歓声があがる。

怨み、恨みが一人を倒した瞬間。



しかしそれだけで終わらせない。
恨みはもっと深いのだ。
大切な人たちを殺された恨み。

それだけで晴らされるものではない。


このココロは


終ワラセナイ




「よし、そのまま切り刻め!!!」


「跡形も残らないように、燃やしてしまえ!!!」


「灰も残らないようにして!!!」



身体を残すことも許さない。
むしろ自分達にも斬り刻まさせろと声をあげる。
各々、武器を持って。

を刺した青年はそんな町民を見て、ニヤリと笑っていた。
己の持つ銀色が紅に染まり、温かった液体が空気で冷めて冷たくなっていく。
その感覚が憎しみを増長させた。


じわじわと、全員が倒れたに近寄っていく。
誰かから渡されたはずのリンゴが、ぐしゃりと潰れる音がした。



「ッヤメロォォォォォォ!!!!!!」



悲鳴のように、その歓声の中から一つの声があがっている。
青年はそれに気付きながらも。
何も言わずにそのまま立っていた。


誰も止まりやしない。
さすがに怒りを隠せなくなってくる。
悟空と悟浄は力ずくでそこらに群がる人々をどかしていく。
それでも止まらない人の波。

伸ばされた手は、届かない。



ーっ!!!!!!」



悟空が精一杯叫ぶその声すら、呑まれるだけ。
刺した青年が誇り高く、紅に染まったナイフを空へと掲げる。
そこに怒涛のような歓声があがった。


死んだ、のだろうか。

また、会えるって。
すぐにその宿屋で会って、この荷物を渡そうと。
思って、いたのに。

それすらも。


幻となっていく。



グラグラと揺れる視界。
真っ暗になっていく心。
まだ脳裏には、元気な姿のがいるのに。


ここではもう







パァン




大きな乾いた音が、声を切り裂く。
乾いているというのに、どこか重いその音。
それが宙へと放たれたとき、罵声と歓声はすぐに静まり返った。

全員が、その音源を探って目を見開かせた。
町民達は驚愕と恐怖に包まれる。
逆に、その波を掻き分けていた三人はどこか安堵を覚えた。
真っ黒になっていく心に一筋の光を感じて。

掲げられた銀の銃から煙があがる。
曇っている、空へと。



「ギャアギャア五月蝿ェんだよ」



普段よりも低いその声が聴覚を支配する。
見える紫暗の瞳は心を貫く。
銀色の銃は、町民達へと向けられた。

ヒッと誰もが恐怖に身を委ねる中、三蔵はそのまま口を開いた。



「退け」



たった一言。
逆らえない、命令。
それは視覚聴覚感覚から、脳へと直接命令が下される。
町民達は何も言えずに、そのまま道を開けた。

開けた視界。
四人はそこを凝視した。

そこにいたのは、ナイフを掲げた手を下ろし、振り向く青年。
白いシャツは紅に染まり、それと同じ色に染まった銀色のナイフと右手が何をしたかを証明する。
しかし、抗えない恐怖に対峙した町民達とは違い、青空の瞳は酷く冷え切っていた。


そしてその下に。

うつ伏せに倒れている銀の髪が見える。



っ!!!」



誰だ、なんて分かった話。
悟空はそれを見るなり走り出した。
ナイフを持つ青年には目もくれずに、骨折も気にせずに。
八戒も後ろから急いで駆けていく。

逆に、悟浄は刺した青年を睨みつけながら、三蔵と一緒にゆっくりと開けた道を歩く。
町民一人一人の微々たる行動をも見逃さないように。
すぐに対応できるように、と。



!!」



悟空はすぐにうつ伏せの状態から仰向けへと抱えて動かした。
金晴の瞳に映ったのは、ピクリとも動かない
地面は紅の生温い液体に染まっている。

青白い肌。
開かない紫苑の瞳。
そこから流れる透明な滴。
口から伝う液体。
黒い羽織りの下、白い小袖は腹部を中心にその色に染まる。



…しっかりしろよ、!!」


「悟空、見せてください!」



の身体を支え、抱きしめている悟空を見つつも、八戒はすぐに容態を確認した。
息はある、脈もある。
まだ、死んではいない。
だが、それは微々たるもので。



「とにかく傷を塞ぎます!!」



それしか今は出来ない。
八戒の両手はの腹部へとあてられて、淡い光が溢れ始める。
治癒のための、気功。

傷がどんどん塞がっていく。
しかし、止まっていた町民はここぞとばかりに瞳を狂気へと変えた。



「オイ!何治してくれてんだよ!!」


「そいつを殺すために、私達はずっと待っていたのよっ!!?殺して!そいつを殺して!!!」


「殺せ!!殺せ!!!」



異様な空気がまた世界を包み込む。
この世に、それしか言葉がないのではないかと思えるほどの、殺せという言葉の数。
罵声。

しかし、八戒は治癒の手を止めない。
悟空もしっかりとを抱きしめている。

もう手放しはしない。



「…『死神』を庇うのなら、お前らも敵だ」



殺気を纏った声が、頭上から小さく降り注いだ。
金晴の瞳は青空の瞳を見上げる。
冷え切ったそれは、もう青空とは呼べない色をしていた。

あの宿屋を紹介してくれた、優しい青年の面影すら。
どこにもない。



「死ね」



右手に持っていた、血に染まったナイフが動く。
振り上げられて、八戒の背中へと下ろされる。

しかし、悟空は何も言わなかった。
八戒も分かっていながら、動かなかった。
その必要が、なかったからこそ。



「…っ!!?」



パシリッという小さな音が響く。



「いい加減にしとけって」



振り下ろされた手は、違う手によって阻止されていた。
それは力強く、彼の手首を握る。
青空の瞳に映ったのは、シャツを染める色と同じ紅。
その色を持つ、青年が見下ろしていた。



「俺が止めてなきゃ、アンタ、今頃イってたぜ?」



その向こうには、銃口を向けた紫暗の瞳。
人差し指はしっかりと引き金へとあてられている。
また罵声が広がる中、三蔵はそのまま、空を撃った。



「ウルセェっつってんだよ…三度目はねェぞ」



意味は、分かる。
ギラリと光るのは銃ではなく、紫暗の瞳なのだから。
町民が誰一人として口を開かなくなる。
しんと静まる中、白竜がジープへと姿を変えた。

そこに、悟浄は持っていた荷物を放り投げた。
落ちた音が、酷く響く。
三蔵はそのまま、自分の定位置である助手席へと乗り込んだ。
煙草を、ふかせながら。



「オラ悟空、お前も乗れ。おチビは俺が運んどくから」


「…ん」


「八戒、お前は後部座席に乗って治療続けてろ。俺が運転すっからよ」


「はい、お願いします」



悟浄が悟空の頭をグシャグシャに撫で、乗車を促す。
髪をあちこちにハネさせた悟空は、支えていたの肩を託す。
悟浄はそのまま、身体を持ち上げた。
出来るだけ、体制を崩さないように、傷を開かせないようにゆっくりと。

八戒は一度気功を止めて、悟空の隣、後部座席へと座る。
その上に、の身体が下ろされた。

途端、開始される治療。
悟空もまたの頭を抱える。



「邪魔したな」



悟浄は軽くそう言って、運転席へと乗り込んだ。
エンジンを入れて、ハンドルを切る。

自分達が来た入口とは逆の、入口へと出向くために。




「……あんたら、一体コイツの何だってんだ…っ!!!」



静寂の中、刺した青年がそう叫ぶ。
四人はしっかりと狂気に歪んだ彼を見つめて。
代表して、三蔵がゆっくりと口を開いた。


との関係だとか何だとか。

そんなもの




「知るかよ」








そうとだけ口にして。

ジープは入口へと走りだした。














『死神』への復讐を糧に生きてきた町民達はそこに立ち尽くすことしか出来ないでいた。
土煙あげて走る、ジープを、見送るしか。

行き場をなくした感情。
この想い。

それを、一体、どこにぶつければいいのだろうか。



「…んで」



脳裏を過ぎるのは、大好きで大切な人だというのに。
彼らはもういないというのに。

アイツのせいで。
でも、アイツは生きていて。
しかも、あんな仲間みたいな彼らと一緒に。



「なんでそいつがのうのうと生きてんだよォォォォォォォォ!!!!!!!!!」



紅に染まった琥珀の町はもうない。
どこにも、ない。

大切な人も。

どこにも。




青年の嘆きは曇り空へと響いた。
それは、神にも届かない。
悲しい嘆き。






町民達が絶望に陥る中。
影からその様子を見守っていた一人の少年が、ジープが消えていった場所へと足を動かした。

銀の髪と黒い羽織りを、靡かせて。

そこへと至る、近道を抜けて。


目指すは、『死神』の元。













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