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銃口から放たれる銃弾。 それは清一色の不意を打つものであったが、簡単に避けられてしまう。 「不意打ちとはまた姑息ですねえ?」 「貴方に言われたかないですよ!」 余裕たっぷりの清一色に、次の攻撃。 八戒が悟空の前へ守るように立ちはだかり、気孔を放った。 空中で避けていたために、清一色は防ぎきれずに吹き飛ばされる。 この後、二人は飛ばされた彼を追うことになるのだろう。 はどうしたらいいのか指示もないまま、ただそれを見上げるだけだ。 走れと言われても、この身体では。 「…うぎょっ!?」 しかし、その思考はすぐに中断される。 不意に浮いた、自分の身体に。 「−追うぞ、八戒!」 「悟浄、悟空を任せましたよ!」 三蔵の声が自分の下からする。 どうやらを持ち上げたのは彼らしい。 今のところ、四人の中で体力的にも精神的にも、一番ダメージを受けていないからだろうか。 走っているために、身体に衝撃が走る。 とにかく、これで彼らと共に追う側になったことは明らかだ。 「あッ、オイ!?」 肩に担がれるようになっているため、遠のいていく悟浄と悟空が見える。 酷く驚いているその表情に、は小さく手を振った。 「またな〜」 と、暢気に。 安心させるかのように。 の視線から消えたとき、ようやく彼らの意識がこちらに戻った声が聞こえた。 しかしそちらに構っている場合ではない。 あちこちを見やり、清一色を警戒する。 三蔵や八戒が前を向いている今、は後ろを担当となるのは明白だ。 木々が揺れ、彼の存在を示す。 「−そうですか、あの二人から我を遠ざけましたね。フフ…まあいいでしょう。その甘さが命取りですよ!」 飛んでくる点棒。 はすぐさま、四つの鎌を出現させ、それを防いだ。 身体が動かない分、集中力が残っているために出来る業。 勿論、自分のみならず八戒や三蔵に飛んでくる分も防いで。 「寝呆けるな、俺を殺すんだろ?外すなよ!」 「きっと三蔵に当たる前に俺に当たるけどな〜」 勿論そんなつもりはない。 降ってくる点棒の雨を、四つの鎌で確実に消していく。 担いでもらっているのだから、それぐらいは当たり前だ。 三蔵も守られているばかりではなく、しっかりと発砲する。 八戒も気孔を放つ中、清一色を追いかけていく。 しかし、彼の方が速い。 三蔵は元々体力は無い上に、を担いでいるのだし、八戒は精神的にキていたのだ。 攻撃を出しながらの全力疾走は体力的にきつい。 逆に痛みも疲れも感じない身体に追いつけという方が無理に近い。 数キロメートルを走ったところで、完全に清一色の姿が消えた。 「見失ったか……」 息切れが激しい三蔵は、もう肩で息をするまでになっている。 その振動は担がれているにもしっかりと伝わってきているほどだ。 しかししばらく休めば呼吸も整うだろう。 は旋回させていた四つの鎌を、静かに消しながらそんなことを考えていた。 「…まずいですね。悟空達に何かなければいいのですが」 「…いや、おそらく奴はこの近くにいるだろう」 八戒の息は三蔵よりはマシなよう。 すぐに整うそれに、感心すら覚える。 逆に未だに整わない息のまま、三蔵は冷静に口を開いた。 「今の奴の目的は、お前の前で俺か、コイツを殺すことだからな」 「−そう…ですね」 コイツ、というのは担いでいるのこと。 八戒は申し訳なさそうに苦笑を零す。 三蔵は疲れたのか、そう言った後に肩から彼女を下ろした。 大きな溜め息と共に。 トンと地面へと足をついた途端、は近くの木に体重をかけた。 まだグラつく身体。 完全な調子までは程遠いことを感じて、小さく息を吐く。 そして、ちゃんと三蔵を見上げた。 「ありがと」 やはり礼儀正しく、お礼はしっかりと。 三蔵は鼻を鳴らしつつ、担いでいた肩を軽く回す。 数キロも一人を担いで走ったのだ、痛いに決まっている。 そして彼は木に身体を預けた。 必然的に、は八戒と三蔵の間にいることになる。 八戒も木に背中を預けるのを見て、同じように動く。 硬くも生命力溢れるそれに、どこか安堵していく。 隣から零れる、ライターが点く音。 煙草を銜える三蔵が目に入った。 紫煙が上っていく。 いつもの光景。 「最近増えましたね」 八戒の言葉に、は反応しつつも、その場に腰を下ろす。 今は、二人を語らしておいた方がいいだろう。 そういう判断で。 「何分イラつくことが多いもんでな」 「あれ、それって密かにイヤミですか?」 「言語理解力のある奴は助かるよ」 普段言語理解力のある奴はいないという意味だろうか。 まるで第三者のようにはのんびりと森の闇を見上げていた。 勿論、イラつく原因はあの二人だけではなく、も入っているだろう。 しかし、それはどうでもいい話。 緊張が解け、少しずつ身体の、忘れていた痛みが走ってくる。 それに顔を顰めつつ、ただ黙る。 「…三蔵」 「何だ。くだらんこと聞いたら殺すぞ」 「あ、じゃあやめようかなぁ」 「ケンカ売ってんのか貴様」 普段どおりの会話。 しかし、どこか八戒の言葉が揺れている。 「僕は、ここにいてもいいんでしょうか」 まだ、迷っているのだろう。 彼が、ここにいることを。 自分のせいでと、どこかでまた考えているのだろう。 彼なしでは、三蔵一行は成り立たないというのに。 「…本当にくだらねーな。二度と聞くなよ」 三蔵のことだ。 きっと、捻くれた言い方だろうけど。 救う言葉を、くれる。 そんな確信がある中。 は目を瞑ってその言葉に耳を澄ませた。 「お前は俺を裏切らない。そうだな」 低い声が、優しく闇に響く。 安っぽい言葉ではなく、高く気取った言い方でもない。 三蔵らしい言い方。 だからこそ、八戒の心に届く。 奥底の、闇にまでも。 「…狡い人ですね、貴方は」 そんな言葉一つで繋がれてしまう。 心が、救われてしまう。 苦笑の裏に見える、嬉しさの声。 冷たい風が髪を揺らす。 撫でるように、慈しむように。 その心地よさに、身を委ねてしまいたくなる。 風か。 それとも、この場所か。 それとも、この太陽の光が (…それが心地よくなったら、ダメなんじゃん) 言うなれば、自分は清一色と同じ。 太陽の光が似合わない場所にいるというのに。 それこそ、『ここにいてはいけない』のに。 「……八戒がいてこその、三蔵一行でしょ」 「…?」 紫苑の瞳がぼんやりと、闇を映す。 八戒が聞き返す中、ただ、口を開く。 「三蔵も、悟空も、悟浄も、八戒も。誰かが欠けても、きっと、色々成り立たないよ。車のパーツみたいに」 四人揃ってこその、三蔵一行。 太陽の、光。 一つの、モノ。 「八戒が八戒じゃなかったら、とっくのとうにダメだったと思う」 悟空が悟空であるように。 悟浄が悟浄であるように。 三蔵が三蔵であるように。 八戒が八戒であるように。 彼らが、彼らであるから。 過去を乗り越えて今があるからこそ、成り立つ方程式。 お互い違う役割を果たすことで成る、一つの、車。 「三蔵一行の中で、八戒にしか出来ないことがあるから、胸張っていいと思う。誰かを、欠かさない限り」 羨ましくも思えるそこに。 そこに、自分の居場所はない。 もしそこに自分の役割があるのだとしたら。 それは荷物であり、ブレーキにしかならない。 太陽を遮る、闇にしか。 「……なんて、俺が言うのも何だけどさ。ごめん、今の忘れて」 三蔵一行でもなく、彼らの過去を知ってるわけでもない自分が言えることではない。 説得力も何もない。 だが、それだけは言いたかった。 自分の入っていないそこに、入っていることだけは。 彼らが、四人揃ってこそ輝いていることは。 紫苑の瞳が映し出す闇。 それは深く、口に浮かぶのは自嘲。 「…………いいえ、ありがとう、ございます」 ポンと頭に置かれた、優しい手。 それがとても優しすぎて。 簡単に揺らいでしまう、心。 八戒や三蔵の顔が、目の前になくてよかった。 不意打ちにも、涙が出そうになったのは。 誰も知らない。 |