「−悟浄、危ない…!!」



しばらくして夜の闇を切り裂いたのは、遠くから聞こえた八戒の声だった。
夜空を見上げていたの身体も、眠っていただろう三蔵の身体もすぐに起き上がる。

分かっていたことだ。
清一色がこのまま終わらせるつもりなどないだろうことを。



「悟空!!」



起きない隣の悟空を勢い良く揺らす。
どうやら眠りが浅かったようで、すぐに金晴の瞳が見開かれた。
意識もスッキリしているようだ。
いつものんびりと起こすとは違い、必死の表情に彼は驚いて口を開いた。



!?」


「行くぞ!!八戒の叫び声が聞こえたから!!」


「ええッ!!?」



飛び起きる悟空の前では三蔵がすぐにジープから降りている姿がある。
急ぎながら歩くのは、そこらに罠が仕掛けられていないかどうか確かめながら行くため。
その後ろを、同じように目覚めた悟空とが小走り。
緊張感が冷たい空気へと振動する。

深い森の中。
星空は微かにしか見えないそこ。
聞こえてきた声を頼りにしながら、注意深く進んでいく。



「−悟浄!!」



八戒の声が再び聞こえた。
どうやら近くのようで、ドサリと何かが落ちたような音も聞こえる。
茂みを分けて進むと、八戒の後ろ姿が見えた。



「−八戒!!何があった!?」



三蔵が声をかけると、八戒は焦りの表情を見せた。
両手は倒れている悟浄を支えている。



「悟浄が…!!」



悟浄に何があったのだろうか。
全員の視線が彼へと集まる。
するど、痙攣を起こすかのように、身体が動き始めた。




「ッ!!」


「−な…!?」



何かに撃たれたであろう傷口から、どんどん血管が浮き出てくる。
それが赤ならまだマシだろうか。
しかし、それは酷く歪な色をしている。



「何だよコレ…!!」



小さく音をたてながら浮き出る血管。
悟空が代表して声を上げる中、は顔を思い切り顰めた。



「…あ…うごあぁあ−あッ…!!」



身体中、くまなく出てくるそれは、気持ち悪いとしか言いようがない。
悟浄は痛むのか、大きな悲鳴をあげた。



「クソッ…血管の中…をっ何かが這い回ってやがる…!!」



症状を言ってる間にも苦しそうに呻き声が出る。
しかし、それだけでは情報として足りない。
はとりあえず、悟浄の浮き出る血管に触れた。



「ーどうなってるんだ!?」


「悟浄ォ!!」



三蔵と悟空が声を上げる中、は冷静になりながらもあちこちを触る。
その間にも浮き出る血管。
血管にはない、力強い硬さを確認してまた顔を歪めた。



「……血管が、硬くなってる……まるで、根の、ような」


「…まさか何かを植え込まれた…!?」



八戒の言葉が、まるで的確のように思える。
それほどまでに、この血管は根を感じさせた。



「種ダヨ!!」


「!」



聞いたことのない人工的な声。
後ろから聞こえたそれに、全員が振り返った。

見えたのは機械のような人形。
見た目はかなり気持ち悪い。
カタカタと鳴るそれは、また次の言葉を紡いだ。



「ソイツノ身体ニ種ヲ植エタノサ。血ヲ吸ッテ血管ニ根ヲハル生キタ種ヲネ!!」



なるほど、そういうことか。
はすぐに悟浄の状態を見始めた。

未だに浮き続ける血管の硬さは、やはり根。
血を吸ってそのまま成長を遂げるのだろう。
種が植え込まれたとするならば、そこは。



「…また妙なところに…」



傷口。
それは悟浄の胸の中心にあった。
場所でいうならば、そう、心臓のすぐ隣に。



「……何だよアレ!?気色悪イっ」


「清一色の使い魔です」


「−!!あの野郎か」



あの人形の正体は、清一色が操るもの。
傷口はわざと心臓の隣。
となれば、話は早い。

彼の目的など。



「ホラ早ク種ヲ殺サナイト、ソイツモコノ森ノ木ノ一本ニナッチャウヨ?ソレトモソノ方ガえころじかるデイイカモネ!!」



気色の悪い笑い声が森を埋め尽くす。
悟浄の呻き声など、可愛いものだ。
その人形曰く、やはり種は心臓のすぐ横に植わっているらしい。



「…てめェ、何が目的だ?」


「…カカカカ…カカカカカ!!」



その笑い声に息を飲んだのは、誰だったか。
恐怖を煽るそれに、誰もがその人形を睨みつけた。



「楽シイ…楽シイヨ猪悟能!!君モハヤクコッチヘオイデヨ!!」



猪悟能。
聞いたことのない名前に、が顔を顰めた瞬間、銃声が人形の笑い声を切り裂いた。
煙が、その砕け散った顔から吹き出ている。



「…三蔵」



人形はもう、ピクリとも動かない。
八戒が小さく撃った本人の名前を呼んだ。
銃をじっと見つめる彼は気付いたのだろう。

清一色の目的。
そして、悟浄の助け方を。



「…いい御趣味だよ。あの変態野郎が」



砕け散ったカケラを踏みつけ、怒りを抑えているかのよう。
はその後姿を見ながら、これから起こるだろう出来事を感じて、傍に横たわる悟浄の手を無意識に握った。
しっかりと握り返すその手の中を、血管の中を根が埋め尽くしていく。



「悟空!悟浄の腕押さえとけ!!」


「え?うんっ」



始まる。

は真剣な表情で、握っていた悟浄の手を悟空へと渡した。
悟浄の頭の上に座り、彼は掴んだ両手を押さえる。
同じように、は悟浄の顔の隣に座った。



「…満足か?清一色。これがてめェの望みだろ!!」



大声で声を出し、振り向く三蔵の手には銀色に光る銃。
その銃口は悟浄の胸へと向けられた。
種の植わっている、そこへと。



「なッ…−三蔵!?何やってンだよ!!」


「−待ってください!!的が小さすぎる…それに例えたねを打ち抜いても心臓へのショックが」


「八戒、俺が撃ったら即、傷を塞げ」



戸惑う彼らをよそに、三蔵は銃創へと弾を詰め込んでいく。
はそんな二人を見てから、出来るだけのんびりと口を開いた。



「…しょうがないしょ。このまま放っておいたら、本気でエコロジカルになるし」


…」



冷静なようで震えているのは、自分の手。
悟空の声と視線を感じながら誤魔化すように、それを拳にする。
無意識にも、その拳は悟浄の服を握っている。
それでも、不安が表情に出ていないことを祈るばかりだ。



「しっかり押さえとけよ悟空!」


「うえ〜マジかよ〜」



紫暗の瞳は鋭く、その傷口を睨みつける。
的を、定めるように。

そしてそれは、の元へと動いた。



「…、てめェは撃つときに舌噛んで死なねェように、そいつに何か銜えさせとけ」


「了解。俺の腕でいい?」


「ああ」



ここは協力的に。

満月の魂の解放はもうすぐだ。
そのときに悟浄の魂を解放するだなんて、嫌な話はない。
勿論、それ以上に死ぬ人を増やしたくはない。
だからこそ協力する。



「俺は絶対に外さん。これで死んだら悟浄のヤワな心臓のせいだ」



弾を詰め終わり、銃創を元へと戻す。
せめて近くでとばかりに、三蔵は悟浄の傍まで歩いてくる。
厭味たっぷりの言葉に、悟浄は青筋を作った。



「…あースッゲムカツクっ。ぜってー死なねえ」


「減らず口を閉じんと舌噛むぞ。…


「あいよ」



三蔵の合図に、は腕を悟浄の口へと突っ込んだ。
歯を黒い羽織り越しに感じてから、ニッと笑ってみせる。



「思いっきり噛んでいいからな。踏ん張って」



紅の瞳と紫苑の瞳がかち合う。
彼のそれは、ゆるりと細められた。
解読するなら「ナマ言ってんじゃねーよ、おチビ」だろうか。

それを見てから、は三蔵を見上げて頷いた。
準備は完了。
銃口はしっかりと、傷口に向けられた。














第1話<<    >>第3話