼らと同じように。



「話に聞いてたのより、男っぽいなってのは」


「だろ?女のカケラもねェよ、アイツは」


「ハハッでも紅が気に入ったわけが分かった気がするわ」



その言葉に、三蔵も悟浄も顔をあげた。
独角児は見ずとも分かる、彼らの表情にクツクツと喉の奥で笑う。
瞳には、召喚魔を呼び出すための言霊を唱えている紅孩児を映して。

彼は気に入った、とは一言も言わなかった。
のことは、八百鼡を助けてくれたことと、包帯のことしか言わなかったのだ。

しかし、今こうやって任せているということは。
悟空と同じ、いやそれ以上に。



「ね?やっぱりおにーちゃん気に入ってたでしょ!?」



えへんと三蔵の上で威張る李厘を皆が見上げてから、視線はそれぞれ好きに動いた。
主に紅孩児と悟空の戦いぶりへと目をやる。

敵と味方の意識があるのかとか。
くだらない、話をして。

のことを、忘れるように。













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